今年4月のFIBO2026と欧州フィットネスクラブ視察を通じて、ジョンソンヘルステックジャパン株式会社のマーケティング部 プロダクトマーケティングで主任を務める近藤壮太氏が強く感じたのは、「初心者を継続へ導く設計思想」の差だった。欧州ではAIやデータを活用しながらも、人が介在するタッチポイントを丁寧に設計し、会員の成果実感と継続率向上を実現している。SPORTEC2026では、その考え方を日本市場向けに落とし込んだ“トータルソリューション”を提示するという。

  • ジョンソンヘルステックジャパン株式会社
    マーケティング部 プロダクトマーケティング
    主任 近藤壮太氏
     

初心者を継続へ導く欧州型クラブ設計

今回、近藤氏が視察したのは、理学療法士が運営するフィジオ系クラブ、総合型クラブ、住宅街の24時間ジム、コミュニティ色の強いクラブなど、それぞれ異なるコンセプトを持つ施設だった。そこで共通して感じたのは、単なるマシン配置ではなく、会員の継続を前提にした「カスタマージャーニー」が極めて明確に設計されている点だ。

多くのクラブでは、入口付近にEGYMを中心とした初心者エリアを配置し、運動初心者が迷わず最初の一歩を踏み出せる導線を構築していた。まずはAIがサポートするマシンで身体を慣らし、その後にウェイトスタックマシン、プレートロード、フリーウェイトやファンクショナルエリアなどの高度なトレーニングへと進んでいく。欧州では、この流れが“ジム初心者を継続させるための設計”として定着しているという。

日本ではランニングマシンを入口付近に並べるケースが多いが、欧州では「初心者が成果を実感し、次のステップへ進める設計」が重視されていた。さらに印象的だったのは、各クラブが“なぜこの配置なのか”を明確に説明できる点だ。例えば、トレッドミルを2台ずつ分散配置し、「利用率向上」「会員同士のコミュニケーションの創出」「景色を変えて使える」といった狙いまで設計されていた。

近藤氏は「私たちマシンベンダーの提案も含め、日本ではレイアウトが慣習的になっている部分もあります。欧州ではすべてに意図を持っていることを改めて実感しました」と振り返る。マシンの機能や運動の種類だけでなく、会員をどの順番でどの体験へ導くか。その発想が、欧州と日本の運動習慣者数の違いを生み出しているのかもしれない。

空間演出に力を入れる「xtra fit studio」

データと人の介在が継続率を高める

欧州クラブでは、AIやCRMを活用しながらも、人によるフォローを重視していた点も印象的だったという。多くの施設では、入会時に体組成測定やEGYMを活用したストレングス測定など、複数回のオンボーディングを事前予約し、最初の数週間で「使い方」と「成果実感」をセットで提供している。

例えば、「初回は体組成測定」「2回目はストレングス測定」「3回目は心肺持久力測定」と、最初の来館予定をあらかじめ設計するクラブもあった。運動初心者は、最初の数回で不安を感じやすい。だからこそ、“迷わせない導線”を最初からつくることが継続率向上につながっている。

EGYMやMATRIXによる定期的な体力測定を活用し、「見た目は変わっていなくても、筋力や体組成には変化が出ている」という事実をトレーナーと共有する点も特徴的だった。

「データだけではなく、その結果をユーザーとトレーナーが一緒に確認し、会話することが継続につながっている」と近藤氏は語る。

FIBO2026でも、AIを付加価値として扱うのではなく、AIを軸にクラブ運営を組み立てる考え方が強く打ち出されていた。ただし、その中心には常に、会員とのコミュニケーションが存在する。データと人の介在。この両輪が、欧州クラブの強みとして際立っていたという。

ピラティスとHYROXが生む新たな収益

欧州市場では、ピラティス需要の拡大も強く感じたという。リフォーマーピラティスは追加課金型サービスとして定着し、単価アップだけでなく、「新たな来館理由」をつくるコンテンツとして、多くのクラブが導入を進めていた。

