2023年3月25日、株式会社川崎フロンターレ(以下、川崎フロンターレ)が運営する「Anker フロンタウン生田(以下、フロンタウン生田)」がグランドオープンした。アカデミーのトレーニング施設を兼ねつつも、楽しみながら気軽にスポーツやフィットネスができる、地域住民とのつながりの場所を提供している。ここ数年Jリーグでもトップを走る川崎フロンターレの取り組みに迫る。
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株式会社川崎フロンターレフロンタウン事業部篠原 唯氏
アカデミーの施設を併用し地域とのつながりの拠点に
川崎フロンターレは、現在J1リーグに所属するプロのサッカーチーム。
過去5年のリーグ戦において、3回の優勝を誇る(準優勝1回)、名実ともにJリーグのトップチームだ。育成組織にあたるアカデミーもトップクラスで、三笘薫選手や田中碧選手など、現日本代表で主力を担う選手を、続々と輩出している。
フロンタウン生田は、アカデミー選手専用のクラブハウスである。グラウンドは、最新のロングパイル人工芝を使用。プロ仕様のロッカールームや、専用のトレーニングルームなど、もはやプロ選手に近い練習環境が整えられている。
アスリート向けの施設でもあるが、川崎フロンターレの「かわさきフロンタウン構想」を実現するための、地域住民とのつながりの場にもなっている。
一般の方が参加できるフィットネススタジオを設置し、誰でも気軽にフィットネスを行うことができる。
フロンタウン生田の運営を担当する篠原唯氏は「川崎フロンターレは、鷺沼や川崎にも拠点があり、各拠点でフィットネス事業を行っています。もともと、鷺沼でフットサルコートの空き時間を利用したヨガ教室や、ポールウォーキングなどを行い、地域住民の方に喜んでいただけているという経緯があります。なので、フロンタウン生田をオープンすると決まったときもフィットネス事業は行うと決めていました。やはり川崎フロンターレの施設なので、フットサルとかサッカーをする場所というイメージを持たれている方が多いのですが、それだけではなく、地域住民の方とのつながりの場にしていきたいのです。一般の方が入口として参加しやすいフィットネス体験だったり、自分が健康になったりということを、フロンタウン生田で体感できるようにすることはとても意識しました」と力説する。
フロンタウン生田は、146㎡のスタジオAと77㎡のスタジオBの2つのスタジオを有しており、全28種類もの様々なプログラムを行っている(本誌取材当時)。その他にもスポーツが出来る場として、アリーナやテニスコート、自由に遊べる公園も完備。1周あたり900mのジョギングコースもあり、気軽に運動ができる。さらに施設内には、スポーツ幼児園やカフェなど、テナントもあり、地域住民が使いやすい設計となっている。
持続的に収益を得られるモデルで地域貢献を実現する
フロンタウン生田の事業スキームは、川崎フロンターレの独自のもの。水道局の用地を借り、20年の長期視点で回収していく算段だ。
ネーミングライツなどのスポンサー収入、テニスコートやスポーツ幼児園などのテナント収入、スタジオプログラムの参加費、コートやアリーナの一般貸の利用料などが収益の3本柱だ。
集客にも積極的に力を入れる。「約3,500件のポスティングを自力で行いました(笑)」と篠原氏は笑顔を見せる。
今後は、1万件まで対象を拡げ、ポスティングを中心に集客を強化していく。
「この場所は、もともと浄水場の用地だったので、オープン当時は、物理的にも心理的にも地域住民との壁があるように感じました。しかし、オープンしてみると、フラっと立ち寄ってくださる方や、ちょっとカフェに来てみたという方がいます。そういった方々に、『楽しそうなこと』をやっているなと思っていただけるように、工夫しています」
実際に、「フィットネスができるらしい」という口コミから、プログラムに参加した住民もいると篠原氏は説明する。ポスティングとアクセシブルな施設価値を活かし、より多くの住民の憩いの場となりつつも、収益性も高めているのだ。
ハイクオリティを担保した多種多様なプログラム
フロンタウン生田のスタジオプログラムは、Surf FitやMEGADANZ、ZUMBA®など、大手のフィットネスクラブが採用する、人気の高いプログラムや名の知れたブティックスタジオのプログラムなどが多数用意されている。さらに、ヨガやポールウォーキング、和太鼓Fitなども揃えている。
「プログラムの選定には、気を遣いました。また、自信を持ってプログラムをおすすめできるよう、インストラクターも、各プログラムでの実績が豊富な、一流の方にお願いをしています」
現状、各プログラムで平均して10~15名ほどの集客ができている。入会金はなしの都度払いシステムで、一部のプログラムを除き、単価は、基本的には800~1,200円となっている(2023年7月末までは、トライアル価格として通常より安価で参加できる)。
高いクオリティのプログラムを、都度払いで利用することができるため、気軽に参加できるのも、地域住民にとっては嬉しい。
さらに、篠原氏は「単にプログラムを提供するだけでなく、その先にゴールがあるようにしていきたいと思っています。例えば、Surf Fitのプログラムでは、実際に提携している施設と協力し、リバーサップを行うというように、スタジオ内にとどまらないプログラムにしていきたいです」と話す。
スポーツセンターとフィットネスクラブの中間に立つ
今後の目標について「我々のアイデアだけではなく、今ご参加いただいている方のご意見も参考に、もう少しプログラムを増やそうと考えています。パーソナルトレーニングや、ホットヨガなど、フィットネスクラブとコラボしたプログラムも増やしていけたらと考えています」と篠原氏は言う。
地域のスポーツセンターは、料金が安く手軽さを売りとしているが、フロンタウン生田では、そことは一線を画していくと篠原氏は言う。
「たしかに入口として、安価で気軽に参加できるサービスは必要ですが、しっかりと料金をいただき、フィットネスクラブでも提供されているような本格的なプログラムも、お客さまのニーズに合わせて導入していきます」
この“通いやすさ”と“プログラムの質”の2軸を意識し、しっかりとしたサービスを作っていくと篠原氏は目標を見据える。
「フロンターレがやっている場所ではなく、フロンタウン生田で健康になることをしていて、気づいたら、それがフロンターレの施設だったという打ち出し方をしていきます。結果としてフロンターレと地域住民との接点ができることが狙いです」
日本で1位、2位を争うサッカークラブがフィットネス事業を行い、地域住民の健康づくりを担っている。様々な角度から、日本の運動習慣者が増えていくよう、市場が活発化していくことが期待される。