野村不動産ライフ&スポーツ株式会社が運営する総合型フィットネスクラブのメガロスの「メガロスキッズアフタースクール(以下、キッズアフタースクール)」が大人気だ。ワンストップで完結する放課後学童預かり施設として、事業を始めてから3年が経ち、現在は16店舗まで拡大。2024年4月には、さらに拡大し23店舗となる予定だ。
世の中の子どもやその保護者の、課題に応えたサービスで、スタートしてすぐ人気を博した。キッズアフタースクールの企画立案者で、現在も事業の指揮をとる長岡小夜子氏は、どのような点に、ビジネスの勝機を見出し、スケールさせたのか。キッズアフタースクールの成功の秘密に迫る。
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野村不動産ライフ&スポーツ株式会社事業推進部 副部長長岡小夜子氏
“あったらいいな”をかたちに
社長にビジネスアイディアを直談判
メガロスは、かねてより「こどもみらいプロジェクト」の一環として、地域の小学校や保育園・幼稚園、学童などの授業やスポーツイベントなどを実施してきた。しかし、これはCSR活動としての取り組みであり、将来の見込み客の創造や社会的意義などの重要性はあったとしても、直接、売り上げを立てる事業ではない。
長岡氏は、キッズアフタースクールの設立の背景として、「民間の学童から、イベント実施の依頼を受けることが多かったのです。なぜか?と考えたときに、学童施設を運営するために必要な“コンテンツ”と“人”が、メガロスにはあるからだと気づきました。だとすれば、自分たちでも学童をできるのではないか?と思ったのが、きっかけです」と説明する。
思い立ったが吉日だ。長岡氏は即座に行動に移す。「メガロスの社長が、チャレンジに対しては肯定的なので、アイディアを口頭でお伝えし、直談判をしました」と、笑顔で振り返る。
まずは、イベントとして小さく試してみては?という声もあったが、長岡氏には、子どもを相手にするのであれば、中途半端なことはせず、しっかりアライアンスを組んだ状態で、完璧なものを提供したいという信念があった。
「タイミング的にも、私自身の子どもが、学童について課題を抱えていた時期でした。なので、日常的に『こんな学童があったらいいな』と考えていました。世の中のお父さん、お母さんが苦労していることを、解決できれば、大きなビジネスチャンスになるのではないかと考え、実行に移しました」
自分自身の抱える課題は、そのままビジネスチャンスとなる好事例である。
エネルギーに満ち溢れる長岡氏は、息をつく間もなく、当時の武蔵小金井店の支配人を巻き込み、事業をスタート。支配人からの協力も得て、社長に話したその日から、説明会・施設作り・募集などを驚きのスピード感で推進した。
CSR活動で構築した関係性を活かし、スケールさせる
キッズアフタースクールは、学童という児童を相手にするビジネス。当然、様々な制約を受けることもあるはずだ。キッズアフタースクールでは、周辺地域の学校にまで、スタッフが付き添う。この便利なサービスを言葉で表すのは簡単だが、特に公立の学校教育施設と民間企業がこういった関係性を構築するのは、容易ではないだろう。
「もともと、メガロスではCSR活動として、学校などの教育現場でも活動をしてきました。そういった意味では、1店舗目となる武蔵小金井では、すでに関係性は構築できていました」
これまで直接的に利益を生むものではなかったCSR活動が、思わぬかたちで財産となっていたのである。学校現場との協力体制がとれれば、運営のしやすさも上がり、集客力も自ずと上がっていく。社会貢献活動の、意義の高さが窺える。
では、事業の立ち上げで苦労した部分はどこなのだろうか? 長岡氏に問うと、「ノウハウとオペレーション」だと答えてくれた。
「学童を運営するノウハウがなかったので、良い関係性を作れる事業者選定からスタートしました。結果、アドバイザリー契約を結んでいただけるパートナー企業様を見つけることができ、事業は一気に加速しました。また、未だに課題ではありますが、子どもたちの付き添い管理や、スタッフの子どもたちへの接し方の研修などは、試行錯誤しながら行っています」
学童施設などで行われる教育とキッズスポーツクラブのインストラクションでは大きく異なる部分がある。メガロスは、学芸大学と連携を組み、「教育」という観点での研修も欠かしていない。
“人”を活かした事業
従業員の活躍の場=事業のチャンス
1店舗目の武蔵小金井店で、順調なスタートを切ったキッズアフタースクール。会費収入が伸び悩んでいるなか、メガロスにとっても、新たな収益の柱になり得る事業だった。武蔵小金井店の成功を機に、2店舗目、3店舗目と矢継ぎ早に導入店舗を増やしていった。
とはいえ、たった1人のアイディアから生まれた事業だ。社内や他店舗から反発の声はなかったのだろうか?
