新型コロナウイルス禍(以下、コロナ禍)においてフィットネスクラブ全体の会員数の減少は見られる一方で、コミュニティ形成に主軸を置いているスモールグループエクササイズは伸びているクラブもある。ディーズスポーツプラザを運営している株式会社ディーズの取り組みについて訊いた。

下鳥洋樹氏
株式会社ディーズ 代表取締役 副社長

コミュニティ形成を重視して会員さまとの関係性を構築

株式会社ディーズは、北関東にディーズスポーツプラザ(以下、ディーズ)を5店舗展開している。商圏が広く競合の少ない場所に戦略的に出店を進め、会員さまのほぼ100%が車で来館している。

2018年11月にオープンした前橋ローズタウン店は約150坪のジムエリアの約半分がフリースペースだ。この場所で、最大5名まで参加が可能なスモールグループエクササイズを「サークル」として提供している。

「サークル開始時から最適な参加人数を探って試行錯誤してきました。当社の場合は、最大で5名までが最適という結論に至りました」

この人数までなら、トレーナーが会員さまにきめ細かく目を配ることができ、会員さまが参加意識を高く保てると判断したのだ。

1コマ45分で、週に1回クラブへ足を運んでもらうことを前提に、セオリーに沿ったプログラムを提供している。会員さまの目的が異なっても、プログラムの根幹の部分は変わらないので、これを入会初期段階で提供することが大切だ。それぞれの会員さまの身体に対する不安や不満を、運動によって解決するという点において通ずるものが多いから引きは強い。こうしたプログラムについて「機能的価値」サービスと呼び、これを満たしたうえでさらなる付加価値を提供できるのがサークルの強みと下鳥氏は話す。

「サークルがあるからこそ、クラブ全体での退会率が下がっていると考えます。理由は会員さまとの関係性に尽きます。サークルに所属している方は、スタッフやほかの会員さまと顔馴染みになるので、そのコミュニティを求めてコロナ禍でも足を運んでくださっています」

このような「人と人とのつながり」を重視したものが「情緒的価値」サービスであると同氏は考えている。要するに、「あの会員さんやトレーナーさんに会いたい」という感情を喚起させるのである。ディーズ内では、この仕組みの歯車が噛み合ってきているようだ。

立ち上げ期の最大の課題はスタッフ全員の意識改革

一方で、立ち上げ期からうまく歯車が回っていたわけではないと下鳥氏は語る。

「スモールグループエクササイズはまだまだ発展途上の領域です。当社のスタッフについても、最初はその意義を理解しておらず、今ほど本腰を入れて取り組むことができずにいました。しかし、なぜディーズにとってサークルが大事なのか、会員さまにとってどんな意義があるのかを強く訴え続けることによって、徐々にスタッフの意識が変わっていったのです」

意識が変わると、次はオペレーションが重要になる。オペレーションの質を高めるため、月に1度の研修を設けている。

「スタッフのなかでも明らかにレベルの違いが出てきました。知識量が多く、コミュニケーション能力が高いスタッフは、会員さまをほとんど退会させません」

事業の柱へと成長させるべく会員種別の切り分けを実施

今後の戦略として、サークル専用の会員種別を新たに設置し、webページをクラブとは別に立ち上げるなど、マーケティングを行っていく。

「ターゲットは30~50代の女性です。フィットネス経験があり、運動を本当は継続したいけれど、コロナの影響などで優先順位が下がってしまった方を想定しています」

現在は会員数全体の約30%がサークルに参加し、クラブの新入会者のうち約70%が3ヶ月間のサークル無料体験期間を終えても継続している。

「セミパーソナルトレーニングに近いのですが、必ずしもスタジオレッスンのように決まった運動を提供することが正解だとは限りません。実は、スタッフが会員さまと話すだけでも、十分に情緒的価値を提供できる場合もあるのです」

最も大事なことは「習慣化」だ。曜日と時間を指定してサークルに通うことによって、機能的価値と情緒的価値のどちらかでも会員さまに提供できれば、それは実現可能だ。

「現在はサークル会員さまが全体の30%ほどですが、50%に高めていくことが目標です。そのためにも、より安心して参加いただけるよう、サークル実施時はパーテーションを設置する予定です」

新たな種別の設置やマーケティング活動に加えて、パーテーションを設置して感染症対策を強化することで、ターゲット層の集客を目指す。