AIやDXは、業務を効率化するためだけのものではない。会員一人ひとりの運動成果を可視化し、トレーナーの指導力を高め、継続率や顧客満足度の向上につなげる経営基盤にもなり得る。
ジョンソンヘルステックジャパン株式会社は、蓄積したデータとAI、マシン、そして人をつなぐ「Total Solution Partner」という発想で、フィットネス事業者の新たな成長モデルを描いている。
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ジョンソンヘルステックジャパン株式会社
Solution & Customer Success・Product Quality Management主任 マスケ スミズ ダス氏
「入会後の成果」が見えない業界課題
フィットネス市場を持続的に成長させるうえで、いま向き合うべき課題は何か。ジョンソンヘルステックジャパン株式会社のマスケ スミズ ダス氏(以下、マスケ氏)は、事業者とユーザー双方の視点から「カスタマージャーニーが見えづらいこと」を挙げる。ユーザーは入会したものの、何を、どの程度行えば自分のゴールに近づけるのかがわからない。体組成を測定する機会があっても、その結果が運動プログラムや日々の行動に結びつかなければ、成果を実感しにくい。成果が見えなければ、当然ながら継続する理由も弱くなる。
一方、事業者側にも課題がある。会員がどのように施設を利用し、どんな運動をし、どこでつまずいているのか。
トレーナーが会員の状況を十分に把握できなければ、適切な声かけやプログラムの修正も難しい。会員管理システムや各種機器が導入されていても、それぞれが個別に動いていれば、情報は分散する。マスケ氏が指摘するのは、AIやDXの導入そのものが遅れているというより、せっかくのデータやテクノロジーが一連の顧客体験としてつながっていないという問題だ。
「幽霊会員になってからデータを見るのではなく、そうなる前に課題を見つけて改善する」。この発想こそ、DXを経営課題の解決に活かす出発点になる。
AI・DXは人を減らすためではなく人の価値を高める力
では、テクノロジーは何を変えるのか。ジョンソンヘルステックジャパンが示すのは、マシン単体ではなく、AIやDXとトレーナーの力を組み合わせ、会員のゴール達成までを支える考え方だ。
現在、同社がAI・デジタル領域で展開する代表的なソリューションの1つが「EGYM」であり、さらに新たなトレーニング体験を提供する「PACE」も展開している。重要なのは、テクノロジーを導入すれば自動的に顧客体験が良くなるわけではないという点だ。
マスケ氏は「AIか人か」ではなく、「人×AI」という考え方を強調する。AIはトレーナーの仕事を奪うものではなく、会員をより深く理解し、より良い指導を行うための力になる。運動履歴や身体データを活用して会員の状態を把握し、その情報をもとにトレーナーがコミュニケーションを取る。テクノロジーによって生まれた時間や情報を、人にしかできない伴走や励ましに振り向けるのである。
これは経営面でも意味が大きい。入会者数を追うだけでなく、会員が成果を実感し、長く通い続ける仕組みをつくることで、退会率の改善、顧客生涯価値の向上、スタッフの指導品質向上といった複数の課題にアプローチできるからだ。
蓄積データとオープン連携が生む独自性
同社の強みとしてマスケ氏が挙げるのが、長年にわたり蓄積してきたデータと、それをAIに活用できる環境である。取材では、EGYMで80億以上、MATRIXで100億以上のデータを保有していること、さらに医療グレードの体組成計メーカーで180年以上の歴史を持つsecaとの取り組みなどを背景に、フィットネスに特化したAIの開発を進めていることが語られた。
しかし、同社の強みはデータ量だけではない。自社製品だけで施設全体を囲い込むのではなく、他社の機器やシステムとも連携しながら、クラブごとの課題に合わせて最適な環境を組み立てる「Total Solution Partner」という姿勢を打ち出している。会員管理システム、プロテインサーバーなど、様々なサービスとの連携を視野に入れ、施設が目指す姿から逆算してソリューションを考える。
