石川県野々市の「ゴールドジムV10(ヴィテン)ののいち」は、フィットネス会員の利用率50%以上、退会率2%以下という驚異的な実績を誇る。郊外エリアという立地を最大に活かし、ジムエリアの他にもプール、クライミングエリアなどを併設し、2025年にはゴールドジムとしても世界初となるレジャースポーツエリアをクラブ内に新設。会員に会費内で開放する試みを開始した。スポーツクラブという枠にとらわれず、様々な施策を次々に実現するその行動力、着想力はどこからくるのか。事業オーナーである株式会社ヴイテン 代表取締役 新保大志氏に訊いた。

28%だった利用率が50%以上に

「ゴールドジムV10ののいち」は、2004年12月に「V10ののいち」としてオープンし、2018年にゴールドジムのFCとなった。特筆すべきは、その充実した設備と規模だ。メインとなるジムエリアは3、4階にまたがり、4階のジムエリアは約1,000㎡。60名収容可能な3つのスタジオでは、週140本ものレッスンを提供している。施設設備も充実しており、レッスンプールの床は10 〜180㎝の可動式で、あらゆるシーンで活用できる体制が整う。温浴ゾーン、クライミングエリアなど、充実した設備を誇るほか、建物内には医療施設、美容系施設。敷地内に併設し保育所も開設してきている。ジムの運営において新保氏は、売り上げよりも、既存会員の利用率向上に徹底的にこだわっているという。利用率が高まれば当然、施設のキャパシティは厳しくなる。来館する会員数に施設が対応できなければ、使いたい器具が順番待ちで使えない、待ち時間が多いなど、かえって顧客満足度が損なわれるリスクも高まる。にもかかわらず、ここまで利用率に徹底的にこだわるのはなぜなのか。

「地域に根ざし、生き残るためには、圧倒的に選ばれる施設を作らなければならないという思いがあった」と新保氏。利用率が高いということは、その施設が顧客の生活と融合しており、欠かせないものとなっている証。キャンペーンなどを打てば一時的に会員数は増えるかもしれないが、満足いただけなければ退会されるだけ。しかも一度離れてしまったら二度と戻ってこない可能性も高い。指標として定めるべきは入会率や会員数ではなく、利用率だというのが新保氏の考えで、「売り上げ、会員数も大事だが、とにかく利用率を上げることを重要テーマとして社内でも言い続けている」。

V10オープン当初の利用率は28%ほど。この数値を高めるために、2009年には温浴ゾーンを改修し充実を図った。「水風呂を3種類、サウナも2種類を用意しました。温泉も天然直送の露天風呂に加えて、ジャグジーや炭酸風呂なども用意し、できるだけ順番待ちが起こらないよう、カランやシャワーブースも広く設け、混雑緩和に努めました」。またレンタルコミックやDVDの無料貸し出しなどのサービスも開始。こうした施策により、利用率は右肩上がりに上がっていく。

「目指したのは、とにかく会員さまの生活の動線上にV10を置くこと。“ちょっとお風呂でゆっくりしよう”とか“あの映画見たいな”といった、スポーツと離れたところでもV10を利用していただけるようにと考えてきた」

頭打ちになった利用率を高めるためゴールドジムのフランチャイズへ

様々な施策を打ち出していくが、利用率は40%で伸び悩んだ。その傍ら、数年前から、フィットネス業界では24時間営業のジムが市場を席巻するなど、市場の勢力図が大きく書き換わるほどの転機が訪れる。この大変化の波を乗り越えるため、ジムそのものを強化する必要があると考えた新保氏。そこで選んだのが、 世界的なフィットネスブランドであるゴールドジムだった。

「フィットネスクラブに来る方の動機はそれぞれですが、ジム側としては、危機感をあおるようなマーケティングはしたくなかった。その点、ゴールドジムは“憧れの自分になりたい”というポジティブな思いで選ばれ続けている。このハードコアなブランドイメージが、私にはとても輝いて見えました」

新保氏は株式会社THINKフィットネスに熱烈にアプローチし、ゴールドジムのFC加盟店として念願の再出発を果たすことになった。当初新保氏は「V10ののいち」の名を捨ててもいいという覚悟だったが、ゴールドジムがそうさせなかった。「“地元に根付いた名前を残そう”と言ってくださり、『ゴールドジムV10ののいち』という名で再出発をすることができました。これは、非常に嬉しくありがたいご提案だった」

