障害のある子どもでも楽しめるダンスをと、フィットネスインストラクターの養成校を経営・運営し、自身も希少疾患の息子を育てる株式会社FairHeart代表取締役、穐里(あきさと)明美さん(東京・品川)は、踊りやすい振り付けのダンス「パラリンビクス音頭」を創作。音頭を楽しむ親子の姿を発信することで「しんどい」「先が見えない」といった障害児育児へのイメージを変えることを目指す。

理学療法士らと発達障害児向けの運動プログラム「パラリンビクス」を創作

障害のある子どもでも楽しめるダンスをと、フィットネスインストラクターの養成校「LUCE」を経営・運営し、自身も希少疾患の息子を育てる穐あき里さと明美さんは、踊りやすい振り付けのダンス「パラリンビクス音頭」を創作した。穐里さんは「長引くコロナ禍で孤立感やストレスを抱える親子も多い。一緒に気軽な気持ちで踊ってもらえたら」と、話す。

穐里さんの長男、明ノ心(あきのしん)さん(9歳)は、生後3ヶ月の乳児健診をきっかけに難聴とわかった。「その先に暗いイメージしか、もてなかった。『自分の思うような子育てができない』と何日か泣いた」と、当時を振り返る。しかし、いつもそばにいる我が子、明ノ心さんがかわいいことには変わりなかった。このとき、「理想の子育て」なんて、自分のエゴだと気づいたという。「息子のために何ができるか考えよう」。そう思って、気持ちを切り替えられたという。

明ノ心さんはその後、難聴などの症状が出る「ワーデンブルグ症候群」や、自閉症と診断される。歩いたり食べたりできるが、話すことはできず、表情や手でほしいものを指し示すことなどでコミュニケーションを取っている。

穐里さんは22歳の時からフィットネスインストラクターとして活動してきた。27歳でインストラクターの養成校を設立し、30歳の時に入った大学で障害者スポーツを学んだ。

こうした経験や知識を活かして2020年、理学療法士らと発達障害児向けの運動プログラム「パラリンビクス」を創作した。カニの横歩きや、フラミンゴの片足立ち、ヤモリが壁をはい上がる様子といった、動物や乗り物の動きなどを表現した50種類の動きを取り入れている。それぞれの動きはアプローチする身体の部位や期待できる効果が異なり、継続して取り組むことで、体全体が整うだけでなく情緒の安定や自立心の伸長などにつながるようにデザインされている。

この動きに、より親しみをもってもらおうと、BGMに乗せた「音頭」を制作。老若男女が楽しめるようにと、メロディーは盆踊り風にした。子どもが口ずさみやすい「パチパチ」「リンリン」などの擬音語を入れた歌詞に合わせ、パラリンビクスの動きをダンスとして構成している。

多様性を受け入れる社会づくりに貢献するプログラムへ

今年2月には、公募した障害児や親らによる音頭のプロモーションビデオ(PV)を撮影。3月21日に実施したイベントで、このPVを披露し、ダンスの解説を行った。イベントは穐里さんが設立した「パラリンビクス協会」の主催で、YouTubeの「パラリンチャンネル」などで配信、その後も登録不要、無料で視聴できる。

穐里さんは、「音頭を楽しむ親子の姿を発信することで『しんどい』『先が見えない』といった障害児育児へのイメージを変えたい」と話している。

生後3ヶ月の乳児健診をきっかけに難聴と分かってからの日々のつらさは、我々が想像も及ばないほどの心痛だっただろう。だが、「息子のために何ができるか考えよう」。そう思って、気持ちを切り替え、さらには既述した通り「『しんどい』『先が見えない』といった障害児育児へのイメージを変えたい」と、前向きに「パラリンビクス協会」を設立して、「パラリンビクス」の創作に打ち込んだ。理学療法士をはじめとした多くの関係者や仲間の力添えもあり、完成度の高いプログラムが、できあがった。あとは、普及に努めるばかりだ。

オリンピック・パラリンピックでは、東京大会に続き、北京大会でも、パラリンピック出場選手の活躍が注目された。時代は、多様性を受け入れ、誰もが自分を表現して、社会参画し、人生を楽しむことができることを求めている。「パラリンビクス」は障害児育児がきっかけで創作されたものであるが、誰もが楽しめるものでもあり、またそうあってほしいものだ。世の中に昔からあった見えないガラスの壁を、薄くして、さらにその先でなくならすことに、このプログラムが貢献することを期待したい。