これまでの常識的な24時間セルフ型ジムを超え、対象顧客に、圧倒的な利便性と高い体験価値を提供する24時間セルフ型ジムが、大阪・平野にオープンした。グローバル展開を進めるスナップフィットネスの日本における2号店となるスナップフィットネス喜連瓜破(きれうりわり)駅前店。同店を訪れ、日本において同ブランドをフランチャイザーとして展開するグローバルフィットネスジャパン株式会社(以下、GFJ)代表取締役社長竹ノ内和樹氏に、目指す店舗像や今後の課題、展望などについて訊いた。

1号店となるスナップフィットネス吉祥寺店。吉祥寺駅至近で、視認性も高い
竹ノ内和樹氏
グローバルフィットネスジャパン株式会社 代表取締役社長

アメリカ本部の手厚いサポートに感謝

スナップフィットネスは、2003年にピーター・トーントンによって設立されたヘルス&フィットネス企業(本社:ミネソタ州チャンハッセン)であり、親会社であるLiftBrandsや様々な関連会社を通じて、スナップフィットネスを含む複数のブランドをグローバル展開している。そのほかのブランドには、9Round、YogaFitStudios、Insurgence、SteeleFitness、Kosama、TRUMAVなどがある。同社は、26以上の国々で100万人以上のメンバーと2,000軒以上の店舗を開業、または新たに開発を予定しており、米『アントレプレナー』誌が毎年発表する「フランチャイズ500」に過去10年間、毎年ランクインしている成長企業である。

24時間セルフ型ジム業界としてのスナップフィットネスは、「人々が素晴らしい気分になれるようなポジティブなライフスタイルの習慣化を支援する」ことをコンセプトに、レベルに関係なく、最も包括的で共感でき、サポート力のある体験を提供。心地よい雰囲気、使いやすい機器、最新の技術革新、明確なガイダンスにより、フィットネスをシンプルなものにすることにこだわっている。アメリカの48州に加え、オーストラリア、ベルギー、カナダ、エジプト、ジョージア、香港、インド、インドネシア、アイルランド、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、フィリピン、スペイン、台湾、トルコ、アラブ首長国連邦、イギリスで店舗展開していて、現在までに総計2,000軒以上の出店を果たしている。日本では、GFJがエリアフランチャイザーとしての権利を取得して、’20年11月に東京・吉祥寺に1号店を出店し、現在、本稿で紹介する2号店とあわせ総計2店を構え、今後、フランチャイジーも含めて多店舗展開に入っていくフェーズとなっている。

24時間セルフ型ジム業態と言えば、これまでは主に筋トレ志向の強い20~30歳代の男性がそのニーズを満たせるように、延床面積70~90坪とコンパクトな施設にウェイトスタックのトレーニングマシンとフリーウェイトマシンを中心にレイアウトし、文字通りセルフサービススタイルで利用するジムがほとんどだった。なかには、午後6時以降のピークタイムに使いたいマシンが使えないほど混雑していたり、マナーの悪いユーザーが特定のマシンを長時間独占しているために使えなかったりといった状況の店舗も出始めてきている。同様の業態のジムは、日本にすでに2,000軒ほどあり、近年は異なるブランドが近距離でしのぎを削るような状況となってきている。混雑やマナー違反がなく、居心地のよい空間で快適にトレーニングでき、なおかつ既存の24時間ジムとは差異化されたバリューのあるジムが求められてきているわけだ。

こうした変化は、FitnessBusiness通巻第117号(2021年11月25日発行号)で、ザ・ベター・トゥモロー・ラボ代表山﨑徹氏も予測していた。同氏は、そのインタビューで次のように答えている。

「(産業史を振り返ると)フィットネス業界は15年周期で変化が起こっています。1964年の東京オリンピック後にフィットネス業界が立ち上がり、15年後にバブルが崩壊、総合業態が栄えた後、15年後にリーマンショックでデフレが起こり東日本対震災に見舞われてバジェット型のジムが台頭、そして現在はそこから約10年が経過しています。15年周期のうちの最初の10年は店舗数が増えるのですが、そこからの5年間は出店過多や外部環境の変化も加わり利益率が減少していきます。現在、コロナ禍によって店舗間の業績に開きが出てきています。ですから、ここからは業態・サービスの変更や革新を念頭に取り組んでいかないと利益率を落とし、成長していくことが難しくなります。フィットネスビジネスというのは、既存の店舗に対して競争力のある業態・サービスが新たに参入~定着して、その勢力が拡がるということを繰り返しているわけですが、今後は大きく二極化していきます」

