財政破綻から20年、353億円の借金を返し終えた北海道夕張市。その陰に、誰も語らなかった"もう一つの奇跡"があった。

市民が健康になったことが、再生の下支えをしたのではないか―フィットネス・ウェルネス業界が今こそ声を上げるべき、社会的投資の論拠がここにある。

●「厳しい20年」の終わりに、感じた違和感

2007年に財政破綻し、全国唯一の財政再生団体となった北海道夕張市が、2026年度中に累積赤字に伴う借金を完済する見通しとなった。残る約25億6000万円を返し終えれば、353億円にのぼった国への借金が、20年かけてようやくゼロになる。

厚谷司市長は「一言で言って、厳しい20年だった」と語った。市職員の給与削減、市民サービスの縮小、徹底した緊縮財政。そのすべてが正しく伝えられるべき事実だ。

だが、少し前に配信されたこのニュースを聞いたとき、頭にはすぐ別の問いが浮かんだ。

夕張市が借金を完済できた本当の理由は、市民が健康になったからではないか。

●「医療崩壊」のはずが、市民は元気になった

この問いに根拠がないわけではない。元夕張市立診療所所長の森田洋之医師が、破綻後の夕張で起きた"逆説"をデータで明らかにしている。

財政破綻後、171床あった市立病院は廃止され、わずか19床の診療所に再編された。救急車の応答時間は破綻前の約2倍になった。誰もが「医療崩壊だ」と思った。

ところが、現実は、まったく逆だった。

がん、心臓病、肺炎で亡くなる人が減り、多くの高齢者が自宅で老衰により亡くなるようになった。高齢者1人当たりの年間医療費は80万円から70万円へと減少。総死亡数・標準化死亡比は横ばいを維持し、救急搬送は半減。医療費と介護費の合計額も減少した――しかも、高齢者人口に変化はなかった。診療所の医師たち自身が驚いたという。

なぜこんなことが起きたのか。簡単に病院へ行けなくなることで、市民が健康を意識し、予防を実践せざるを得なくなった。在宅医療へのシフトにより、訪問診療を通じて医師と市民の距離が縮まり、プライマリーケア中心の体制に転換できた。さらに、在宅で療養する患者を隣近所が協力して支えるようになり、地域の繋がりが強まった。森田医師はこれを「きずな貯金」と呼んでいる。

●「健康→就労→消費→経済」という好循環の仮説

ここからは、わたし自身の仮説だ。

市民が健康になれば、前向きになる。前向きになれば、より長く、