Les Mills Japan 新CEOに、リー・ニュエン氏就任、ビジョンを語る

「日本にもっとアクティブな人たちを増やしたい」

こう、エネルギッシュに語るLes Mills Japan新CEO、リー・ニュエン氏。どんな取り組みで、それを実現しようとしているのか?未来志向の同氏が、ビジョンや戦略を初めて本誌のインタビューに具体的に語った。(以下、敬称略 訊き手 本誌編集長 古屋武範)

フィットネス市場は、コロナ禍から回復基調にありますが、まだ完全には回復していません。このタイミングでLes Mills JapanのCEOに就きました。これからの日本のフィットネス市場の機会、フィットネスクラブの課題やエンドユーザーの課題は、どこにあると考えていますか?

リー:まず日本のアクティブな生活者(※週に30分間以上のエクササイズを2回以上する人)は、世界のそれと比べると少ないという直近の調査レポートがあります。日本の34%の生活者は、全くエクササイズをしていません。世界平均では、そうした生活者は14%にとどまります。今、フィットネスクラブに通ってエクササイズを楽しんでいるのは、すでに身体を動かすことが好きな方々が多いと思いますが、私たちがこれからのチャンスと捉えているのは、全くアクティブではない方々にこそエクササイズをしていただけるようにすることです。

日本でアクティブな層はどこにいるかというと、人口統計的に最も多いのは、70歳以上であり、次に18~19歳です。アクティブでない層は50歳以下であり、そのなかでもとりわけ女性は、アクティブではないということがわかっています。

ただ、こうした層のなかには、内心やりたいと思ってはいるものの、できずにいるという方々も多く含まれているでしょう。こうした層のモチベーションをいかに高めるかがキーになると思います。このフィットネス業界にいる人なら誰でも人を助けたいと思っているのではないでしょうか。

私たちは、そうした役割を果たしたいと考えています。多くの生活者が、コロナ禍で外に出たり、人と接触したりすることを避けていましたが、いつまでもそうした思いに囚われているのではなく、未来を見据えて行動していくことが大切になりますね。

日本のフィットネスジムの利用率は5%以下ですが、アメリカや北欧は20%ほどになっているので、日本がこの5%を10%に引き上げることができるだけでも素晴らしいですし、それを目指したいと思っています。

実現するポイントは、何でしょう?

リー:日本の生活者にもっとアクティブになってもらうために、私たちは3つの方法でサポートができると思っています。

1つ目は、人々のフィットネスに対する見方を変えること。アクティブではない生活者には、エクササイズについて固定的な認識を持っている人もいます。例えば、エクササイズをダイエットと結びつけてイメージしている人は多いのではないでしょうか。それはごく一面的な見方です。エクササイズには、メンタルヘルスを健全に保ったり、仕事の生産性を高めたりするなど、もっとたくさんのメリットがあります。エクササイズをすることでストレスが軽減されれば、社会的にも良い影響があるはずです。

2つ目は、生活者にとってエクササイズをもっと身近なものにすることです。アクセシビリティをよくすることは、単に物理的なアクセスをよくするだけではなく、クラブだけでなく皆が色々な障害を協力して取り除いていくことを指します。例えば、ランチタイムのついでにエクササイズができるようにしたり、出勤前や出勤後にエクササイズできるようにしたりするために、会社が積極的に推奨することです。また、家族もサポートできるかもしれません。日本において、コロナ禍で最初に女性がフィットネスクラブに通わなくなったのも、もし新型コロナウイルスに感染してしまうと家族が大変な状態になるということを懸念してのことだとすれば、再び戻って来られるよう家族が協力することも必要かもしれません。さらに、社会的には新型コロナウイルス感染に対するパーセプション(認識)を変えていくことも求められるでしょう。

3つ目は、新しい人材をフィットネス業界に招き入れることです。この業界に興味を持ってキャリアを積んでもらうにはどうすべきか。そこに、インストラクターやフィットネスクラブが果たす役割は大きいでしょう。私たちは、その面でも協力することができます。このところ、いくつかのビジネスミーティングに参加させていただき、そこで若い方たちにお会いする機会がありました。彼ら彼女らの持つ新しいアイデアや、新しいロールモデルのかたちについての意見など、積極的に取り入れていくことも大切ですね。

明るい笑顔で取材に応じるリー氏

では、レズミルズとしての具体的な方針、対応は?

