新型コロナウイルスの感染拡大を受け、困難な局面に立たされているクラブやインストラクター・トレーナーは多いことだろう。フィットネスビジネス編集部では、現在、本誌に連載「Small Business」をご担当いただいている株式会社Scoop代表取締役板倉陽一氏に、同氏が運営するブティックスタジオ「おゆみ野スクエア」での取り組みをご紹介いただくことで、そのような施設やインストラクター・トレーナーに参考にしていただきたいと考えた。以下に刻々と変化する状況のなか、同施設がどのような対応を行っていったのか、フィットネスビジネス5月発行号の同連載を、一足先にここにご紹介する。

最優先は既存会員やクライアントの維持

新型コロナウイルスの影響により、フィットネス業界が大きく揺れています。スタジオ・ジム経営者ならば、グループレッスンをなくしたり、完全にクローズにしているところもあるでしょう。休会や退会が出てしまっているところも多いと聞いています。フリーインストラクターや店舗をもたずに活動しているパーソナルトレーナーも、スポーツクラブでのスタジオレッスンが軒並みクローズになったり、トレーニングする場所がクローズになり、まったく仕事がなくなってしまったという話も聞きます。

私たちの経営するおゆみ野スクエアも大きな影響を受けました。そこで、今回は予定を変更して、この騒動のなか、私たちがどのような行動を取ったのか? こういった不測の事態に必要なことは?についてお知らせいたします。特にスモールスタジオ・マイクロジム経営者や、フリーインストラクター・パーソナルトレーナーの方など、個人~小規模事業者に参考にしていただけたらと思います。

スタジオやジムにとって、本来であれば、今の時期は春の新規獲得のシーズン。おゆみ野スクエアでも、2月からポスティングを強化していました。しかし、状況は一変しました。webに力を入れようが、ポスティングの枚数を増やそうが、そのコスト・労力・時間に見合った集客はできないでしょう。それよりもまず大切なのは、既存の会員やクライアントの維持です。そのために私たちは以下の行動や対策を講じました。

1.安全性の徹底と情報発信

今回の騒動、メディアの正しくない発信によってフィットネスがやり玉にあげられてしまいました。これが最初に休会や退会が出てしまった最大の原因です。あれだけ不安を煽られれば仕方ありません。そこで、まず最初に私たちは、安心・安全をアピールしました。3月にFIAから出されたガイドラインがありましたが、これに沿った運営をし、それをしっかり発信しました。

FIAが発表したガイドラインにある十分な換気や、参加者同士の距離の確保に加え、スタジオ内に次亜塩素酸水を噴霧し空間除菌も行った

2月にメディアでスポーツクラブが悪者扱いされた直後、おゆみ野スクエアでも休会希望者が何名か出ました。すぐに次亜塩素酸水(漂白剤を薄めてつくる次亜塩素酸ナトリウムとは違い、食塩水を電気分解して生成したもので、弱酸性で人体に無害にもかかわらず、その効果は優れているものです)で手指の除菌や、館内すべての清掃や空間除菌対策をしていることを発信したところ、その直後から休会が止まり、皆さん安心して来館されるようになりました。

館内のあちこちに次亜塩素酸水のボトルを設置。会員や近隣住民に対しても無料配布したところ大変好評であった。スタジオ休止中も無料配布を継続しており、会員との関係維持に役立っている

2.オンラインでのレッスンLIVE配信

それでも日ごとに感染者が増えたり、毎日の不安な報道に「来館するのが怖い」「来たいけど、家族に止められた」「家でYouTube見ながら1人でやっていてもつまらない」という声があがりました。

そこで、来館できない会員向けに、オンラインでレッスンをLIVE配信することにしました。その際、重視したのがスピードです。午前中に上記の声を聞いてすぐ、パソコンをスタジオにもち込み、ZOOMで配信することを決めました。すぐにZOOMが初めての会員向けにマニュアルサイトをつくり、LINEやメッセンジャーなどで配布。その日の夜のレッスンからLIVE配信を開始しました。

余談ですが、ほかの同規模のスタジオでもオンライン配信をした方も多いと思いますが、そのころのSNSの投稿を見ていると、「オンラインレッスンのために勉強します」や「撮影した動画の編集にてこずっています」といった方が多くいました。こういったときというのは、クオリティよりもスピードを重視するべきです。それが個人~小規模の強みでもあるのですから。

こうして、スタジオに来られなくても、ほかの会員やインストラクターとのつながりを維持することができ、結果、休会や退会という方は出ませんでした。

3.必要なものを届ける

オンラインでのレッスン配信もそうですが、そのとき会員が必要なもの、困っていることに全力で対応しました。今回の騒動でもっとも多かったのが、マスクや消毒液の不足ではないでしょうか。これは偶然ですが、当施設では、除菌・消毒のための次亜塩素酸水を生成できる機械を保有していました。毎日自家生成し、空のペットボトルに詰め、会員や近隣住民への無料配布を開始しました。これは非常に喜んでいただき、毎日数名の方がもっていかれます。

何も特別なものでなくて構いません。会員やクライアントの声をいま一度しっかり聞いてみてください。

4.休止の決定

私たちにできることは精一杯やってきましたが、それでも爆発的な感染には勝てません。会員や委託インストラクターの感染リスクを考え、ほかのスタジオやクラブよりも早い、4月4日からスタジオレッスンの休止を決めました。

すぐに「休止中の口座引き落とし停止の件」「未消化のチケット繰り越しの件」などを含めた休止の案内をつくり、全会員宛てに郵送しました。日ごろ、主にFBやインスタで情報発信やイベントの告知をしている私たちですが、この手紙にはLINEのQRコードを載せ、休止中でもコミュニケーションが取れるようにしました。こうすることで、休止前と同じような状態で再開を目指してます。

もちろん休止を決める際、超少人数定員での継続という選択肢もありましたが、インストラクターの通勤時の感染リスクや、万が一のことを考え、完全に休止という決断をしました。

同じような規模のスタジオ経営者からは、「スタジオ休止ということは、その間の会費収入が途絶えるってことですよね。どうするんですか?」という連絡もありました。もちろん会費収入が途絶えるのは非常に痛手です。

このような状況ですから、同じように休止するところはもちろん、休止していなくても大きく売り上げを落としているスタジオ・ジム経営者、活動場所がなくなってしまったインストラクターやトレーナーのなかには、融資の申し込みをした方や準備をしている方も多いでしょう。たしかに今回の緊急融資というのは、無担保・無利子という好条件かもしれません。そのため、資金は潤沢にあるが手元に置いておき、使わなければそのまま返すという方はいいでしょう。

しかし、本来融資とは、発展的な使い道に則った事業計画のもとに受けるもの。落ち込んだ収入を一時的に補填するためのものではありません。それもいつ収束するかわからないこの事態において、補填のために融資を受けるのはお勧めしません。それならば、いっそ廃業や転職し、資金を貯めて再起したほうがよいでしょう。

私たちの会社では、現在のところ融資を受ける考えはありません。それだけ内部留保が潤沢かといえば、そこまで多くはありません。では、なぜ会費収入が途絶えたうえで、さらに融資も受けずに存続できるのか? それは、ほかにも複数の事業を展開しているからです。現在私たちの会社では、フィットネスのほかに「整体院」「美容商品の販売」「英会話スクール」「学習個別指導」「コンサルティング」といった事業を行っており、そちらからの売り上げ(収入)が確保できています。 

現在フィットネスでのオンライン配信はストップしているが、英会話スクールや学習個別指導では引き続きZOOMを活用してレッスンを継続。複数の事業展開をしていることで、キャッシュフローも安定している