これは、機器を「売って終わり」にしない発想とも言える。どのような会員を集め、どんな体験を提供し、どんな成果を生み出したいのか。その問いに対して、マシン、デジタル、データ、運用、人材を組み合わせて答えを出す。
そこに同社ならではの柔軟性がある。
導入成果を支えるのは「使いこなす人」
テクノロジー導入の成否を分けるのは、システムの性能だけではない。現場がその価値を理解し、日々の運営に落とし込めるかどうかだ。マスケ氏がその象徴として挙げるのが、「EGYMマスター制度」である。AIマシンやデジタルソリューションを導入しても、トレーナーが使い方や考え方を理解できなければ、会員の成果にはつながりにくい。そこで同社は、デジタルを活用した指導を担う人材を育成する仕組みとして、グレード1~3の認定制度を設け、証明書も発行している。今後はMATRIXでも同様の取り組みを進める予定だ。
同社の顧客事例では、従来、有酸素エリアに利用が偏り、フィットネスエリアの利用が少なかった既存店で、EGYM導入後に約6割がEGYMを利用するようになり、数ヶ月後には会員データにも改善が見られたという。また、新規店舗では8割以上のKPIを達成しているとのことだ。もちろん、導入成果は施設の運営方法やスタッフの関わり方などによって変わる。それでも、設備を置くだけでなく、利用を促し、データを確認し、指導へつなげる仕組みを構築することの重要性は明確だ。
EGYMマスター制度について同社が紹介する顧客の声にも、「一人で学ぶ」のではなく「皆で育てる」という趣旨の学びが表れている。個人のスキル向上をチームの成長につなげ、さらにその成長を会員の成果へ還元する。この循環こそ、DXを定着させるカギになる。
目指すのは「メイド・イン・ジャパン」の進化
マスケ氏が今後の展望として強く語った言葉が「Made in Japan」だ。海外の成功事例をそのまま日本へ持ち込むだけではなく、日本のフィットネス現場が持つ知恵や運用ノウハウ、トレーニングの考え方を、日本発の価値として外へ発信していきたいという。
そこには、単なるメーカーの成長にとどまらず、フィットネス市場そのものを大きくしたいという思いがある。
特に、今後さらに高齢化が進む日本では、総合型クラブやメディカルフィットネスなど、運動を通じて健康を支える場の重要性が増す。そのとき必要なのは、単に運動できる場所ではない。自分の身体の状態を知り、目的を定め、何をすればよいのかを理解し、成果を確認しながら続けられる仕組みである。AIやDXは、その一連の流れを支える基盤になる。
そして、その実現には一社だけではなく、メーカー、システム会社、施設運営者、トレーナーなどが知恵を持ち寄ることが必要だ。同氏が構想するのは、EGYMマスター制度などを起点に、若い世代を含む業界関係者が集まり、より良いフィットネスの未来を考える場でもある。
会員の成功から業界全体の成長へ
「メンバーさんの成功はフィットネス事業者の成功、フィットネス事業者の成功は我々の成功」。取材の最後に語られたこの言葉には、同社がAI・DXを捉える姿勢が凝縮されている。
AI、DX、テクノロジーは、それ自体が目的ではない。会員が成果を実感し、トレーナーがより良い指導を行い、事業者が継続的に価値を提供できる状態をつくるための「手段」である。だからこそ、導入を検討する際には、最新機器の有無だけでなく、「自社のどの経営課題を解決したいのか」「会員のどの行動を変えたいのか」「スタッフがどう活用するのか」までを一体で考える必要がある。
ジョンソンヘルステックジャパンが掲げる「Total Solution Partner」は、その問いに対する1つの答えだ。自社の強みを持ちながら、外部との連携にも開かれ、施設ごとに異なる課題へ柔軟に向き合う。テクノロジーを人の代替ではなく、人の価値を高めるために使う。その視点に立てば、AI・DXはコスト削減の道具から、顧客体験と事業成長を同時に生み出す経営資源へと変わる。
フィットネス業界が次の成長段階へ進むために必要なのは、「AIを導入したクラブ」ではない。「AIを使って、会員の成功を増やせるクラブ」だ。その変化を支えるパートナーとして、同社の取り組みは今後さらに注目されそうだ。