ジムの経営を行うにあたり、純粋な指導力や身体や栄養に関する知識だけでは、どうしても行き詰まってしまう。
健全にジムを継続させ順調にスケールさせるためには、効果的な集客の方法や事業創造などのマーケティング力や、優秀なスタッフを集め育成し最良のチームをつくるための人材マネジメント力が必須になってくる。
そのようなスキルを学ぶスクールは数多くあるが、慣れないジムの経営を続けながらコンスタントに通うのは難しいだろう。
そこで、本記事では、日々のスキマ時間にさっと読める、ジムの経営のためにおすすめの本を紹介していく。
ジム経営のために本を読むべき理由
既述の通り、ジムの経営のためにはマーケティング力や人材マネジメント力などの経営スキルが必要だ。
もちろん、それは実際にジムを経営していくなかで学べるものであるし、実践→改善のトライアンドエラーでしか身につかないものでもある。
しかし、「努力とガムシャラは似て非なるものだ」と言われるように、そもそもの改善の仕方や方向性が見当違いのものであれば、上手くいくはずがない。
しかし、本(主にビジネス書)を読むことで、筆者の成功体験に基づいたノウハウを体系的に短時間で理解することができる。
マーケティングとは何たるかを学べたり、新たな事業創出におけるヒントを得ることができ、自身の経験からでしか得られなかった経営知識の粒度が、一気に高くなるはずだ。
本来であれば、スペシャリストや成功者に実際に聞いてみるのがベターではあるが、本を読むことでその時間を短縮できる、もしくはより理解が深まった状態で話を聞くことができる。
ジム経営について絶対抑えてほしい本10選
本セクションでは、今ジムを経営するにあたり読んでおくべき本を、10冊厳選して紹介する。
マーケティング大原則
どん底の日本マクドナルドに上級執行役員・マーケティング本部長としてかかわり、V字回復を牽引。その後、PokémonGOのサービスとして知られる株式会社ナイアンティックアジアパシフィックプロダクトマーケティングシニアディレクターに就任した足立光氏。
著者によれば、マーケティングとは、1.人の心に何かしらの影響を及ぼして結果的に行動を変えること、2.目的達成のためにすべきすべてのことを行うこと、3.成功が継続するような仕組みをつくることだと言う。
なんだ、経営そのものじゃないかと思うかもしれないが、著者は「どんな製品・サービスや業界にも通じるマーケティングの原則がある」と言い、「これを1冊に、しかも退屈な教科書ではなくて、たくさんの実例が登場する、わかりやすくておもしろく」解説している。
本書は、マーケティングの基礎、基礎的製品戦略、消費者コミュニケーション、販売促進・そのほかのマーケティング活動の4章からなり、まさに複雑化する今の市場・顧客を理解して、どのようにマーケティングに取り組めばよいか、多くの示唆が得られる。
アフターコロナのマーケティング
森泰一郎氏が、前著『アフターコロナの経営戦略』に続き書き上げた『アフターコロナのマーケティング』。本書では、(1)afterコロナにおいてマーケティング戦略がどのような経営環境によって変化していくのか(2)そのなかでどのようなマーケティングの潮流があるのか(3)具体的にどのようなポイントを押さえてマーケティング戦略を策定し、実行していくのかについて解説している。
フィットネス事業者に関連したところでは、PELOTON、Future、Mirrorなどコロナ下でも成長している事例を取り上げ、今後も健康的な生活を送りたいと思う人に対応したオンラインフィットネスサービスが、さらに市場を拡大させるだろうと予測している。
「オンライン広告を活用して店舗に集客し、店舗でのオフライン広告で最終的にユーザーの購買を促すという両方をかけ合わせた広告が、現在、withコロナの世界で最先端」として、「オンラインか、オフラインかといった決め打ちではなく、1-1で考えた経営理念を実現するためのマーケティング、そしてafterコロナにおいて消費者にどのように思われるべきなのか、この2点のどちらかに偏り過ぎることなく、バランスをとること」の重要性を指摘して、リアルな製品や店舗をもつフィットネス事業者にもエールを送っている。
アフターコロナのマーケティング戦略
P&G出身で、同社を出た後も各社で次々と活躍を続ける2人のマーケターが、タイトルの通り、afterコロナのマーケティング戦略について、下記の6章に分けて論じている。