このFC加盟への転換によってジムの利用率は50%を超える。しかし、ここで満足はできない。今後強力な競合が台頭してきた際にも生き残れる施設であるためにも、利用率70%以上をキープすることが目標だという新保氏。「利用率が上がれば退会率は反比例して下がるはず。今、当施設の退会率は1.7 〜1.8%。利用率が70%を超えてくれば、退会率も1%を切るはず」

ゴールドジムとしても初となる「レジャースポーツ」を導入へ

ゴールドジムブランドをそのままに、THINKフィットネスとタッグを組んで新保氏が新たに打ち出したのが、レジャースポーツの導入だ。2025年4月にレジャースポーツゾーンを新たに新設し、ボウリングレーン、ローラースケートエリア、ゲームコーナーなどを導入。月額会費のみで、これらの施設を無制限(要予約)に利用できるものだ。この試みはゴールドジムのブランドとしても初のことで、ドイツ本社からも視察が訪れるほど注目されている。

そもそも、レジャースポーツとスポーツクラブを融合させるというのは、ゴールドジムを日本で運営しているTHINKフィットネスの手塚栄司代表取締役社長のアイデアによるところが大きいと、新保氏は語る。「フィットネスクラブのビジネスモデルに対して、子どもの頃から『幽霊会員からも同じお金をいただいている』という強いコンプレックスを感じていた。このビジネスモデルに乗り続けるのであれば、せめて使えるコンテンツを豊富に用意することが、V10 の使命だと思ってやってきた。そんな中で、“レジャースポーツをサブスクで利用できるようにするのはどうか”という手塚社長の案を聞いたときには、これでまた1つお客さまに還元できるサービスが増やせるという、喜びや安心感を強く感じた」と振り返る。

トレンドに左右されやすくサブスクには適さないとされるレジャースポーツも、スポーツクラブと融合させれば大きな化学反応を起こす可能性がある。

実際に、レジャースポーツとアミューズメントの融合で大成功を収めた「ラウンドワン」の例もある。また、ボウリングは会員相互のコミュニケーションも促せたり、スコアを良くしていくために、筋トレなどの目的にもなる。プールやテニスコートと同じくらいの面積を使うが、スイミングやテニスよりも多くの人が利用できる。

そこで屋内テニスコートを転用しレジャースポーツゾーン(ボウリング8レーン、ローラースケート、ビリヤード2台、卓球台2台、ゲーム台)を整備した。運営していたテニススクールは、同社経営「V10 かなざわ」に集約させた。ゾーンの設置には約8,000万円を投じたが、人の介在も不要で、役割を終えたらフィットネスクラブに戻すこともできるため、経営リスクは低いと判断した。

施設を利用できるのはジムの会員だけではない。スイミングスクールや保育所に通う子どもたちも、親子での利用を条件に無料で施設を利用できるようにした。「親子がふれあえる場所をつくりたい、という思いがずっとあった。利益度外視ではあるが、地域に根ざした取り組みという意味では使命を果たせている」と笑顔を見せる。

フィットネス業界の常識を覆す全会員専用「ロッカー3,000 個」構想

レジャースポーツゾーンの導入で利用率は数ポイント上がったが、目標70%以上には到達できていない。高いハードルのようにも思えるが、新保氏にとっては現実的な目標値だ。「常に面白く、新しい取り組みをしていると感じてほしい。あそこに行くと居場所がある、と思ってもらいたい。わざわざ『行こう』と思われる場所ではなくて、気がついたらいつもいる、つい来てしまう、そんな場所にしていきたい」V10ののいちは、約5年単位で多額のコストをかけて改修や新たな試みにトライしており。この度のレジャースポーツゾーンもその1つであるが、今、新保氏にはもう1つ考えていることがある。すべての会員が自分の居場所と

感じられるよう、全員分のロッカーを施設内に設置するというものだ。「今、会員数は約2,700人。ですから、3,000個のロッカーを施設内に設置しようかと考えているところだ。ジムに自分専用のロッカーがあるということは、ジム側がその方の存在をちゃんと受け止めていることの証になる」

大胆な施策を次々と打ち出し続ける新保氏。「ゴールドジムV10ののいち」から、これからも目が離せない。