同氏が、ここでいう二極化のうちの、片方がいわゆるLP/HV(LowPrice/HighVolume)化であり、さらにバジェット化が進むというものであり、もう片方が現在のバジェット型ジムの機能的な価値を拡充しつつも、新たな価値も付加したものへと進化するというものであろう。

今回、ここで、紹介するスナップフィットネス喜連瓜破駅前店は、まさに同氏が予測したうちの後者、すなわち現在のバジェット型ジムの機能的な価値を拡充しつつも、新たな価値も付加した進化系ジムにあたるものといえよう。これまでの24時間セルフ型ジムの「不」の要素を解消し、未来を見据え、新たに「快」の要素を付加した店舗になっている。同氏は、「まさにこのタイミングでのスナップフィットネスの登場は絶妙で、レッドオーシャンであえぐ24時間セルフ型ジム船団を一気に超え、ブルーオーシャンを目指し、爽やかに、そして悠々と航行している未来の様子が想像できます。スナップフィットネスは、新たな15年周期のリーディングクラブになるポテンシャルを十分に備えていると思うのです」と述べている。

同店について詳しく訊く前に、まずGFJが、どうしてフィットネス業界、とりわけ24時間セルフ型ジム市場に「スナップフィットネス」ブランドで参入したのか、その経緯を代表取締役社長竹ノ内和樹氏に訊いてみることにした。

「当社の株主は、『ミクちゃんガイア』ブランドでパチンコ遊技場などを展開する株式会社タツミコーポレーション(兵庫・明石)なのですが、同社の社長とともに、多角化のための事業アイデアを各方面にアンテナを立て探っていました。そこで、現在は当社で取締役を務める近藤克哉から『スナップフィットネス』というアメリカで勢いがある24時間セルフ型ジムチェーンを日本でフランチャイズ展開していく事業の紹介がありました。それが、フィットネス事業とつながった最初でした」

竹ノ内氏は、そこからフィットネス市場について、調べ始めた。

「当時は、コロナ前ということもあり、フィットネス市場は、空前の盛り上がりを見せていることを知ることになります。私の暮らす兵庫県三木市周辺にも、地元資本の会社が『SynerGym(シナジム)』ブランドの24時間セルフ型ジムを展開するなどの動きを見るにつけ、もし本格的に参入するなら早いうちに好立地を押さえないと、先行他社に遅れをとってしまうのではないかと思いました。また、SPORTECでFIA(一般社団法人日本フィットネス産業協会)主催のパネルディスカッションなどに参加してみると、事業者同士があまりギスギスしていなくて、業界としてまとまりがあり、みんなで話し合い、明るい未来をつくろうとしているところに魅力を感じました」

業界に対しても、好印象を抱いた竹ノ内氏は、アメリカのスナップフィットネス本社にも代理人を通じて連絡するなどして、そこから半年ほどかけてさらに詳しくスナップフィットネスについて調べたうえで、’19年11月に本契約を交わし、アメリカへと研修へと向かった。

「ミネアポリス(ミネソタ州)で、スナップフィットネスの経営者や国際担当のスタッフに会うと、彼らの人柄のよさがすぐに分かりました。とてもアットホームな雰囲気で、チームが一丸となっていることも肌で感じることができました。何でも相談に乗ってくださり、とても頼りにさせていただきました。その姿勢は、私たちがコロナ禍で立ち上げに苦しむことになったときにも全く変わりませんでした。本当に感謝しています。何より彼らと一緒に楽しく働けていることが、うれしいです」

こう話す竹ノ内氏であるが、「スナップフィットネス」というブランドにも大いに惹かれたという。

「赤がブランドカラーなのですが、店舗のデザインも含めて、パッションを感じとても好感がもてました」

そして、’20年11月、いよいよ1号店にあたる吉祥寺店(東京)をオープンすることになる。折から東京はコロナ禍が社会・経済に打撃を与えており、その影響を同店も立ち上がりから被ることになる。だが、「総合業態ほど集客に影響が少なかったことや、米国本部の協力や励ましもあって、落ち込んだりピボットしたりすることもなく、前向きに1号店の立ち上げに取り組めた」(竹ノ内氏)。

大切にしたいのは、「あたたかさ」

JR中央線吉祥寺駅の北側の閑静な住宅街のなかにできた吉祥寺店は、当初、延床面積84坪のビル1階のスペースに、ウェイトスタックのマシンやフリーウェイト、カーディオマシンとともに、テクノジムのAI搭載マシンである。バイオサーキットを配置し、そのうえさらに小規模のスタジオも併設して開業した。

小規模スタジオも併設させることにしたのは、周辺にスタジオを付帯した複数の競合クラブがあったことに加えて、24時間セルフ型ジムがこれまで対象にしていた顧客層だけではなくほかの顧客層にも訴求し利用してもらおうと考えたからであった。