- デジタル時代のマーケティングの誤解
- 顧客理解における誤解
- ブランディングの誤解
- プロモーションの誤解
- 戦略策定の誤解
- アフターコロナのマーケティングで何を考えるべきか
最重要ポイントとして全39項目を挙げた後、最後に「コロナ後こそ、差別化ではなく独自化を目指そう」と題する2人でのアフタートークを載せて締めている。
フィットネス事業者が考えそうな通説―「リアルでは限界があるから、今後はネット主体にシフトすべき」「ビッグデータをもてば、最適なマーケティングが可能になる」「顧客の声を聞いて既存サービスの改良や新サービスの開発をすれば、売れるものができる」「ブランド名が認知され、ブランドイメージがよくなれば、よく売れる」「論理的に考えて戦略を策定すれば、事業は成長する」など―を取り上げ、一つひとつ誤解を解くようにわかりやすく解説している。
2人が大切にしている考え方は、「顧客の心理は、コロナがあろうとなかろうと日々変わる。それをリアルタイムで捉えて、適切な対応を取り続けていくこと」だ。
偉大な組織の最小抵抗経路
例えば、あるインストラクターまたはトレーナーが、多くの生活者がこうありたいと望む状態をつくり出せる画期的なプログラムを開発したとする。人々のペインを取り除き、ゲインを促すことができるプログラムだ。そのプログラムは取り組むことが比較的容易で、日本において徐々に普及している。
やがてその効果(エビデンス)を実証したいという研究者が協力者として現れ、共著でそのメソッドをまとめた書籍を出版。ベスト&ロングセラーとなり、評判は欧米にも広まり、日本発のそのプログラムが世界中に広がり始める。開発したインストラクター、トレーナーは世界的に知られる存在となり多くのメディアに登場し、プログラムのファンは日々増えていく。
本書を読むと、こんなふうに、ありたい自分や志、価値観を大切にして、ビジョンを自由に想像し、その実現を目指すことはとてもよいことだとわかる。そして、ビジョンを実現するためには、偏見や先入観をもたずに、ただ現実そのものを見て、複数の課題を抽出、その構造を整理したうえで複数の目標に置きかえ、適切なプロセスで取り組んでいけばよいことがわかる。
著者は、「自分は何をつくり出したいのか?自分のいる現実はどうなっているのか?つくり出したい世界や自分の人生を実現するために何をするのか?」と単純に考えることを勧める。気持ちがラクになる1冊だ。
最強チームをつくる方法
ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家でスポーツライターでもある著者が記した本書。最近は、「優れた組織」はコモディティ化しつつあり、パフォーマンスを左右する要因が組織力からチーム力へとシフトしてきているという。
現場で働く人々のモチベーションは、やりようによっては2倍3倍どころか10倍にもなりうる。それがチームともなれば、その可変性は掛け算で増幅する。
著者は「チームは、地球最大級の力」をもつとまでいう。逆に、チーム力を発揮できない組織はいつまで経ってもパフォーマンスを上げることができない。誤解を避けるためにいっておくと、強いチームは、いくら高度なスキルを備えた優秀とされるメンバーを集めてもつくれない。迅速な意思決定と実行にも関係しない。そもそも「強いリーダー」や「(個性的でエキセントリックな)天才」は必要としない。
著者は、チーム力は文化(TheCultureCode)に負うところが大きいと結論付けている。では、チーム力を醸成する文化をつくるにはどうしたらよいのか?「『安全な環境』『弱さの開示』『共通の目標』の3つに集約される」と、著者は言う。チーム力を引き出すには、この3つが、この順番で必要になることを丁寧に説明する。いくらよい戦略やビジネスモデルがあったとしても、生き残れない。
本書は、これからの組織づくりを考えるためのバイブルだ。
フィットネスクラブマネジメント 公式テキスト(Vol.2)
一般社団法人日本フィットネス産業協会(FIA)が推進する国家資格「フィットネスクラブ・マネジメント技能検定(1級・2級・3級)」。
