JR東日本スポーツ株式会社(以下、JR東日本スポーツ)は2021年12月16日にジェクサー・フィットネス&スパ24新潟(以下、ジェクサー新潟)をオープン。JR新潟駅南口から徒歩3分にある絶好の立地だ。オープンして4ヶ月経つが、会員の継続率が約98%で推移し、同社としても前例がない数字を記録している。その裏側では、新たな会費種別の創設、オンラインとオフラインを組み合わせたコミュニケーションによって「(会員が)辞めたくなくなるジム」を実現しているという。その取り組みについて、マネージャーの髙貫氏に訊いた。
ジェクサー新潟の成り立ちと新潟駅周辺のマーケット
JR東日本スポーツは、ジェクサーブランドを主に東京、神奈川、埼玉などの首都圏を中心に展開してきたが、今回初めて地方店を出店。出店エリアのみならず、同ブランドとして初の試みが詰まった店舗となっている。まず、その成り立ちについて見ていこう。
ジェクサー新潟はJR新潟駅南口から西側通路で直結する「LEXN2」というビルの9~11階を活用している。この場所は、別のフィットネスクラブが以前入居していた場所で、そこが閉店してから10ヶ月後にオープンした。「新潟のマーケットは非常に競合店舗が多い地域です。特に24時間ジムを始めとした小型店舗が多く進出してきています。加えて、コロナウイルスの影響を大きく受けていると分析しています」と髙貫氏は説明する。
そのなかで、ジェクサー新潟として生まれ変わったこの場所に、以前のクラブの会員が多く戻ってきている。「非常に珍しいのですが、ジェクサー新潟の会員さまの多くがフィットネスクラブ経験者です。オープン当初の会員さまの平均年齢は約56歳で、若干女性のほうが多いという構成でした。居抜きで出店する場合は、以前のクラブのイメージを引きずり、集客に苦戦することが多いが、稀有な事例と言えよう。
総合型フィットネスクラブへ若年層が流入しているわけ
若年層と言えば、24時間ジムのような低価格帯のジムを利用しているという認識が強いと思うが、今では状況が変わってきている。ジムエリアとシャワーが利用できて、月額料金が7,000~8,000円台というのが主流であったが、最近では、料金はそのままに総合型フィットネスクラブの施設が使えるようになってきている。
加えて、新潟のような日本海側の降雪地帯では、湯船に浸かって身体を温めるニーズが高いため、スパエリアが充実していることが強みになる。サウナはもちろん、外気浴が可能な露天風呂まで利用できて、「レギュラー会員」であれば8,800円(税込)、同社全体で初めてとなる「ジム&サウナスパ会員」であれば7,480円(税込)でスタジオ以外の施設が利用可能になった。
25mプールが6レーンあり、スタジオは3面用意。そのうちの1つはバイクプログラム専用スタジオとなっており、VRプログラムが楽しめる新感覚のフィットネススタジオとなっている。
「現在では、若年層の新規入会が増え、会員さまの平均年齢も下がりました。男女比についても、男性が女性を逆転しました」と髙貫氏は言う。地域の若年男性の「筋トレ需要」を確実に取り込むなかで、新たな世代の会員を総合型フィットネスクラブが獲得している。これだけ施設が充実しているなかで、会費が家計に優しいため、若年層に支持されるのも頷けるだろう。
ジェクサー新潟の会員継続率の裏でPrecorのソリューションが活躍
新規オープン時の店舗には、キャンペーンを利用しつつ、多くの会員が入会する一方で、その会員が継続的に通い続けてくれるのかどうかは、フィットネスクラブの施策によって大きく左右される。そのなかで、ジェクサー新潟の退会率はわずか2.4%。JR東日本スポーツ内でもそうだが、フィットネス業界全体で見ても、とりわけ優れた数値ではないだろうか?
この数値の背景には、大手マシンメーカーであるPrecorJapan株式会社(以下、Precor)のサポートがある。まず、ジムエリアについては、カーディオマシン、ストレングスマシン、フリーウェイトに至るまですべてがPrecor製で統一されている。世界に認められているマシンメーカーの最新ラインアップを取り揃えているため、会員も心置きなくトレーニングができる。満足度は自ずと高くなる。
それだけではなく、Precorはフィットネスクラブのマシンと連携したデジタルソリューションを2種類用意しており、ジェクサー新潟ではどちらも導入されている。「いくつかのフィットネスクラブでPrecorさんのデジタルソリューションが導入されていることを当社施設開発部から聞きました。今回、新たな取り組みを多く取り入れている店舗として、ジェクサー初の導入に踏み込んだのです」と髙貫氏は言う。
Precorが提供するデジタルソリューション
1つ目はソニー株式会社(以下、SONY)が開発した
もう1つはPreva(プレバ)。カーディオマシンに内蔵されており、こちらも専用アプリでランニングマシンやバイクマシンの記録を取得することができる。このような会員の運動データを活用することで、退会率を低くしつつ、さらなるフィットネスクラブのアップデートも可能となる。
OMO型の店舗では会員とのコミュニケーションがこう変わる
OMOとは「OnlineMergeswithOffline」の略称で、オンラインとオフラインを融合するという意味である。ジェクサー新潟はPrecorとともに、これを実現しているからこそ、会員との接点を従来型の店舗より多く生み出すことに成功している。「コロナで世の中が大きく変わり、今では対面のコミュニケーションだけでは不十分です。一方で、全部がオンラインで完結することもありません。大切なのは併用することです。しっかり会員さまの顔と名前を憶えて挨拶をし、お声がけをするというのは、今でも変わらないホスピタリティです。それができるクラブは信頼を得られます」と髙貫氏は力説する。
このときに、会員のジム内での行動をすべて把握するのは物理的に不可能であるが、ADVAGYMやPrevaのデータを施設側も確認することができるため、その会員の訪問履歴、運動履歴を元に、パーソナライズしたお声がけができるようになる。例えば、「○○さん、おはようございます」という挨拶だけよりも、「○○さん、最近頻繁にウェイトトレーニングに取り組んで、扱える重量が伸びてきましたね。オススメのトレーニングメニューをアプリに送っておくので、後でチェックしてみてくださいね」といった声がけをされた方が、会員も喜ぶだろう。それが、テクノロジーの活用で可能になったのだ。直近では、パーソナルトレーニングの提供を開始したため、そこでもトレーニングデータの分析やアプリ経由で日々のアドバイスの提供などの活用も期待されている。
また、Prevaはカーディオマシンの画面上に、会員へのご案内を表示する機能がついており、そこからパーソナルトレーニングの告知をすることで、集客を狙っているという。ジェクサー新潟にはカーディオマシンだけで44台配備されており、その宣伝効果は大きいだろう。
デジタルソリューションが秘める今後の活用の可能性
最後に、髙貫氏より今後の展望について訊いた。
「まだまだ、デジタルソリューションの全機能を使いこなせているとは言えないですが、まずは新潟店のスタッフがPrecorさんとともに成長し、会員さまに提供できるものを増やしていきたいと考えています。例えば、グルトレというグループエクササイズのご案内を、トレーニング履歴から読み取ったその人の趣向に合わせてお送りすることができると思っています」
入会後からコミュニケーションが活発に行われ、データ分析を元にスタジオへの参加を促すというサイクルが生み出せれば、会員のエンゲージメントが高まり、「辞めたくなくなるジム」になるのは必然かもしれない。