総合型フィットネスクラブにとってプールは象徴的な設備でありながら、十分に活用しきれていないという課題を抱える施設は少なくない。プログラム数の不足、インストラクター確保の難しさ、稼働率の低さなど、プール運営の課題は全国のクラブに共通している。こうした状況を打開する新たなアプローチとして、株式会社ザ・スポーツコネクションが導入し、同社がフィットネス事業者への普及を始めたのが、バーチャルアクアフィットネス「ハイドロヘックス(HYDROHEX)」だ。自社クラブでの実践を通じ、プールの新しい価値を提示しようとしている取り組みを紹介する。
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株式会社ザ・スポーツコネクション代表取締役 CEO 除野健男氏
総合クラブの差別化資産としてのプール活用
株式会社ザ・スポーツコネクションは、東京・二子玉川で総合型フィットネスクラブ「Aqua sports & spa」を運営するフィットネス事業者だ。同クラブは「Well-being for the next 10 years(10年先も快適な身体をつくる)」をコンセプトに、ジム、スタジオ、プール、スパなどを備えた総合施設の魅力を活かし、会員の健康とライフスタイルづくりを重視した運営を行ってきた。
同社で代表取締役 CEO を務める除野健男氏は、総合クラブの未来を考えるうえでプールの価値に着目している。「ジムは24時間ジム、スタジオはブティックスタジオなど、専門型施設との競争が激しくなっています。その中で総合クラブが差別化できる要素の1つが“プール”です。水の中の体験は、デジタル化やオンライン化が進む時代でも代替されにくい“リアルな価値”だからです」。
一方で、多くの総合クラブではプールが十分に活用されていない現実がある。子ども向けスイミングスクールは盛況でも、成人会員の利用は限定的であり、施設としてはコストセンターになりやすい。こうした課題を解決し、プールを施設価値向上の核にしたいという同氏の強い想いが、同社の新たな挑戦の出発点となった。
プール運営に共通する3つの課題
除野氏によると、プールの活性化を阻む要因は主に3つあるという。第1にコンテンツの不足、第2にインストラクターの不足、第3にスケジュール運営の制約だ。
多くのクラブでは、プールの利用方法が、「泳ぐ」「歩く」といったシンプルなものに限られがちだ。スタジオのように多種多彩なプログラムを会員へ提供することが難しく、利用者の選択肢が広がりにくい。
さらに、アクアエクササイズのインストラクター確保も容易ではない。水中指導は体力的な負担も大きく、一日に担当できるレッスン数にも限界がある。人気プログラムであっても、人材不足により増設できないケースも多い。
加えて、プログラムスケジュールはインストラクターの空き時間に依存しやすく、本来であれば会員ニーズに合わせて柔軟に設計すべき時間割が実現しにくいという課題もある。
「プールを活性化したいと思っても、コンテンツと人材の制約がある。これは多くのクラブが抱えている共通課題だと感じていました」と除野氏。その解決策を模索する中で出会ったのが、バーチャルアクアフィットネス「ハイドロヘックス」だった。
デジタルコンテンツが変える水中エクササイズ

ハイドロヘックスは、水中で撮影された映像を活用したバーチャルアクアフィットネスプログラムである。特徴は、水中から指導するインストラクション映像をスクリーンで再生しながらトレーニングを行う点にある。
従来のアクアレッスンでは、インストラクターがプールサイドから陸上で動きを示すため、水中の浮力や抵抗を完全に再現することが難しい。しかしハイドロヘックスでは、水中での動きを前提にプログラムが構成されているため、レッスン参加者は実際の水中動作を視覚的に理解しながら、エクササイズを行える。
「水中映像だからこそ、浮力や抵抗を使った動きが直感的に理解できる。これは従来のレッスンとはまったく異なる体験です」と同氏。
さらに、参加者からは「没入感が高い」という声も多いという。スクリーンの映像に集中しながらトレーニングすることで、自分自身の運動に深く入り込む感覚が生まれる。水の浮遊感とデジタル映像が組み合わさることで、独特のエクササイズ体験が生まれている。
施設運営を変えるバーチャルプログラム

利用者体験だけでなく、ハイドロヘックスは施設運営の面でも大きなメリットをもたらす。プログラムは端末にダウンロードされたコンテンツをスケジュールに沿って自動再生する仕組みで、インターネットの常時接続も必要ない。あらかじめスケジュールを設定しておけば、スタッフが操作することなくプログラムが進行する。
これにより、インストラクター確保の問題を解消するとともに、プール営業時間中に常に何らかのプログラムを提供することが可能になる。また、デジタルコンテンツであるため、スケジュール変更も柔軟に行える。会員の利用傾向に合わせてプログラムを調整するなど、顧客ニーズに基づいた運営が実現しやすくなる。
同社が運営するクラブでは昨年7月のハイドロヘックス導入後、30本以上のプログラムをプールスケジュールに組み込み、プールエリアの活性化につなげている。
プールがクラブの魅力を高める
ハイドロヘックスの導入は、施設価値の向上にも寄与する。プールに多彩なコンテンツが生まれることで、利用者の来館動機が増え、クラブ全体の魅力向上につながるからだ。
実際、同社の取り組みに注目したフィットネス事業者も増えており、今年2月からイオンスポーツクラブ姫路店でも導入が始まっている。
除野氏は「プールは“ここに来ないと体験できない価値”を生みやすい設備です。プールが楽しいからクラブに通う。そういう会員さまが増えれば、結果として継続率にもプラスになります」と嬉しそうに話す。
ジムやスタジオが多様な競合と比較される時代において、水中という物理空間でしか体験できないプログラムは、総合クラブの独自性を強化する重要な要素となるのだ。
総合クラブの未来を広げる挑戦
同氏は、ハイドロヘックスの普及を単なる商品販売ではなく、フィットネスクラブの可能性を広げる取り組みとして捉えている。
「日本では多くの人が子どもの頃に水泳を経験しています。だからこそ、プールはもっと多様な形で楽しめるはずです。泳ぐだけでなく、水の中で身体を動かす楽しさを普及していきたい」今後、同社は導入クラブ同士の情報交換やコミュニティ形成なども視野に入れながら、プールの新しい活用方法を提案していく考えだ。総合クラブの魅力を高め、利用者の体験価値を向上させる。そのカギの1つとして、デジタルコンテンツを活用したプールプログラムの可能性は、今後さらに広がっていくことになりそうだ。