世界で急速に存在感を高めるHYROXと、グループフィットネスの世界的リーディングカンパニーであるLes Millsが、クラブ向けグループトレーニング領域で世界最大級のパートナーシップを結んだ。
日本でもHYROXへの注目が高まるなか、Les Mills Japanは「CEREMONY HYROX」「CEREMONY HYROX MAX」を展開していく。
新たなレース文化を、クラブの新規会員獲得や会員定着、競合との差別化へとつなげる可能性を探る。
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Les Mills Japanカスタマーエクスペリエンスマネージャー河村大地氏
世界で急伸するHYROX日本にも大きな波
「まず、なぜ今、クラブがHYROXに注目すべきなのか。そこを数字で見ていただきたいと思っています」
そう穏やかに切り出すのは、Les Mills Japanでカスタマーエクスペリエンスマネージャーを務める河村大地氏。しかし、その言葉の先に示された数字は、決して穏やかなものではない。HYROXの2026/2027シーズンには、世界で200万人以上がレースに参加する見込みで、世界のマラソン完走者数の約2倍に相当する規模にまで成長しているという。
その勢いはアジアでも顕著だ。2027年には日本で4つのHYROXレースが予定され、同年6月には香港でアジア初となる世界選手権が開催される予定だ。さらに香港大会の完走者数は、2022年の764人から2026年には1万7,000人超へと増加。わずか4年間で20倍を超える伸長を遂げている。
「競技としての成長スピードは、私たちの想像を超えていると思います」
河村氏がそう語る背景には、単なる一過性のブームではなく、フィットネスの価値観そのものが変化しているとの認識がある。また、若いフィットネス消費者の60%以上が「挑戦」「上達」「目に見える成果」を求めているという。HYROXは、トレーニングの成果をレースという明確な目標につなげられる点でも、現在の消費者ニーズと親和性が高い。

需要はすでにクラブの中にある
では、HYROXの成長はフィットネスクラブに何をもたらすのか。河村氏が特に強調するのが、92%と95%という2つの数字だ。
HYROX完走者の92%は、すでに何らかのジムに通っているという。つまり、HYROXの潜在顧客は、必ずしも新たに市場を開拓しなければ見つからない存在ではない。「今いるお客さまのなかに、HYROXに挑戦したい方がいるのではないか」と同氏は指摘する。
さらに、HYROX出場者の95%が「またレースに参加したい」と回答している。レースという明確な目標が次の挑戦を生み、そのためのトレーニングが継続利用につながる可能性がある。河村氏がHYROX導入によるクラブへの価値として挙げるのは、①新規会員の獲得、②会員定着率の向上、③ブランド力の向上の3つだ。
まず、HYROXという強いブランドそのものが新たな来館動機となる。若年層、パフォーマンス向上を目指す層、レースに参加したい層など、従来のクラブ訴求だけでは取り込みにくかった層との接点をつくれる。
次に、レース出場や自己記録更新という目標が、継続する理由になる。加えて、仲間と一緒に挑戦できることも大きい。レースへの参加を通じて新たなコミュニティが生まれれば、施設との関係性は単なる「運動する場所」から「目標を共有する場所」へと変わっていく。
そして3つ目が競合との差別化だ。「HYROXトレーニングをするなら、このクラブ」と選ばれるポジションを築けるかどうか。河村氏はHYROXを「単なる新しいレッスンではなく、会員に選ばれる理由をつくる仕組み」と捉えている。

世界最大級の提携が生む新しい選択肢
こうしたHYROXの成長を、クラブの現場へ落とし込む役割を担うのがLes Millsだ。
ニュージーランド発のLes Millsは、グループフィットネスを世界100カ国以上、約2万クラブで展開し、日本でも1,000を超える施設にプログラムを提供している。国内では4,300人を超えるインストラクターが活動するなど、単にプログラムを供給するだけではなく、インストラクター養成、マーケティング、運営ノウハウまでを含めて提供する仕組みを構築してきた。
2026年4月、Les MillsとHYROXはグローバルパートナーシップを発表。公式グループトレーニングプログラムパートナーとして、共同でのトレーニングプログラム開発、HYROX公式ブランドのクラブ向けクラス、様々なターゲットを対象としたコミュニティの共同構築などを進めていく。
そして、その具体的な形として登場するのが「CEREMONY HYROX」と「CEREMONY HYROX MAX」だ。
「HYROXはブランドとレースの熱量をもたらし、Les Millsはその熱量をスタジオに広げる仕組みを提供する」
今回の提携を象徴する河村氏のこの考え方こそ、クラブ経営者が捉えるべきポイントだろう。