「オープン当初からのプロモーションとして、スタジオを無料化して、それをマグネットに集客を進め、ジムも利用できる会員種別に入会してもらおうと考え取り組んでいたのですが、コロナ禍の影響もあり、思うようにスタジオの集客が進まなかったために一時的に中止していました。その後、’21年12月、そのスタジオスペースに、フリーウェイトを中心に設置し、ジムを拡充しました」。

その効果はすぐに出て、リオープンした月に100人を超える入会があり、以降も在籍会員数は右肩上がりとなっていった。「まだ成長を続けていかなければいけません」と決意を口にする竹ノ内氏だが、すでに会員数はほぼ計画に達している。

同店が、安定的に推移したこともあり、2号店の出店を探ることになった。そして、出店したのが、喜連瓜破駅前店だ。

同店は、複合商業ビルの2階のL字型をした延床面積220坪の広々としたスペースにあり、GFJの株主であるタツミコーポレーションがフランチャイジーとなり出店している。したがって、構造的には、ほぼ直営店といえるのかもしれない。喜連瓜破駅前店が入居する前にも、別ブランドの24時間セルフ型ジムが入居していたため、一部の内装は、そのまま活かすことができ、設備投資を抑えた出店ができることになった。とはいえ、周辺には4軒ものエニタイムフィットネスが出店しており、決して楽に集客できる環境とは言い難い。竹ノ内氏は、こうした2号店の立地について、「今後、FC展開していくうえで知見を得るためにも1号店と全く違う立地環境―しかも、競争環境が激化しているエリア―というところも、興味深かったのです」と、話している。実験ドリブンな取り組みをして標準的なモデルを固めていくうえでは、都心よりもこうしたイニシャルコスト、ランニングコストが安価なところで、対競合に対して確度の高い仮説を立てて試すことができる立地が向いているといえるのかもしれない。

内装は、躍動感と同時に安心感を与えるブランドカラーの赤に、黒と白を組み合わせ、この空間に入ると、自然にエネルギーが出てトレーニングがしたくなるような雰囲気をつくりだしている。壁面のビジュアルの一部にトレーニングする女性とともに、当地のランドマークである大阪城を写したサイネージを採用し、地元感を醸し出す工夫も取り入れている。グローバルのブランドコンセプトと同様に、同店も「あたたかさ」を大切にしていることから、意図してこうしたデザインにしているのである。設備的には、スペース的に広々としていることから、吉祥寺店以上に充実させている。バイオサーキットウェイトスタックのマシン、フリーウェイト、カーディオマシンを配置しているところは同じだが、フリーウェイトの拡充ぶりが同類のジムを軽々と凌駕しているレベルにある。スクワットラックを3台、ベンチ類を9台などのほか、ダンベルは50kgまで揃えている。こうしたマシンやギアをワンストップで使えるところが、会員にとっては大きな魅力になっている。それでいて、会費は、月額6,600円(税込)と、周辺の競合クラブより安価に抑えられている。「関西初の店舗ということもあり、お客さまに向けて価格も含めて謙虚な姿勢で対応すべきと考えました」と、竹ノ内氏は述べる。オプションサービスとしては、水素水サーバー、契約ロッカーなどを用意。利用したい場合は、それぞれ月額1,100円(税込)となっている。

24時間セルフ型ジム業態といえば、これまで対象顧客は、20~50歳までの男性に偏る傾向が強かったが、同店は、女性の構成比率が40%と高い。「(24時間セルフ型ジム業態の)従来の対象顧客にはそのままお越しいただきご入会いただいたうえで、さらに新しい顧客層がどれだけ興味関心をもってご入会いただけるかにかかってくると考えていましたので、まずは一安心しています。これからも、『今までは、ジムなんて』と思っていたような方々にご入会いただけるようなジムを目指していきます」

竹ノ内氏は、こう語り、ここまでは意図通りの集客ができていることを示すとともに、今後もさらに新しい顧客層に支持されることを目指す。

新しい顧客層に支持されるには、今後、さらにどんなことが求められるのか?同氏に問うと、次のように応じた。「そこには、人の力が必要ですね。スタッフとのちょっとしたコミュニケーションで、お客さまは、入会したくなったり、また来たい、継続したいと思うようになったりするはずで、そういう対応ができるようにスタッフが育ってくれたらと思っています。当社は当社なりの人材育成方法で、お客さまとスタッフ、お客さま同士の間に、絆ができていくようにしていけたらと考えています」。