また、この1年で急速に増えていたのがHYROXを意識したトレーニングエリアだ。昨年視察したクラブが、わずか1年でゾーニングを変更し、HYROX対応スペースを設けていたケースもあった。「ピラティスもHYROXも、ニーズを感じたら、すぐに形にするスピード感が欧州クラブは非常に速いと感じました」(近藤氏)。

その背景には、“流行”として捉えるのではなく、会員ニーズに対する即応力を重視する文化がある。欧州のクラブでは、レイアウト変更や新サービス導入の理由をオーナーやスタッフが明確に説明できるケースが多かった。すべてが会員体験から逆算して設計されている点に、同氏は大きな刺激を受けたという。

FIBO2026でも、ストレングス、リカバリー、ウェルネス、ロンジェビティといったテーマは引き続き大きな存在感を放っていた。特にマシンメーカー各社は、プレートロードエリアをさらに強化しており、ジョンソンヘルステックグループとしてもストレングスカテゴリーの成長を強く実感しているという。

FIBO2026 におけるジョンソンヘルステックの出展風景

日本市場に必要な“意味のある導線”

日本のフィットネスクラブにも大きな可能性があると語る近藤氏。一方で、運動初心者へのオンボーディング設計や、スタッフによる継続支援には改善余地があると感じている。

欧州では、初心者が「何をすればいいか分からない」「成果が出ているか分からない」という不安を解消するための導線が徹底されていた。対して日本では、スタッフが多忙な業務に追われ、会員との接点が少ないケースも珍しくない。だからこそ、AIやデータを活用しながら、スタッフが成果共有やコミュニケーションの役割を果たすことが重要になる。

また、日本市場は価格競争だけではなく、初心者が成果を感じ、継続できる仕組みまで設計することが、本当の意味で市場の拡大につながると近藤氏は指摘する。欧州では無人型モデルであっても、必要な時にトレーナーを呼べる仕組みや、アプリを活用したフォローが組み込まれていた。

「特別なことをしているわけではなく、当たり前のことを丁寧に積み重ねている」と話す近藤氏だが、その“凡事徹底” が、継続率や顧客満足度を大きく左右するのだろう。

「私たちもただのマシン販売ではなく、エンドユーザーの満足度をクラブ様と一緒に考え、提案していく必要がある」と近藤氏。マシン導入だけで終わらず、会員がどのように施設を使い、どのタイミングで成果を感じるか。その全体設計こそ、これからの日本市場で求められる視点だろう。

MATRIX は今年もプレートロードの新機種を発表

SPORTEC2026で示すトータルソリューション

SPORTEC2026でジョンソンヘルステックジャパンが打ち出すテーマは、「トータルソリューションパートナー」だ。昨年はプレートロードを中心としたストレングス提案が主軸だったが、今年はさらに踏み込み、クラブ全体の導線設計や運営オペレーションまで含めた提案を行う予定だ。

特に注目されるのが、MATRIXとseca(セカ)による「PACE(Personalized Adaptive Coaching Experience)」だ。医療分野でも高い実績を持つsecaの体組成データをもとに、MATRIX独自のAIプログラムが、会員ごとの状態に合わせた運動プログラム提案を行う。データの可視化だけでなく、トレーナーとのコミュニケーションを生み出し、成果共有や継続支援につなげる仕組みだ。

MATRIX とseca による、新たなトレーニング提案「PACE」

ブースでは、実際のクラブ動線をイメージし、実感できる空間を構想しているという。会員がどのように測定を行い、どの順番で運動へ進み、どのように成果確認を受けるのか。欧州クラブで見たカスタマージャーニーを、日本市場向けに再構築した提案だ。

「自社のマシンをただ販売するだけでは、価値を生み出し続けていくのは難しい時代だと思います。ですので、それぞれの分野で強みを持つ企業やサービスとのパートナーシップも強化していきます。私たちは、トータルソリューションパートナーとして、会員継続やクラブ経営の成功まで含めて支援する存在でありたい」と近藤氏は力強く語る。

SPORTEC2026のジョンソンヘルステックジャパンブースでは、世界のフィットネス先進事例を日本市場へどう落とし込むか、その具体的なヒントを体感できそうだ。