初心者から競技志向までを1つの導線に
まずCEREMONY HYROXは、45分間で8つのステーションを回りながら、カーディオ、ストレングス、パワーを組み合わせるサーキット型プログラムだ。HYROXに着想を得た動きを取り入れながら、フィットネスレベルに応じて強度を調整でき、レース未経験者や初心者も参加しやすい設計となっている。Les Millsならではの音楽やコーチング、コミュニティ性も特徴で、既存のツールを活用できるスタジオバージョンも用意されている。
一方、CEREMONY HYROX MAXは、より競技志向の強い会員を対象とする。ウォールボール、スレッドプル、キャリーなどレースに通じる動作を取り入れ、段階的に強度を高めるインターバルトレーニングやペアワークによって、レースに向けたパフォーマンス向上を狙う。こちらもフル設備版に加えてスタジオバージョンが用意される。
ここで重要なのは、すでにHYROX 365を導入しているクラブにとっても、これらが置き換えではなく補完関係にあることだ。
HYROX 365は、レースに出場するアスリートや競技志向の高い層を主な対象とする。一方、CEREMONY HYROXは、コーチングや音楽によって動機づけられる一般会員まで対象を広げる。つまり、一部の熱心な会員だけでなく、より幅広い会員をHYROXの世界へ誘う入口になる。
「いろいろなレベルのプログラムがあることで、スタジオ全体の活性化につながると考えています」
河村氏が紹介するニュージーランドでの実証でも、CEREMONY HYROX MAXをきっかけに、他のグループフィットネスプログラムへ参加する流れが生まれているという。HYROXを「一部のアスリートのもの」で終わらせない。その裾野を広げることが、Les Millsの役割でもある。

強いプログラムを「続く仕組み」に変える
Les Millsの強みは、プログラムそのものだけにない。
ニュージーランドのLes Millsジム会員5万8,000人のデータでは、グループフィットネス会員は、それ以外の会員と比べて平均在籍期間が22%長い。また、週3回以上トレーニングする会員では、平均在籍期間が約50%長いという。さらに、CEREMONY HYROX MAXをきっかけにグループフィットネスへ初参加した会員が25%、地元開催のHYROXレースに出場した会員が15%というデータも示されている。
もちろん、これらは日本市場での実績ではなく、Les Mills New Zealandにおけるデータである。しかし、河村氏は「日本でも、これから各社さまと一緒に取り組みながら、様々なデータを取っていきたい」と語る。その言葉には、完成した答えを日本へ一方的に持ち込むのではなく、クラブとともに市場をつくっていこうとする姿勢がにじむ。
Les Millsは、3ヶ月ごとにコリオグラフィーや音楽を刷新したニューリリース、画像や動画などのマーケティング素材、グループフィットネス運営のノウハウ、年間を通じたプログラム設計など、総合的なフィットネスソリューションを提供する。
「英語で提供されるものを、そのまま日本へ持ってくるわけではありません。日本のマーケットに合わせて翻訳し、調整したうえで研修を行います」
取材後、河村氏は今後の導入スケジュールについても丁寧に説明してくれた。10月にクラブカスタマー向け体験会を実施し、11月をめどにインストラクター養成のための研修を開始する。そして12月をクラブから会員への告知期間とし、2027年1月のプログラム提供開始を目指す。
「お客さまから『早くやりたい』という声があれば、できるだけ早く応えたい」
そう話す河村氏の姿からは、単に新プログラムを販売するのではなく、クラブの現場で成果を生み出すことへの強い意志が感じられた。
HYROXの成長は、すでに始まっている。そして、クラブにとって重要なのは、その熱狂を傍観することではない。自クラブの会員に新しい目標を提供し、新しい仲間を呼び込み、継続する理由をつくり、「HYROXトレーニングをするなら、このクラブ」と選ばれるポジションを築けるかどうかだ。
2027年、日本で複数のレースが開催され、アジア初の世界選手権も控える。市場が大きくなる前に、その受け皿をつくる。Les Mills× HYROXは、単なる新プログラムの導入ではなく、クラブが次の成長機会を取り込むための1つの起爆剤になり得る。