同社は、24時間セルフ型ジム業態といえども、同類の他店とはここで差異化を図っていこうとしている。既述カーディオラインも充実。奥には、バイオサーキット(テクノジム製)エリアも設置(喜連瓜破駅前店)テクノジム製のストレングスマシンやフリーウエイトに加え、バイオサーキットエリアも設置(吉祥寺店)May-June2022◎FitnessBusiness12023注目の動きした、大切にしているコンセプトとしての「あたたかさ」を担保するマネジメントバリューチェーンのキーに、この同社ならではの人材育成方法を位置づけているのだろう。

差異化された24時間セルフ型ジムを目指す

‘22年3月18日にグランドオープンしたばかりで、取材時はまだ3週間ほどしか経過していなかったが、前述のように事前期待を上回る利便性のよさに加えてスケール感があるにも関わらず、価格がリーズナブルであることもあり集客は順調に進んでいる。

竹ノ内氏は、「競合の状況にも左右されるかもしれませんが、1年以内に1,200名まで在籍会員数を伸ばしたいと考えています」と述べる。この目標会員数を突破することができれば、投資回収も2年程度で済ませることができるという目算があるのだろう。

竹ノ内氏ら同店の関係者にとって、今、最ももらって嬉しいものは、お客さまからの評価の声だ。

「特に、意図して対象とした新しい顧客層として設定した女性から『雰囲気のいい店を創ってくださり、ありがとう』といった声がいただけると、コンセプトにしている『あたたかさ』を感じていただけたのではないかと受け取れ、モチベーションがぐんと上がりますね」

竹ノ内氏は、こう語る。実際にいただいた声として、「他店を見学したとき、スタッフに粗末な対応をされたのですが、その後ここに来たら親切な対応をしてくださったので、すぐに入会を決めました」といったものもあり、自店のスタッフを誇りに思うとともに、とても嬉しくなったという。

ブランドは、提供サイドだけではつくることができない時代に入ってきているのではないだろうか。こうした意図して招いた顧客層が増え、コンセプトとしているサービスに対して便益を感じ、満足してくださり、周りに口々に良い評価を伝えてくれることで、ブランドは形成されていくのではないか。逆に、招かざる顧客層が来てしまうようでは、ブランドは形成されないだろう。また、経営層が、スタッフに対して普段からよい関係性を築いていないと、スタッフもお客さまに対してよい接客をすることもないだろう。

運営は、ノースタッフデーとしている水曜日を除き、毎日午前11時~午後8時までは、スタッフが常駐し、入会受付や指導サービスなどを担当している。あえてコストがかかろうとも、今から人を配置してこうした対応をするのは、「顧客の立場になってみれば、そこに自分のことを親身になって対応してくれるスタッフがいて、お客さまの『こうしてほしい、ああしてほしい』と思ったことに対応することで、競合と差異化していきたいと考えるから」(竹ノ内氏)であり、そういうスタッフがいることによってLTV(顧客生涯価値)が高めたいと考えるからであろう。

これからの時代は、頭脳労働や肉体労働は、それぞれAIやロボットが代替するようになるのだろうから、残された感情労働の部分こそ、人間が対応すべきところになるのだろうから、竹ノ内氏が考えるようにスタッフの対応を重視していくことは理にかなっているのではないか。

「顧客の身体的、精神的な状態を分析するのは、AIに任せたらいいと思うのですが、唯一コミュニケーションはスタッフが笑顔であたたかく対応したほうがいいですよね」と竹ノ内氏も、実感を込めてこう述べる。

今後は、スタッフがそうした行動を主体的にできるように評価制度なども改め、顧客から選ばれる店舗になり、その仕組みをフランチャイジーにも提供して、ともに成長していけるようになりたいと考えている。アメリカの先進クラブでは、会員がスタッフの好ましい行動を見つけたら、名前を実名で表記して投票できる仕組みを備えているクラブもあるが、同店も、今後こうした仕組みを取り入れていくとよいのかもしれない。

プロモーションに関しては、あえて大々的な広告宣伝は控え、次のように語る。

「今はそれほど注力しようと思っておらず、それ以上に運営面を大切にしてお客さまが安全に、快適に、利便性よく使っていただくことで、周辺にじんわりと口コミで伝えていただけるよう、地道に、そして謙虚に取り組むことだけを考えています」

最後に、竹ノ内氏に、今後のビジョンと課題について訊いた。

「(国内において)1,000店舗を目指します。とはいえ、目の前の1店1店をきちんとつくっていくことに全精力を傾けます。今年は、最低2店舗は出店していきます。課題は、スナップ品質をどう保っていけるかにかかっていると考えています」

国内において24時間セルフ型ジムが飽和化してきつつあるなか、次のモデルを自ら果敢につくろうとするGFJに、期待をせずにはいられない。その成長が、楽しみだ。