アシックストライアスサービス株式会社は、スポーツメーカーならではの機能訓練特化型デイサービス「トライアス」を関西圏に7店舗運営している。運動能力を維持・改善を目指すプログラムは、多くの高齢者の健康をフィットネス領域から支えている。要支援・要介護からの介助レベルの進行を和らげ、改善することを目指す。

佐藤泰弘氏
アシックストライアスサービス株式会社 代表取締役社長

高齢者に寄り添うサービスは長い目で見て支持される

株式会社アシックス(以下、アシックス)はスポーツ工学研究所の知見を活かし、2014年から運動による機能訓練特化型のデイサービス「トライアス」をスタート。同社の一部門が行っていた事業をスピンアウトするために、アシックストライアスサービス株式会社を’20年5月1日に設立し、同年7月1日から事業を本格的に承継してスタートを切った。奇しくも法人設立と新型コロナウイルス(以下、コロナ)による第一回目の緊急事態宣言のタイミングが重なり、多大なる利用者減に苦しんだ。

特に’20年4~6月の期間は従来の利用者の1割程度の会員さましか訪れないという時期が続いた。

しかし7月以降は、外出自粛による運動不足と、それに伴う体力の低下および体調不良を感じる会員さまが増え、徐々に利用者が戻ってきた。コロナになる以前に、体調を整えられないようでは本末転倒だ。

実際、高齢者の場合は1~2週間休んでしまうだけでも体力がガクッと落ちてしまう。利用者からは「施設が利用できる日を待ち望んでいた」という声が相次いだ。

会員さまにとって価値のあるサービスを提供していれば、コロナ禍であっても戻ってきてくれるのだ。

そして、’20年末までには前年並みに、’21年1~3月は昨年対比利用者増を記録している。なんと喜ばしいことだろう。

スポーツメーカーが提供する機能訓練特化型のデイサービスとは

通常のデイサービスでは食事や入浴のサポート、それからレクリエーションや機能訓練をサービスとして提供している。機能訓練は、身体機能や生活機能の維持・向上を目的とするものだ。トライアスはこの領域に特化したデイサービスを展開している。

介護事業であるため、利用者は介護認定をすでに受けており、日常生活に何らかの介助を必要としている人だ。要支援1~2、要介護1~2の、介護度が軽~中度の人がメインターゲットとなる。要介護3~5になってしまうと、回復は難航を極める。そのため、早い段階での運動習慣づくりが出来るか否かで、老後の生活に大きく影響することになる。

ビジネスモデルは、介護保険の対象事業になるため、利用者は1割負担分の料金を支払い、残りの9割は国から支給される保険料が収益源となる。

料金は、要支援者は施設により異なるが5,000~5,500円くらいで1ヶ月間施設を利用できる一方で、要介護者は利用1回あたりに同額を支払う必要がある。利用者はそのうちの1割負担とはいえ、ますます介護予防の重要性を実感する。

人材については機能訓練指導員、生活相談員および看護師といった有資格者が必須。そのほかのスタッフは別の介護現場やフィットネスクラブから転籍してきた人材が活躍している。

特に介護現場から移ってきた職員としては、ただ高齢者の身の回りの世話をするのではなく、前向きに運動に取り組んで機能改善を目指すという仕事にやりがいを見出しやすくなる。

納得の満足度と効果を生むプログラムの秘密

それでは、具体的にどのようなプログラムを提供しているのだろうか。スポーツ工学研究所で蓄えられている動作解析や商品開発のノウハウを惜しみなく活用している。

同研究所の強みはトップアスリートから一般の人、さらに高齢者に向けて最適な運動プログラムの開発が可能となる点だ。

入会後、まずは専門スタッフによってカウンセリングと測定を行う。カウンセリングは「その人がどうなりたいのか」というご希望を丁寧にヒアリングしていく。例えば、「友人と旅行に行きたい」「孫と公園で遊びたい」といったものだ。このカウンセリングのフェーズが最も大切なのだ。

さらにその後、現在の身体能力を数値で計測し、レーダーチャートのかたちにして可視化する。以上の情報をもとに、弱い点を把握し、ひとりひとりに最適なプログラムを提供していく。

こうすることで、カウンセリングで聞いたその人の目標や、現状の計測結果に応じて、どの部位を重点的にトレーニングしていくべきなのか方針を立てることができる。

設備にもこだわっている。例えば、マシンについては発揮した筋力に応じて負荷が変わる電動式マシンを利用している。体力に合わせて安全に効率よく上半身・下半身・体幹を鍛えることができる。

高齢者の場合は特に、負荷をかけすぎて身体を痛めてしまうリスクが高いため、細心の注意が必要だ。

そのほか、スリングを使ったトレーニングを行い、筋力のみならず柔軟性やバランス能力も向上させる。週に1回のトレーニングが基本だが、もっと頻繁に利用される人もいる。

3ヶ月に一度測定を行い、またレーダーチャートで進捗を可視化する。目標にどれだけ近づけているのかが一目でわかるため、モチベーションアップにもつながる。その結果に基づいて、プログラムを修正していき、「立つ・歩く・転ばない」に寄与する運動能力の向上を目指す。

プログラムの効果は、レーダーチャート以上に利用者の声に現れる。特に多いのが歩行能力の改善の実感だ。外出の頻度が増えたと好評を得ている。

歩行能力が衰えてしまうと、階段や長い横断歩道などが不便に感じてしまう。これらを解決することで、生活の質はグッと向上する。

それから、日常生活の動作にも改善の実感も得ている。例えば入浴時、浴槽に入る際に脚を上げる必要がある。老化によって筋力が徐々に低下していき、こういった動作が大変になっていくのだが、トライアスに通えばそれを軽減できる。

「利用者の中には身体機能や生活機能が改善され介護認定が解かれ、日常生活にそのまま復帰してしまう人もいます。私たちはこれを『卒業』と呼んでいます。大変喜ばしいことですが、一方でビジネス面ではお客さまが減ってしまうことになりますね」と佐藤氏は冗談交じりに笑いながら話す。本気で会員さまの健康を想う同氏の人柄の良さが滲み出ている瞬間であった。

関西圏で地盤を固めながら事業の2本柱の確率を目指す

今後の事業の展開については、まず関西圏でさらに出店を加速していき、まだカバーしきれていない自治体にリーチしていくことを目指している。

「トライアスの知名度がまだ低い地域にいきなり出店しても、なかなか利用者をすぐに集めることが難しいとわかってきました。認知されるのに最低でも半年~1年はかかってしまうのです。まずは少しでも知名度のあるエリアに出店して、同時に知名度を高める活動を行っていき、その後はそのエリアを中心に複数店舗を出店するという戦略で進めています」

関西圏で実績が出てくれば、次のターゲットは首都圏だ。首都圏に出すとなれば、一気に商圏を囲い込むべく複数店舗を同時に出店することになるだろう。首都圏においても認知度を高めていくことが今後乗り越えなければならない厚い壁だ。この事業を第一の柱にしていく。

もうひとつの柱はプログラムの販売を構想している。スポーツ工学研究所でつくられたプログラムを自治体、老人ホーム、そのほかのデイサービスに販売していく予定だ。

介護予防の観点で、介護認定はされていないサルコペニアやフレイルの人向けのプログラムも開発中だ。この取り組みによって、より多くの高齢者にサービスを提供できるようになる。

この2本の柱で、高齢者が皆で元気に声を出しながら楽しく運動ができる施設を増やしていくことで、日本を健康で豊かにしていく。首都圏への進出が待ちきれない。