ドイツ市場と主要事業者の動き、FIBO2023 でのトレンド
Fitness Business編集部は、2023年4月に開催されたヨーロッパ最大のフィットネスコンベンションFIBOに参加するとともに、業界リーダーらに取材し、同市場のトレンドや主要な事業者の動きについて取材した。ドイツのフィットネス市場は、復興し、多くの生活者がフィットネスクラブに戻り始めている。データや写真などを示しつつ、成長と成功のカギを紹介したい。
店舗数は減少するも会員数は1年間で100万人増、成長トレンドへ
「ドイツのフィットネスと健康産業は、以前の強さを取り戻しつつある」。『Fitness Management Int’l』は、こう記していた。そのことは、ドイツのフィットネス産業2023の主要データを含む最新のデータ収集によって確認されている。まず、以下に、同誌編集部が「2023年、ドイツのフィットネス産業にとって最重要な年」というタイトルで、この間の市場全体を概観した記事の要約をお届けしたい。
2020年と2021年には、パンデミックにより当局が命じた措置が業界にマイナスの影響を与えたが、2022年には「フィットネスと健康施設」のビジネスモデルの堅けんろうせい牢性に疑いの余地はない。フィットネスおよび健康部門で顕著な回復効果があった。消費者の長期的かつ包括的な変化として、多くの元会員および新会員は、積極的にフィットネスや健康施設への道を探している。この調査の主な結論は次の通りである。
フィットネスクラブが今日のヘルスケアを支えるインフラになっていることは明らかだが、今後もパンデミックの影響に対抗するために積極的に貢献できる。監査およびコンサルティング会社のデロイト、ドイツ予防健康管理大学(DHFPG)、および有名な専門家らは、依然としてフィットネス業界を、予防の重要な部門とみなしている。そして、健康、身体的および精神的健康に対する運動の重要性は、科学的にも証明されてもいる。したがって、フィットネスおよび健康産業は、パンデミックの影響に対する解決策の一部であり、そのため、以前の強さを取り戻し、おそらくそれ自体を超えることさえあると見ている。
コロナ危機は、運動不足の問題を著しく悪化させた。DHFPG(2021)の調査によると、コロナ危機の間、人々は体重が平均5.3kg増加したことが示されている。さらに、体組成も悪化したことが示されている。このような背景から、定期的なトレーニングの健康維持効果に関する科学的知見を外の世界に伝え、国民の意識を高め続けることは、今後ますます重要になっている。
フィットネスと健康施設は、人々が健康を維持するために必要不可欠な存在となっている。市場全体の動きとしては、統合の傾向が見られている。個々の企業の中には、個人的または経済的な理由で事業を閉鎖または売却したところが散見される。個人事業主がチェーンセグメントへと移っている。2022年のフィットネスおよび健康施設の総数は、前年比で3.6%減少し9,149軒となった。にも関わらず、成長はチェーン企業で観察できる。
市場では店舗数が減少しているにも関わらず、会員数は2021年から 2022年にかけて増加(グラフ1)。 2022年12月31日現在、1030万人の会員がいる。これは、前年と比較して100万人の会員数増を表している。 2015年から2019年までの年間平均会員数増加率5.4%を背景に、会員はフィットネスや健康施設に戻ってきていて、この追い上げ効果は2023年も続くと考えられている。
ドイツ国民の消費意欲は、2022年後半のインフレ上昇によって妨げられた。
しかし、フィットネス業界は新規入会者を獲得した。こうした事実から、ドイツではフィットネスサービスに対する需要がまだあると結論づけることができる。
2022年の業界売上高は49億ユーロだった(グラフ2)。売上高は、ロックダウンなどの影響があった前年に比べ2倍になった。
高いレベルの潜在需要は、業界の前向きな見通しを示している。健康サービスは、ドイツで最も重要な商品の1つになっている。フィットネスと健康施設は、人々の健康を維持するうえで重要な役割を果たしている。パンデミックはその痕跡を残したが、それはまた、自分の健康を管理するという点で、やるべきことがたくさんあることを示してもいる。
さらに、国民の健康意識は業界にとって有利な方向に変化している。業界各社は、このニーズをきちんと捉え、今後も会員数を増やし続け、経済力を再び高めると考えられる。これは、市場全体の期待にも反映されている。事業者の3人に2人は、今後12 ヶ月間で経済状況が改善すると想定している(P13グラフ3)。これは、業界にとっても前向きな見通しを示す根拠となるだろう。
2022年には従業員数が再び増加した。当期中、従業員数は8,600人増加して162,500人となった。全体として市場に出回っている店舗数や雇用主は前年よりも少ないため、これは驚くべきことだ。しかし、同時に、この展開は、稼働率の増加により、より多くのスタッフが再び必要とされていることを表してもいる。特に「共働き学生」と「優等生」の雇用関係が前年比で最も伸びてきている。さらに、施設の 92.7%で従業員のトレーニングが行われている。これは、企業が依然として有能なスタッフを非常に重視し、従業員のトレーニングとさらなる教育に投資しているという事実を強調するものである。
ドイツのフィットネス業界の主要データに関する業界調査の評価の一環として、2022年の重要なトピックが明らかになった。パンデミック後の業界の統合、健康サービスとしてのフィットネスクラブの位置づけだ。業界のデータを収集し、そこから自社のためにどのような洞察を得ることができるか、そして開発をどのように進めていくかということが、今後重要になってくる。要約は以上である。
Z世代やY世代などに対応したマーケティングをとるジムチェーンが成長
人口およそ8.3千万人のドイツだが、日本と比べ会費単価がおよそ1/2~1/3ほどで、参加率は12.4%と高い。施設はプールレスでジム中心だが、日本の2~3倍ほどの広さがある。そして、市場規模(総売上高)はほぼ同等だ。しかし、既述の通り、ポストコロナに向けてチェーン店を中心にぐんぐんと会員数、従業員ともに増やし、成長している。
同国のクラブビジネスサービス(媒体名:フィットネスニュースドイツ)の創業者(FIBOの創設者でもある)らに、取材したところ「9月には完全にピーク期を超えると予測する関係者が多い」とのことだ。日本も、ドイツのように、成長に向けて動くようにしていきたい。どうすればよいのだろうか?