リー:レズミルズとしては、グローバルの方向性を日本のマーケットに紹介し、人々がエクササイズをすることでもっとエネルギーや楽しさを感じてもらえるようにしたいと思っています。

レズミルズは、このコロナ禍でも、かなり頑張ってそれに取り組み、成果を残されたのではないでしょうか?

リー:コロナ禍が始まったときに、私たちは素早く行動する必要がありました。そこで、新しい取り組みとして、とりわけ「オムニフィットネスチャネル」に注力しました。それは、クラブやジム、そして家や会社など、デジタルを活用してどこでも手軽にエクササイズできるようにシステムを整えることでした。人々にエクササイズしてもらいやすい環境をいかに作るか、そこに注力をしました。

クラブが営業を再開するとき、スタジオはコアのファン層に偏りがちになりますが、いかにそこに新規の参加者が入りやすくするかも大事ですね。トライアル(体験利用)への参加者を獲得しても、その後も、継続して利用してくださるようにするにはどうするかが重要です。例えば、新しいインストラクターにクラスを持ってもらい、新しいファン層をつくることも1案でしょう。レズミルズでは、BODYPUMP™やBODYCOMBAT™といったクラスが人気ですが、例えば海外では、こういった人気のプログラムを1日のタイムテーブルに複数回組んだりします。同じBODYPUMPを2クラス、時間をズラして並べたとしても、1つはベテランのインストラクターが担当し、もう1つは新人のインスタラクターが担当することで、参加層は別々になるはずです。

これまでの日本の企業は、おおよそ日本人・男性・正社員、さらには親会社から出向してくる役員といった人がヒエラルキーを支配するという特徴があり、そのため画一的で同質的な経営がなされる傾向が強く、あまり革新が起きません。この点、リーさんは、ダイバーシティという点で、とても期待が持てます。海外で生まれ、グローバルな市場でキャリアを重ね、女性CEOとなられたリーさんが、今、思っていることや考えていることはありますか?

リー:お答えになるかどうかわかりませんが、参考まで、私のバックグラウンドをふまえてお話しますね。レズミルズには入社して12年になります。私はニュージーランドのとても小さな町で育ちました。レズミルズに入社するまでもそうですが、いつも誰かが私のことを信じてビジネスの機会を与えてくれました。

私の経験から言えることは、自分の生い立ちなどはキャリアの形成に関係なく、例えかつて貧しかったとしてもそんなことには囚われずに、機会を与えてくれた人や自分の将来の可能性を信じて、前に進んでいくこと。女性としてありがちなのは、女性だからということで、ある仕事やある範囲にとどまりがちになることです。

でも、そうした見えない殻は、打ち破っていけばいいと思います。また、それと同じくらい大事なことは、自分もそうしてもらったように、ほかの人にも機会を提供していくことです。自分1人では成し遂げることが難しくても、誰かが少し手助けすることで可能になることもあります。ときに私はメンターとして、仲間をサポートしています。彼ら彼女らがマインドセットを変えて、自らいきいきとキャリアを作っていけるようにアドバイスをしています。

これからの新しい時代にあって、若い人や女性たちなど、自分たちとは価値観や経験が違う人々をどうサポートして、彼ら彼女らのよいところを引き出し、組織や業界を成長させていけるのかを常に念頭に置いています。そのために、私はもっと日本のフィットネス業界の多くの方々とコミュニケーションを取り、さらに学びを深めていきたいと思っています。それと同時に、私の持っている知識やスキル、経験などを、同じフィットネス業界にいる多くの方々と共有したいとも思っています。

