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奈良彬さん東京ヴェルディ株式会社スクール・SDGs部マネージャー
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中村一昭さん東京ヴェルディ株式会社普及コーチ、上級パラスポーツ 指導者パラスポーツコーチ
【日本商工会議所奨励賞】
インクルーシブスポーツで、誰もがスポーツに参加できる環境を
東京ヴェルディは、東京都をホームタウンとする、Jリーグに加盟するプロサッカークラブ。Jリーグ開幕初年度からリーグに加盟している。現在、男子プロサッカーチーム「東京ヴェルディ」のほかに、女子プロサッカーチーム「日テレ・東京ヴェルディベレーザ」、バレーボールや野球、チアダンスやeスポーツなど、15競技17チームを抱える総合クラブでもある。
東京ヴェルディでは、東京2020大会招致決定による機運の高まりにも後押しされ、障がいがある方のスポーツ環境を整える取り組みを進めてきた。2015年に日野市から始まった障がい者スポーツ体験教室をはじめとする活動は年々広がり、2022年までに、障がい者スポーツ普及事業全体で、年間約250回を重ねる活動に拡大している。地域でのSDGs3の目標「すべての人に健康と福祉を」への貢献により、SDGsロゴの掲載が国際連合にも正式に承認され、サッカーチームの選手や監督コーチのウェアには、チームロゴと並んで、SDGsのロゴが掲出されている。
この取り組みが、継続的に拡大してきている要因について、東京ヴェルディで当取り組みの推進を担当する奈良彬さんは、こう話す。
「障がい者の方の中でも、誰かの助けがないとスポーツをすることが難しい方を対象としています。というのも、障がいのある方のなかには、特別支援学校在学中は体育の授業や運動の時間に身体を動かせても、卒業後にスポーツの機会がほとんどなくなってしまう方がたくさんいらっしゃいます。我々は、特別支援学校でのスポーツの授業も受託しており、市区によっては小学校から高校年代、そして卒業後のスポーツ教室までを、一貫してサポートしています。学校を卒業しても、スポーツ教室で会える機会が継続的にあることで、コミュニティが生まれており、保護者の方にとっても安心感につながるとお声をいただいています」
障がい者スポーツ教室の開催は、平日の14:00頃からと、土日などに1時間程度、各地区月1~3回の頻度で開催している。場所は、地域の体育館など。内容は、サッカーやダンス、バスケットボール、パラリンピック種目などから、楽しみやすい要素を切り出して、参加者が安全に、過ごしやすい雰囲気づくりを大切にしている。
スポーツ教室を担当する中村一昭コーチは、参加者に継続して参加してもらえる教室運営についてこう話す。
「まず、参加者の方々が過ごしやすい空間づくりをすることを大切にしています。教室には福祉作業所の方が一緒に来てくださいますので、そのスタッフの方にとっても、居心地のいい場所になるように心掛けています。行政の方、福祉のプロ、我々スポーツのプロの3者で、障がい者の方々が安心安全にスポーツを楽しめる環境を支えていくことが、継続した活動にできる重要なポイントの一つです」
足立区では、この障がい者スポーツ教室をきっかけに、足立区全体のスポーツまちづくりに向けた連携協定にも発展している。今後、区内にある小学校67校を訪問し、ボッチャや5人制サッカー、デフサッカー、シッティングバレーボールなど、パラスポーツを通して障がいのある状態を疑似体験する機会をつくることを計画。障がい者への理解を深め、思いやりを育てることで、インクルーシブなスポーツまちづくりを実現していく。
「障がい者のスポーツ環境づくりには、障がい者の方がスポーツに参加できる環境づくりとともに、健常者の方の意識や理解を深めることも必要です。今後は『インクルーシブスポーツ』として、障がい者と健常者が一緒にスポーツに取り組める機会も増やしたいと考えています。情報発信力のある東京でこうした活動を拡げることで、ほかの地域にも活動が広がり、『どこに住んでいても、誰でもスポーツが気軽にできる』ようにすることが目標です」
スポーツ教室の運営は、行政からの業務委託費と、企業からの支援金などが財源になっている。今後、こうした活動に賛同する行政や企業との連携が広がっていくことが期待されている。