「もちろん、反発の声はありました。でも、キッズアフタースクールが、お客さまに認められている以上、止めるという選択肢はありません。反対するなら、それ以上のアイディアを持って来て!というスタンスでいました(笑)」
新しい事業を始めるときには、反発はつきものだ。そこで、意思を貫き通すには、結果がすべてなのだろう。また、長岡氏がキッズアフタースクールに強い意志を持つ理由として、メガロスの「育児サポート」を受けている人財を活かしたいという想いがある。育児サポートは、出産や育児によってフルタイムで働くことができない従業員に対する制度であるが、このスタッフが輝ける場所を作りたかった。
「出産や育児で、フルタイムで働けないスタッフの中でも、力があり、組織に利益をもたらすことができる人はいます。しかし、そうしたスタッフが、時間的な制約を受け、十分な業務にあたることができない現状がありました。実際、このようなスタッフに、キッズアフタースクールに関与してもらったところ、とても積極的に働いてくれ、限られた時間の中でも成果を上げてくれています」と長岡氏は目を輝かせる。
人を活かすことができるということは、やりがいにつながる場があるということ。顧客のニーズとも合致していれば、当然それはビジネスチャンスになるのである。
週末を家族の時間に
顧客のニーズを解決する“学童”
キッズアフタースクールが、顧客から喜ばれている部分は、どこなのだろうか?長岡氏は、子を持つ親としての「便利さ」だけでなく、「家族の時間」を創造していると胸を張る。
「共働き家庭が増えている現代で、平日、子どもの面倒を見てもらえるというのは、便利なサービスでしょう。しかし、私たちの狙いは、キッズアフタースクールの習い事連携によって、平日のうちに習い事やスポーツスクールを完結することで、『土日は家族でゆっくり時間を過ごしてほしい』という価値提案をしています」
共働き夫婦では、平日に時間を作ることが難しく、土日に子どもの習い事をさせるという家庭も少なくない。習い事を受けている時間は1時間だとしても、準備や送り迎えをふまえると、結局ほとんど1日を費やすことになる。
しかし、長岡氏は、「家族との時間を大切にしたい」というニーズは確実にあると力説する。
キッズアフタースクールは、運動系の習い事から、子どもの思考を伸ばすプログラム、宿題サポートなど、ワンストップで完結する学童。特別、ほかの習い事を受けさせたいという願望がない限り「メガロスのキッズアフタースクールにいれておけば十分」と言われるほどの、体制をとっている。
「この習い事連携が、キッズアフタースクールの最大の魅力です。ワンストップで、子どものあらゆる可能性を引き出すことができます。こちらの意図通り、ある保護者から『土日に家族の時間が増えた』と言っていただいたときは、やって良かったと感じました」
人材の育成を強化
さらに世の中に拡げていく
キッズアフタースクールは、今後も拡大を進めていく。現在、16店舗で導入されているが、順次、導入店舗を増やしていく算段だ。長岡氏は「単なる本部からの指示にならないよう、私もなるべく現場に赴き、一緒に事業を作っていきます。お客さまにサービスを提供するのは、“現場”であり、そこで働く“人”なのです」と話す。
他社との差別化を図るには“人”しかないと主張する長岡氏、人材の育成については、永遠の課題と位置づけ、取り組んでいく。
また、キッズアフタースクールの一部をロールアウトし、施設外でのサービス化も視野に入れている。
「これだけ反響があるということは、おそらく社会的にも求められているということです。メガロスのお客さまだけではなく、より多くの方々に向けて、展開していきたいです」
何事も行動が成果を生み出す。さらなる野望を持って、邁進中の長岡氏が牽引するキッズアフタースクールの今後の動向に注目だ。