フィットネスクラブの体験価値を高めるために不可欠なのは、設備や空間だけではない。会員の満足度や施設の価値を左右するのは、最前線でサービスを提供する「人材」である。総合型クラブの同質化や人材不足が指摘されるなか、教育とプログラム開発を軸にフィットネス業界を支えてきたのが株式会社プライムエデュケーションだ。

今年創立20年目を迎える同社は、どのようにしてクラブの価値向上を支えてきたのか。代表取締役の酒井東吾氏に、業界の課題とこれからの展望を聞いた。

  • 株式会社プライムエデュケーション
    代表取締役 酒井東吾氏
     

人材不足という大きな課題

近年、総合型クラブの存在価値が問われている。24時間ジムや専門特化型スタジオ、パーソナルジムなどの新しい業態が拡大するなかで、総合型クラブならではの魅力を打ち出し切れていないケースも少なくない。

酒井氏は、こうした状況の背景にあるのは、「人材」に関する課題が大きいと指摘する。

「総合型クラブは本来、多様なプログラムやコミュニケーションを通じて会員体験を高められる施設です。しかし近年は社員の採用が難しく、採用できても早期離職が増えています。結果としてスタジオプログラムの継続が難しくなり、クラブの品質低下につながっているケースも見られます」

コロナ禍を経て、クラブ運営は施設オペレーション中心になりがちだという。会員とのコミュニケーションや指導といった本来の価値が薄れ、スタッフの職業観や使命感が弱まっている可能性もある。その結果、スタジオの雰囲気づくりや会員同士の関係性のコントロールが難しくなり、新規会員にとって参加しづらい環境が生まれてしまうこともある。

「本来、スタッフはクラブの空気をつくる存在です。そこが弱くなると、新しく入会した会員さまが『フィットネスクラブはこんなものなのか』と感じてしまう可能性もある。これは施設価値の低下につながりかねません」と酒井氏は話す。

教育を中心にプログラムの価値を高め、サービスを提供

こうした課題に対して、同社が掲げているのが「教育を中心に据えたサービス提供」である。同社の事業は大きく3つの機能で構成されている。

1つ目はスタジオプログラムの導入・開発支援、2つ目はインストラクターやスタッフの教育・研修、そして3つ目がインストラクターの活躍機会を広げる取り組みだ。

同氏は、特に教育の重要性を以下のように強調する。

「プログラムは人が提供するものです。どれだけ優れたコンテンツがあっても、それを担う人材が育たなければ価値は発揮されません。だからこそ、私たちは教育を中心に据えています」

スタジオプログラムはクラブの魅力を高める重要なコンテンツだが、近年はプログラム担当者が一人しかいないケースも珍しくない。人材不足により評価や改善の仕組みが十分に機能しない場合もある。

そこで同社は、クラブ内のプログラム開発機能を外部パートナーとして担うケースも増えている。いわば「外部のプログラム開発部門」としてクラブを支援する形だ。

酒井氏は、次のように語る。「コロナ禍以降、内部に開発機能を持つことが難しくなった企業も増えました。私たちプライムエデュケーションはニュートラルな立場で、その機能を補完できる存在でありたいと考えています」

教育とプログラムの両輪で施設価値を高める──それが同社の基本的なアプローチである。

プログラム開発・人材育成を担う外部パートナー

プライムエデュケーションは、これまで多くのクラブのスタジオ運営を支援してきた。特に近年増えているのが、クラブのプログラム開発や教育機能を包括的にサポートする取り組みだ。

あるクラブでは、社内のプログラム開発部門の機能を同社が担う形で連携を開始。スタジオプログラムの設計やインストラクター育成をサポートすることで、運営体制の再構築を実現した。

このような支援は、単なるプログラム導入にとどまらない。インストラクターの育成、クラブスタッフへの教育、さらにはプログラム運用の改善まで含めた包括的な取り組みとなる。

「プログラムを提供するだけでは、クラブの価値向上にはつながりません。運営の仕組みや教育体制までを含めてサポートすることがとても重要だと考えています」

また同社には、業界の第一線で活躍してきたマスタートレーナーが多数在籍している。彼らはプログラムの指導だけでなく、開発や教育など幅広い役割を担っている。

「優秀な人材と出会えたことは、当社にとって大きな財産です。個々の力がチームとして結集することで、より大きな価値を生み出せるようになりました」と酒井氏は感慨深く語る。

人材の力を最大化する仕組みづくりも、同社が長きにわたり大切にしてきたテーマの1つだ。

創業の原点は教育への強い信念

プライムエデュケーションの設立は2007年。酒井氏がフィットネスクラブ運営やプログラム事業に携わっていた経験が原点となっている。

当時、クラブ向けのプログラム事業を取り巻く環境が変化し、既存の契約先に継続的にサービスを提供できなくなる可能性が生まれた。そこで酒井氏は、新たなプログラムを探し、海外のネットワークを通じてアルゼンチン発のフィットネスプログラム「RADICAL FITNESS」と出会う。

そのプログラムを導入し、クラブへの提供を開始したことが同社のスタートとなった。

しかし創業の段階から、酒井氏の考えは明確だった。「プログラムだけを売る会社にはしたくなかった。人材教育とセットで提供する会社にしたいと考えていました」。

フィットネスクラブの価値は人材によって決まる──。その信念は創業当初から変わっていない。

「人材なくして良いサービスは生まれません。だからこそ教育を中心に据えた会社にしたいと思ったのです」

業界40年の視点で見る転換期

創業から約20年、同社はフィットネス業界の成長とともに歩んできた。

2000年代後半は総合型クラブの出店が活発で、年間200店舗近い新規施設が誕生する時代だった。

しかしコロナ禍を境に状況は大きく変化した。「業界を40年近く見てきましたが、今が最も大きな転換期だと感じています」。施設運営の難しさ、人材不足、業態の多様化。フィットネス業界を取り巻く環境は大きく変わった。

一方で、ピラティススタジオや専門ジムなど新しい業態が増え、運動市場全体としては拡大している面もある。

「業界全体で見れば可能性はまだ大きい。だからこそ総合型クラブの価値を改めて高めていく必要があります」

そのために同社が重視しているのが、インストラクターやトレーナーの活躍の場を広げることだ。クラブの枠にとらわれないキャリアや活動の場を創出することで、フィットネスの参加人口を増やしていく。これも同社が描く未来の1つである。

フィットネス参加人口を増やす使命

プライムエデュケーションが目指しているのは、単なるプログラム提供企業ではない。フィットネス業界全体の価値を高める「ソリューションカンパニー」である。

その中心にあるのが2つのテーマだ。

1つは総合型クラブの活性化。もう1つはインストラクターの活躍機会の拡大である。

「最終的な目標は、フィットネス参加人口を増やすことです。そのためにはクラブが元気になること、そして、インストラクターが活躍できる環境をつくることが重要だと考えています」と酒井氏は力強く話す。

今後はクラブの教育・開発機能を外部から支援する存在として、よりニュートラルな立場で業界に関わっていく方針だ。

2027年、創立20周年を迎える同社。その節目を前に、改めてミッションや価値観の整理にも取り組んでいる。

「これまで積み重ねてきた経験を基に、次の20年に向けてもう一段階進化したい。業界の中心で新しい価値を生み出していける存在になりたいと考えています」

施設価値と体験価値を高めるカギは、やはり「人」にある。人の成長とプログラムの魅力でフィットネスの可能性を拡張し、業界に熱量を与え続ける―プライムエデュケーションの挑戦は、これからも続いていく。