愛知県で総合型フィットネスクラブを中心に28店舗を展開するアイレクススポーツライフ(本社・愛知県豊川市、代表取締役・笠原盛泰氏)が、韓国のフィットネステクノロジー企業DRAX社と共同開発したAIフィットネスジム「ILEX AI GYM 24(アイレクス AI ジム24)」を、2026年9月、豊橋駅在来線改札口横にオープンする。

1日約7万人が行き交う"駅ナカ"の好立地に延床面積わずか58.4坪の小型店を構え、24時間営業・スマート入退館・土足利用・最短30分設計を採用。AIが一人ひとりに最適な運動プログラムを提案する一方で、トレーナーによるサポートとホスピタリティを組み合わせた「ホスピタリティ×AI」を掲げる、同社初の試みだ。

未顧客の捉え方から立地戦略、AIの実装、継続の仕組み、共同開発の舞台裏、投資回収と今後の展開まで、笠原氏に聞いた。

「セルフだけではクオリティがない」─小型化時代に、アイレクスが出した解

総合業態だけでは、多様化する地域の健康ニーズにきめ細かく対応できない。特に、従来の顧客層と被らない、いわゆる未顧客層に対応していくには、新しい発想が必要だ。こんなふうに考えている既存事業者は多いのではないか。同社もそう考え、新業態・新サービスを、この間、ずっと模索してきた。

そこで、笠原氏が着目したのが、コロナ後に加速したフィットネス市場の構造変化だ。気軽に筋トレができる小型・低価格の業態が次々に登場し、市場を席巻しつつある。これに対し同氏は、「アイレクスは常にクオリティを柱にしたい。だからといって、総合クラブの開発を積極的に推し進めるというわけではなく、小型でもアイレクスなりにクオリティのある業態をどう作れるか」を問いの起点に置いた。

ここで同氏が引いた一線が、明快だ。「単にマシンだけを置いてセルフでやるということでは、そこにはクオリティがない」。そこで目を付けたのが、AIによる運動指導と、それを支える人の存在を掛け合わせる発想だった。完全無人ではなく、AIの指導を自社トレーナーがサポートし、そこにホスピタリティを付加する。「ホスピタリティ×AI」という同社らしいコンセプトが、ここで固まった。

「運動を始めたいが何をすればよいかわからない」「忙しくて運動時間を確保できない」「ジムに入会しても継続できない」といった生活者の課題は、いずれもこのコンセプトの裏返しでもある。働き方やライフスタイルの変化で、より短時間・効率的に使える施設へのニーズが高まる—その未顧客層に、クオリティを落とさずどう応えるか。本業態はその回答として開発されたのだった。

1日7万人の動線に"健康"を埋め込む─駅ナカという立地の思想

出店地は、豊橋駅在来線改札口横の東西連絡通路。旧JR東海ツアーズの区画で、券売機のすぐ横、元々はみどりの窓口として利用されていた場所という、文字どおり"改札真横"の絶好のロケーションだ。笠原氏は「ここを1日およそ7万人が通る」と立地のポテンシャルを語る。

この場所選びは、単なる集客上の有利さにとどまらない。「運動するためにジムへ行く」のではなく、「日常生活の中で自然に健康になる」という利用スタイルへの転換が思想の核にある。通勤・通学・買い物の"ついで"に立ち寄れる健康インフラ。それを成立させるために、24時間営業、スマート入退館、土足利用可、標準で45分の利用設計といったオペレーションが組まれている。郊外型・駐車場型を軸に地域密着で広げてきた同社にとって、駅近・駅ナカ・小型への挑戦は立地開拓そのものの転換でもある。

さらに、同氏が強調するのが、広告塔としての価値だ。「ビルボードを3枚出せば年間何百万円とかかる。その動線のど真ん中に店舗があること自体が、すごい宣伝効果になる」。実際、別の取り組みで露出を高めた際には既存店の入会増につながった経験もあるといい、駅ナカ店は28店のブランディング装置としても位置づけられている。正面には86インチの大型デジタルサイネージを設置し、館内の様子、グループ28店舗の紹介、スタッフ募集などを数分単位で切り替えて流す構想だ。

利用時間の打ち出しについても、顧客の課題や期待に対応するために、対象とする顧客セグメントによって短時間でのトレーニングができるメリットも打ち出していく方針だ。DRAX社は科学的エビデンスに基づき、有酸素20分以上を含む45分以上のプログラムを推奨する立場だが、通勤動線という特性を踏まえれば「15分、20分のショート利用」を歓迎する設計も有効ではないか—との考えを、同社は持つ。「ショートプログラムもあっていい」。同氏は、こう述べ、短時間でのトレーニング提案にも前向きであり、オープンまでの間に、運用面での出し分けを、急ぎ詰める。

チェックインだけで最適メニューが出る─AI提案の実際

利用者の体験フローはシンプルだ。まずはアプリをダウンロードして登録。入会時に約26項目の質問アンケートに答え、目的や運動習慣などを入力する。以降はチェックインするだけで、その日の目的や利用履歴に応じた運動プログラムが提示される仕組みとなっている。標準は45分程度のメニューだが、30分~45分といった所要時間も入会時の回答に応じて最適化される。

メニューは「ストレッチ」「有酸素」「筋トレ」「コンディショニング」の4カテゴリーに分かれ、それぞれに最適化された内容が出てくる。導入マシンは有酸素も含め全30台、種類は20種類以上。中核はウェイトマシンで、画面のモデルと同じ動きをなぞる「MIRROR」、ピラティス的なストレッチ系の「GoFlex」などを組み合わせる(*今回、フリーウェイトは設置しない)。マシンの重りには光によるガイドが付き、指示された位置に挿し込めば設定が完了する設計で、初心者でも迷わずに使うことができる。

