アメリカスポーツ医学会(ACSM)が、2009年以来17年ぶりに、レジスタンストレーニングに関するPosition Stand(公式見解声明)を大改訂した。137件のシステマティックレビューを統合し、3万人超の参加者データを基盤としたこのガイドラインは、ACSMがこれまでに発行した単一文書としては史上最も包括的なエビデンスベースの指針となる。2026年4月号の『Medicine & Science in Sports & Exercise』誌に掲載された本論文は、今後、日本のフィットネス・ウェルネス領域の事業者のトレーナー教育、パーソナルトレーニング、運動処方の実務などに広く影響を与えていくことは間違いない。我々にとって、このニュースは「知っておくだけ」では不十分だ。現場の指導にどう落とし込むかが問われている。

キーメッセージは、“完璧より継続”

今回の改訂を一言で表すなら「完璧より継続」だ。ACSMが発するメッセージの核心は明快だ。最も意味のある成果は、レジスタンストレーニングを「やらない」状態から「何らかの形でやる」状態へと移行することから生まれる、というシフトの提示である。

負荷・ボリューム・頻度といった変数は微調整できる。しかし、一般成人にとっての最優先課題は、プログラム設計の精緻さではなく「継続的な習慣化」だという立場が明確に打ち出された。ドロップセットかストレートセットか、追い込むか否か、フリーウェイトかマシンか―こうしたこだわりには一貫した差が見られなかったとされており、長年議論されてきた“神聖な論点”の多くが、少なくとも一般の健康的な成人においては、成果を左右する決定的要因ではないと整理されたのだ。

これは日本のフィットネスクラブなどのトレーナーにとって、ある意味で解放的な知らせでもある。複雑なプログラムを組むことではなく、基本を継続できるようにする指導設計こそが価値の源泉だと再確認されたからである。逆にいえば、一般成人にいきなり高負荷を強いるような指導をすることは、不適とされるということだ。

実務に効く改訂の主要ポイント

改訂内容のうち、現場で特に押さえておきたいのは次の4点だ。

第一に、強度の測定指標が従来の「%1RM(最大挙上重量に対する割合)」から、RIR(Reps in Reserve=あと何回できるか)へと移行した。「バーベルの重さ」ではなく「その人にとっての努力度」を基準にする発想への転換である。初心者や高齢者にも扱いやすく、安全性と個別最適化の両立に寄与する。

第二に、筋肥大に関しては週あたりの筋群別ボリュームがカギとなる。週10セット以上のボリュームを確保し、努力度が十分であれば、負荷の絶対値は制限要因にはならない。最低ラインは週2回以上、主要筋群をカバーすることである。軽い負荷でも筋肥大は十分に可能という点は、指導現場の設計自由度を大きく広げる。

第三に、バンド・自重・家庭でのトレーニングでも、筋力・筋肥大・機能

的パフォーマンスに明確な改善が得られることが明確に認められた。ジム来店が前提でなくなることは、事業者にとっては脅威にも機会にもなり得る重要な論点である。

第四に、追い込み(筋疲労)、器具の種類、複雑なピリオダイゼーションは、一般の健康的な成人では成果に一貫した差を生まなかった。私たちトレーナーが対象としているのは、自分と同じようなアスリートではなく「一般の健康的な成人」である、という原点の再認識が求められる。

GLP-1時代の除脂肪体重保護と、私たちの役割

もう1つ見逃せないのが、GLP-1受容体作動薬(いわゆる“やせ薬”)による体重減少時の、除脂肪体重保護への言及だ。アメリカですでに急拡大し、日本にも波及が予想されるこの潮流には、減量に伴う筋量喪失を防ぐ具体策として、エラスティックバンドや自宅ベースのトレーニングでも実際の筋力・筋肥大の向上が得られ、週2回・全主要筋群カバーが最低ラインとなることが、処方根拠として提示された。

GLP-1は食欲を抑制して体重を減らす一方、筋量もロスさせる。だからこそ、レジスタンストレーニングとのセット処方が合理的であり、フィットネスプロフェッショナルの役割はむしろ拡大する。医療との連携機会も広がっていく。これは事業機会として極めて大きい。

ACSM公式サイトではインフォグラフィックやスライドデッキも公開されている。スタッフ教育や顧客啓発にぜひ活用していただきたい。正しく知り、正しく伝え、適切な指導サービスへつなげる――それが私たちの仕事の価値を一段高める機会になるはずだ。