そのためには、ドイツでコロナ前を超えて成長しているクラブはどこか? そうしたクラブがどんな顧客のどんな課題に、どんなサービスで対応し、どんなビジネスモデルを構築して、成長してきているのか? この先も成長できるのか? その理由は? そうした業態以外で成長するところが出てくるとしたら、どんなことをするところか?といったことを知る必要があろう。
比較的、好調な企業として、ドイツフィットネス業界のリーダーらから挙げられたフィットネスクラブは、以下である。
- Kieser Training
- Basic Fit
- Just Fit
- Mc FIT
- Fitness First
- Next Door
医科学的なアプローチをしている Kieser Trainingは、実査したところ、ほかのクラブと違い、高齢者の割合が高かった。コロナ禍で、クラブがロックダウンで営業できないなか、日本と同様にメディカル領域のサービスは許可されていたことから、理学療法士が運営する運動療法のための個室ジムやこうした業態のジムが急増。コロナ前の4倍の軒数になったという。それもあってか、FIBOの展示会場では、クラブでの姿勢測定や動作測定のデジタル化をサポートするシステムの展示が目立った(写真①)。体組成などの生態データの活用と併せて、一人ひとりの身体の状態にフィットするトレーニングプログラムの作成までを一気通貫で提供・管理するサービスが広く導入されるようになってきている。
先に挙げた6つのクラブのうち、 Kieser Training以外は、どこも価格は日本ほど高くないのに、ジムが日本の5倍くらい広く、ビギナーエリア、ストレッチエリア、マシンエリア、フリーウェイトエリア、ファンクショナルトレーニングエリアなどと分かれていて、そのそれぞれが充実しているうえ、ラウンジなどもあり、しかもとてもクレンリネスが行き届いていた。価格は、Mc FITが一番安いのだが、トータルなクオリティは、実査したところ、Fitness First>Basic Fit>Mc FIT > Just Fitだろう。いずれも洗練されていて、安かろう、悪かろうではない。最も下位としたJust Fitでも、大きなサウナルームを抱え、軽く延床で 1,000坪ほどあり、クリンリネスが行き届いていて、それでも月会費も59ユーロ。Basic Fitは、ヨーロッパ1の店舗数を誇り、世界的にも最も成長しているクラブチェーンとして認識されている。
日本も、今後、Basic FitやMc FITのようなコストリーダーシップ戦略をとるプールレスのバジェットクラブと、 Fitness Firstのような差別化戦略をとるプレミアムなクラブに分かれてくるのではないだろうか。
FIBOの展示会では、以下の5つのトレンドが確認できた。
(1)デジタルを活用したサービスが成長。とりわけ測定&プログラミングにデジタルを活用しているサービスが成長(写真②)
(2)顧客視点で体験をデザインできていることが大切。映像や音楽、ライティング、風や香りなど、五感に訴えるサービスデザインが今後より重要に
(3)ジムでのストレングストレーニングがより中心に
(4)習慣化をデザインできて、それを支えるバリューチェーンを構築できることが重要に
(5)フリーウェイトやプレートローテッド、オリンピックリフティング、アウトドア向けトレーニング設備、ファンクショナルトレーニング、ピラティス、ストレッチ、コンディショニング、リカバリーが主流(P15写真③・④・⑤)。これらを系統立てて提供。グループサイクルは人気を維持しているが、EMSは今は落ち着いている
ヨーロッパは、Z世代やY世代など、比較的若い世代が、ボディメイクや仲間との交流を通じた健康づくりに取り組みたいというニーズが強く、フィットネス事業者側も、そこにフォーカスしたマーケティング戦略をとるところが多くみられている。日本のフィットネス事業者も、カテゴリーエントリーポイントをつくり、そうした世代へのマーケティングをある程度強化していくことで将来の成長が相応に担保されるようになるのではないだろうか。