測定・評価面では「GoTest」を用意。体組組成や血圧などを月1回程度測り、プログラムの調整に反映する。強度が合わない場合は利用者自身が下げることも、管理側で調整することも可能だ。そして、実施したデータは継続的に蓄積され、利用するたびにAIが学習・最適化していく。ベースとなるのはDRAX社独自の「RAXシステム(ラックスシステム)」で、これをアイレクス向けにカスタマイズしている。


続けることができる"見えない仕組み"─データと人の介入

「実は継続性こそが難しい」。笠原氏は繰り返し、そう語る。「施設が綺麗で、通いやすくて、ホスピタリティがあって人にやさしく、それでいて楽しい。そうでないと、続かない。この継続のしやすさへの工夫こそ、我々アイレクスのノウハウ」。人もハードも運営もAIも、すべてが継続のためにある、という認識を持つ。

ビジネスモデルを構成するバリューチェーンを支える裏側の仕組みとしては、まず会員一人ひとりの累積トレーニングデータを管理画面で確認できることが挙げられる。そのデータを起点に、スタッフが「もっとこうした方がいい」とアドバイスを行い、アプリ内で連絡することも可能。会員から直接は見えないが、この介入の設計が継続率を左右する。

加えて、同氏が重視するのが、人と場のクオリティだ。24時間営業であっても、顧客によっては人の介入が欠かせないとの経験からの知見を活かした運営をしていく。

同店でも、既存店で取り入れている会員同士の挨拶を奨励し、会員規約や(それに違反した場合の)イエローカードの考え方を整える方針だという。「クオリティクラブと言うからには、会員のクオリティも大事」。

一方で、離脱可能性の高い会員の検知については現状の課題も率直に語られた。

「いつも通っていた人が来なくなったらアラートが立つ」といった機能は現時点では未実装で、韓国の開発チームに要望を伝えている段階だ。先方も機能の重要性に同意しており、近い時期の開発が見込まれるという。入会時に26項目アンケートから離脱可能性の高い会員を入会段階で特定し、最初から介入していくといった取り組みや蓄積データを「どうすれば継続するか/退会を防げるか」の資産に変えていくといった発想は、本業態にとどまらず既存店にも還元しうるテーマといえよう。

ソウル大発エンジニア集団との"意気投合"─共同開発の舞台裏

役割分担は明快だ。DRAX社がAI運動提案システム、IoTエクササイズ機器、アクセスコントローラー、デジタルロッカー、キオスク端末などの最先端デジタル制御機器を担い、アイレクスがオペレーションとホスピタリティ、継続のための運営ノウハウを担う。プレスリリースによれば、これらを統合し全機器を一体導入した店舗は「DRAX Fitオールインワン」として国内初(2026年6月時点・DRAX社調べ)となる。

両社が組めた背景を、笠原氏はこう説明する。DRAX社はオーナー企業で、規模もこれから伸びようという段階。市場にまだ無いものを世に出そうとする志が、アイレクス側の試みと一致した。中核を担うのはソウル大学工学部出身の優秀なエンジニア集団で、「開発型の人たち」。だからこそ意気投合できたという。同氏自身も韓国の工場を視察し、鉄パイプの段階から縫製まで自社で一貫製造する"マシンのSPA"とも言える体制に驚かされたと振り返る。「部品を集めるのではなく、全部を自社製品で作り上げる。開発と製造のスピード感がとにかく速い」。

この機動力は開発現場でも発揮された。半年以上をかけて細部のカスタマイズに応じてもらい、「普通はなかなかしてくれないところまでやってくれた」。やり取りはカカオトーク上で、AI翻訳を介して韓国語で進める。「これをこうして、と言うとすぐに『できました』と返ってくる」という。そして他社が容易に模倣できない核心は、技術そのものより「ホスピタリティ×AI」、すなわち人の介入を伴う運営力にあると同氏は見る。

「AIフィットネスは無人ではダメ。人がいて、AIをうまくサポートできるところが、うちの良さ」。
同社とDRAX社の相性は、良さそうだ。


投資5〜6千万円、回収4年半─広告塔としての出店と、今後の展開

投資額は5,000万〜6,000万円規模。回収は4年半を見込み、損益分岐会員数は450名、目標は600名と設定している。料金は24時間使えるレギュラー会員が月6,900円、ナイト/デイタイムが5,900円の3パターンで、平均単価は6,300〜6,400円程度を想定している。

既存店との関係は、競合ではなく補完だ。豊橋駅コンコースという露出は、前述のとおり既存28店のPR・ブランディングを高める"広告塔"としての性格が強い。郊外でクオリティクラブを展開してきたアイレクスが、駅のど真ん中に出る—その象徴性こそが狙いの1つでもある。

今後の展開について、笠原氏は複数の方向を描く。第一に、出店コストが抑えられる50坪クラスの小型店としての多店舗展開。第二に、総合クラブの新規エリアにAIフィットネスを導入し、集客と魅力づけの新たな手段とすること。第三に、既存店のブラッシュアップや商品力向上、「ライト」「マイスタイル」といったジムスター型エリアの活性化への応用だ。 

いずれにも共通するのは、無人化ではなく「人がAIをサポートする」というアイレクス流の運営思想である。豊橋駅という固有の好立地をどう一般化していくか—その実証の第一号店が、9月、改札の真横で動き出す。

<施設概要>
施設名称:ILEX AI GYM 24(アイレクス AI ジム24)
所在地:愛知県豊橋市花田町西宿(旧JR東海ツアーズ区画)
施設位置:豊橋駅在来線改札口横 東西連絡通路
延床面積:192.73㎡(58.4坪)
開業予定:2026年9月
営業時間:24時間
URL:https://www.ilex-sports.com/ai-gym/toyohashi/