長年、海外のフィットネス・ビジネスに携わり、大学でも教鞭をとっている小倉乙春氏に、欧州フィットネス事情について語っていただく連載50回目。英国における一次医療従事者が患者を地域代替医療サービス資源と結びつけるスキーム(社会的処方)の最新動向について紹介する。
1.はじめに
主な先進国の医療提供体制は、日常的な医療を診る一次医療(プライマリ・ケア)から高度な三次医療までに三区分されており、医療サービスの「玄関口」としてのかかりつけ医(家庭医)が存在し、国民全員が登録し、二次三次医療を受けるのか、一次医療内で代替的な処方も含めて留まるかを、家庭医が振り分けている。
代替的なサービスとして、以前、紹介を受ける資格を持ったトレーナー紹介制度や緑の運動療法について記したが、今回は地域全体の資源を活用する社会的処方について述べることにする。
2.社会的処方とは
社会的処方とは、伝統的なヘルスケアサービスとは違い、一次医療従事者が地域の代替医療サービスを人々に紹介するための手段である。これは、人々の健康とウェルビーイングが、主に社会的、経済的、環境的な要因によって決定されることを認識し、人々のニーズに全体的な方法で対応しようとするものである。また、個人が自分の健康をよりコントロールできるよう支援することも目的としている(図2)。
英国、カナダ、オーストラリア、イギリス、アメリカなどでは一次医療専門家が、健康に対する社会的リスクへの介入方法として導入しており、健康の幅広い指標に好影響を与えている。社会的処方は、人々がコミュニティ・グループに参加することで、生活に対する選択肢とコントロールを増やし、帰属意識を向上させることで、人々の成果を向上させる。
また、健康格差の原因を特定するのに効果的であり、地域社会を中心とした実践の重要な側面である。社会的処方は、精神的なサポートを必要とする人、1つ以上の長期的な条件を持つ人、孤独な人、孤立している人、ウェルビーイングに影響を与える複雑な社会的ニーズを持つ人に特に有効であるとされている。
社会的処方を行うスキームには、一般的にボランタリーおよびコミュニティセクターの組織によって提供されるさまざまな活動が含まれている。例えば、ボランティア活動、芸術活動、グループ学習、ガーデニング、ビフレミング、料理、健康的な食事のアドバイス、さまざまなスポーツなどである(図3