総合型クラブにとってプールは差別化資産である一方、稼働の伸び悩みや人材制約により“活かし切れない設備”になりつつある――。イオンリテール株式会社(以下、同社)が運営するイオンスポーツクラブでも同様の課題を抱えている。特に郊外立地・モール内という特性を持つ姫路店では、プールの利用価値をどう再設計するかが重要なテーマだった。その打ち手として導入されたのがバーチャルアクアフィットネス「ハイドロヘックス(HYDROHEX)」である。同社MD本部スポーツ事業部で営業企画担当部長の岸川誠一郎氏に、導入の意思決定から現場の変化、今後の戦略までを訊いた。
イオンリテール株式会社 MD 本部 スポーツ事業部 営業企画担当部長 岸川誠一郎氏
多業態展開の中で浮き彫りになるプールの課題
イオンスポーツクラブは、総合型クラブを軸に、ジム特化型、女性専用、サーキット型、シニア向け業態、オンラインなど多様なフォーマットを組み合わせて展開している。それぞれが異なる顧客ニーズに応える一方で、総合クラブは“すべてを備えるがゆえの難しさ”も抱えている。
「ジムやスタジオはトレンドに応じてアップデートしやすいが、プールは使い方が固定化しやすい」と岸川氏は語る。成人会員の利用は泳ぐ、歩くといった単機能に偏り、滞在価値を高める仕掛けが不足しがちだ。さらにアクアプログラムはインストラクターの確保が難しく、提供本数の拡充にも限界がある。
加えて姫路店はショッピングモール内に立地する郊外型施設であり、周辺には24時間ジムなど低価格・高利便性の競合が多数存在する。施設規模や設備の豊富さだけでは差別化が難しくなっている状況で、「総合クラブならではの価値をどう再定義するか。その象徴がプールだった」という。

導入の決め手は“体験価値”と構造課題への適合
プールにおける価値創出を模索するなか、株式会社ザ・スポーツコネクションが提供するバーチャルアクアフィットネス「ハイドロヘックス」との出会いは、昨年夏に開催された「SPORTEC」だったが、意思決定に至った最大の要因は実体験にあった。
岸川氏自身が体験した際に感じたのは、従来のアクアプログラムとは明らかに異なる没入感と運動効率の高さだったという。
「映像のリアルさにまず驚いたが、それ以上に自分の運動に集中できる感覚が新しかった。周囲を気にせず動けるので、結果的に運動量も増える」(岸川氏)。集団レッスン特有の“周囲との比較”や“ついていけない不安”を感じにくい点は、新規参加者の心理的ハードルを下げる要素となる。
同時に、運営面での合理性も評価された。水中映像を用いたプログラムは、インストラクターに依存せず安定的に提供できる。提供本数を増やすことができ、「やりたい時間にプログラムを入れられる状態」を実現できる可能性があった。
「コンテンツ不足と人材不足、この2つの課題に同時に手を打てる点が大きかった」。単なる新規性ではなく、自社課題との適合性が導入判断を後押しした。
姫路店での展開が生んだ利用行動の変化
ハイドロヘックス導入は姫路店のリニューアルに合わせて実施された。特徴的なのは、200インチ規模の大型スクリーンを設置し、視認性と没入感を最大化した点である。「中途半端な導入では価値が伝わらない」という判断から、あえて投資を行った。
現在は既存プログラムの合間や週末を中心に展開しているが、特に午前帯ではシニア層の参加が顕著に伸びている。定員に達するクラスも出始め、2コースから3コースへの拡張も視野に入るなど、明確な需要が確認されている。
これまで空き時間になりがちだった時間帯に“目的を持った利用”が生まれた点は大きい。単に利用者数が増えるだけでなく、プールエリアに滞在する理由が明確化されたことで、施設全体の回遊性にも変化が見られ始めている。
一方で夜間帯はまだ成長途上にあるが、岸川氏は「徐々に参加者は増えている。認知と体験機会をどう増やすかがカギ」と分析する。従来、ウォーキングや自主利用が中心だった時間帯にプログラム起点の利用が生まれつつあること自体が、構造変化の兆しと言えるだろう。
運営効率と顧客体験を同時に高める仕組み
ハイドロヘックスの導入は、運営面にも明確な変化をもたらしている。プログラムは事前に設定したスケジュールに沿って自動再生されるため、急な代行対応や人員配置の負担が軽減される。
「本数を増やしたくても人がいない、という状態から脱却できる」。これは単なる効率化ではなく、サービス提供の自由度を高める意味を持つ。需要に応じたプログラム設計が可能になり、結果として顧客満足度の向上にもつながるのだ。
また、指導を映像に委ねることで、スタッフの役割も変化した。現在は従来より、参加者への声掛けやフォローへの時間が増えている。「終わった後に自然と会話が生まれ、関係性が深まっている」と同氏。
さらに、映像のクオリティの高さも評価されている。水中での動きを視覚的に理解できるため、初めての参加者でも動きを把握しやすく、「きついが楽しい」「新しい体験」というポジティブな反応が多い。これは継続率向上にも寄与する重要な要素である。




投資判断と普及に向けた現実的アプローチ
今回の姫路店での導入は、明確な投資判断のもとで行われている。新規獲得、既存会員の利用頻度向上、退会抑止といった複数の指標をもとに回収シナリオを設計し、導入に踏み切った。
一方で、「現時点では想定通りの水準にはまだ達していない」というのが率直な評価だ。ただしこれは想定内でもある。岸川氏は「認知から定着までには3ヶ月から半年程度は必要。体験してもらえれば価値は伝わる」と話す。
今後は館内ビジョンの活用や他のテナントとの連動など、ショッピングモールという立地特性を活かしたプロモーションを強化する方針だ。日常的に来館する買い物客への認知拡大は、他クラブにはない優位性となる。
また、複数店舗への展開については、利用人数や参加率、継続率といったKPIを精査した上で判断する考えだ。「テスト結果を踏まえ、確度を高めた上で展開したい」と慎重かつ現実的な姿勢を見せる。

プールを“選ばれる理由”に変えられるか
総合クラブにおいてプールは本来、差別化の核となる資産である。しかし現実には、その価値を十分に引き出せていないケースも多い。だからこそ必要なのは、設備を増やすことではなく、使い方を変える発想だ。「プールがあるから選ばれるのではなく、プールが楽しいから通う」。岸川氏の言葉はシンプルだが、本質を突いている。ハイドロヘックスはその実現に向けた1つの手段に過ぎないが、“使われるプール”への転換を促す起点となり得る。
ジムやスタジオが専門特化型施設との競争にさらされるなか、水中というリアル空間でしか提供できない体験は、総合クラブの独自価値として再評価されつつある。
今回の取り組みは、プールをコストから価値創出へと転換する具体的な一歩として、業界に兆しを与える事例と言えるだろう。
本誌読者には、SPORTEC2026に出展する株式会社ザ・スポーツコネクションのブース(ブース番号:E3-27-35)に足を運び、ハイドロヘックスの成果や導入検討に資する情報を入手してもらいたい。
イオンスポーツクラブ 3FIT 姫路店
所在地:兵庫県姫路市飾磨区細江2560
イオンモール姫路リバーシティー1F
株式会社ザ・スポーツコネクション
所在地:東京都世田谷区瀬田4-15-1