これまで運動・スポーツの価値は、主に「医療費・介護費をどれだけ減らすか」というマイナスの文脈で語られてきた。

だが今、国の議論の重心が動きつつある。運動・スポーツを、成長戦略を支える“人材への投資”としてプラスの側から捉え直す—そんな流れが、政府の会議、大学発のシンポジウム、そしてスポーツ庁の検討会から相次いで立ち上がっている。

ウエルネス産業にとって、これは無視できない追い風と言える。好機と捉え、前向きに自社ができる施策を着想し、実行に移したい。

成長戦略会議に示された「12.61兆円」

その象徴が、文部科学省主催の「第4回日本成長戦略会議人材育成分科会」(4月9日開催)だ。日本の持続的な経済成長を支える人材育成をテーマに、有識者が分野横断で議論する政府の会議体で、「文化芸術・コンテンツ分野の人材育成」と「運動・スポーツを活用した人材の健康基盤(インフラ)構築」の2つが俎上に載った。

委員を務める筑波大学大学院の久野譜也教授(つくばウエルネスリサーチ代表)は、提出資料「スポーツによる人材育成の重要性」に基づき、簡易試算を提示。スポーツによる健康改善がもたらす経済効果を約9.07兆円、医療経済への効果を約3.54兆円とし、合わせて約12.61兆円にのぼると説明した。

その上で、「就労期間の延伸と生産性向上に寄与するスポーツの価値は、他への波及も含めて高く、とくに高齢者・女性で効果が期待できる」と指摘。スポーツ実施がソーシャルキャピタルの向上やつながりの強化に寄与することは科学的に確認されているとし、「成長戦略に資する人財育成法として、スポーツ政策の推進が必要」と結んだ。この議論は、政府が今後まとめる「骨太の方針」へ向けた土台づくりの一環でもある。

「マイナスを減らす」から「プラスを生む」へ

久野教授の主張の核心は、発想の転換にある。5月に開かれた後述のシンポジウムでは、この点をより踏み込んで語っている。

「これまでは医療費・介護費などのマイナスを減らすことに力点を置いてきた。だが運動・スポーツには前向きな社会経済的効果が期待できる。政府や自治体は今後、そこに投資すべきだ」。

さらに、セルフケアとしての運動だけでなく、就業中に運動・スポーツを行うという選択肢にも言及し、「大きなコンセプトチェンジが必要だ」と強調した。

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