これからの時代は、ますます答えが見出しにくい時代になってきますので、リーダー的な立場にある者は、自分が何でもできるとか、知っていると思わず、他者をサポートする姿勢や他者から学ぶ姿勢が求められますね。そうでないと、成長に必要なイノベーションが起こせませんね。

リー:日本のフィットネス業界の方々はみんな親切です。そういった方々にレズミルズの提案を受け入れ行動や変化を起こしていただくために心がけているのは、まず相手を理解し、自分のことも知ってもらうこと。そうしたうえで、レズミルズの提案が自社やこの市場にどう活かせるのかをイメージしていただくことができれば、私はもっと日本のフィットネス業界の発展に役に立てると思っています。お互いの考えを理解したうえで、コラボレーションしていけば、きっと明るい未来をつくっていけるはずです。

日本のフィットネス業界の関係者も会話を通じて、ビジョンを共有していけば、「お互いに抱いていることは同じだね」ということになるのかもしれません。Les Mills Japanの新CEOとしてのリーさんの考えるビジョンは?

リー:一番のゴールは、すでにお話しした通り、日本のアクティブでない生活者をアクティブにしていくことでしょう。ビジネスの観点から言うと、より多くのクラブに、成功してほしいと思っています。単にプログラムや商品を扱っているサプライヤーとして見られたいとは思っていません。プログラムの数が急激に増えることもありません。私たちは、クラブが新規会員を獲得・維持するためのサポートをする会社としてより広く認知されたいと思っています。日本で、私たちがそのような存在になることは可能だと思っています。

レズミルズは、50年前にグループエクササイズのプログラムを開発しました。日本のクラブメンバーの皆さんには、私たちのプログラムを30年間にわたって愛し続けていただいています。私たちが提供しているのは、プログラムだけではなくて、それらを含めた包括的なシステムです。四半期毎に新しいプログラムをリリースし、それに伴うトレーニングやコーチングも提供していますし、それが仕組みとして成り立っています。

そして今、私たちは未来志向で次のアクションを起こそうとしています。それはGen-Fit(ジェンフィット)と呼ばれる、次世代のアクティブなフィットネス層に向けての新しいカテゴリーです。エクササイズの方法が異なるこの若い世代は、海外では市場の80%以上を占めると言われています。フィットネスクラブがこの層を獲得するためには、既存のクラスの位置付けをシフトする必要がありますし、魅力的なプログラムを持つこのGen-Fitを導入することでレズミルズにお手伝いができると考えています。今年中にローンチを予定していますので、ぜひ楽しみにしていてください。

最後に、クラブの経営者やスタッフの方々に向けて、メッセージをお願いします。

リー:私たちも常に未来志向で、求められるシステムやサービスを開発してきていますが、フィットネス事業者さまにおいても、ぜひ未来志向で、生活者が求めるサービスやビジネスモデルを創造してほしいと思います。特に、次の世代にリーチするには、どうしたらいいのか?という問いを立て、そのソリューションを見つけようとしてほしいと思います。

過去2~3年はフィットネス業界にとってとても難しい時期でしたが、向こう1~2年間で取り組むことが、5年先を見据えたときにとても大事になってくると思うのです。過去と同じやり方をしていても発展はなく、違うやり方を考えて取り組んでいくことで未来が開けると思います。恐れることなく、囚われることなく、新しい顧客、とりわけ30代くらいの将来の日本を背負う世代を増やすことに取り組んでいきましょう。

私もレズミルズも、多くのアイデアやインサイトを持っているので、ぜひオープンに話し合い、一緒に未来を創っていきましょう。

そう考えると、フィットネス産業こそが、未来の日本をつくるインフラ産業と言えますね。ぜひともに、日本を元気にしていきましょう。ありがとうございます。