その技能検定の「公式テキスト」の最新版が本書(アドバンス、インターミディエイト、ベーシック)だ。各章の執筆を担当するフィットネス業界のスペシャリストが、初版を大きく改訂。フィットネスクラブのマネジメントとオペレーションに欠かせない最新の知識・技術を盛り込んでいる。
特に、フィットネスクラブの実務を中核人材として支えるチーフクラスに対応した「インターミディエイト」のマーケティング(入会獲得・会員継続・ICT)を拡充。また、「アドバンス」においては、フィットネス産業概論の章で、フィットネスクラブに提供するサービスがコモディティ化に陥らないために、イノベーションの実現につなげるための理論体系やビジネスモデルについても加筆し解説している。
初版と変わらないのは、フィットネスクラブのマネジメントとオペレーションに必要となるすべての知識・技術を体系的に整理し、さらに学習しやすいように、難易度別に3段階に分冊していること。執筆者によるコラムも入り、より親しみやすく、役に立つ学習教材になっている。
業界破壊企業
29歳で起業して以来、「4度死に、そのたびに復活した」という筋金入りの起業家ループス・コミュニケーションズ斉藤徹氏(※詳しくは、自叙伝『リブート(再起動)』参照)。
現在は、これまでの経験と知識を活かしてコンサルティング活動のほか、私塾「hintゼミ(経営クラス・イノベーションクラス)」を開講したり、BBT大学で専任教授(科目「幸せ視点のイノベーション」)をしたりといった活動もしている。
本書は、そんな著者が、アメリカNBC系のニュース専用放送局CNBCが毎年発表している「ディスラプター50」(※ディスラプターとは、業界の勢力図を一変させてしまう新興企業やプレイヤーを指す)のなかから、日本のスタートアップ、またはスモールビジネスを目指す起業家が、幸せ視点でイノベーションを目指すとき、参考になるだろう新興企業やプレイヤーを、プラットフォーム・ビジネスモデル・テクノロジーの3分野に分けて解説している。
さらに、実際にどうそれを実現するか、そのメリットは何かについて、ポイントを突いて説明。新コ禍の影響から生活者や勤労者がニューノーマル(新常態)に対応していこうとしているため、フィットネス業界においても、これを機会ととらえて革新的なサービスを提供していく方法を知ることが大事だ。本書は、それに取り組むうえで最高の参考書となろう。
経営トップの仕事
成長できる会社とできない会社の違いは、どこにあるのか?それは経営者やマネジャーがオペレーションを徹底できているか否かにある。では、オペレーション徹底のポイントは?『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』の著者が、経営トップに向けて、本書でその問いに答えている。
答えはシンプルで、PDCAをまわすことだ。とりわけ、「Cから始めるP」を重視すること。著者は、事業活性化のためのシナリオ策定として、まず行うのは次の3つだという。
- 市場との乖離が起きているので、まず「現状」を把握する
- 次になぜ乖離が起きたのか、因果を解明して「意味合い」を浮き彫りにする
- 「解の方向性」を明らかにして、「具体的施策」と「実行計画」を展開する
低迷企業では、経営トップにせよ、マネジャーにせよ、このPDCAをまわす「躾」が身に付いておらず、部下に業務を丸投げし、責任転嫁しているケースが多い。フィットネスクラブでも、経営層が戦略・ビジネスモデルを考えず、従来型の延長でいつまでも戦っているところが散見される。
本書を読んで基本に返って戦略を見直し、オペレーションが徹底されるかどうかまで、責任をもってマネジメントできるようになってほしい。
アフターデジタル2 UX と自由
モバイルやセンサーが偏在すると、現実世界にはオフラインがなくなり、「オフラインがデジタル世界に包含される」。まだ多くの日本人が認識できていない近未来の社会を予測し、その実現をどのように目指したらよいのかを解説した前著『アフターデジタル』の続編。
我が業界も“Fitness as a Service(FaaS)”を目指すことが望まれるが、その実現には、著者の「日本がテクノロジーの恩恵を受けて進化していけるかどうかは、いかに企業家・ビジネスパーソンが善き精神をもってUXとテクノロジーを活用できるかにかかっているといっても差し支えないでしょう」という言葉に表されるように、「精神」と「ケイパビリティ(能力と方法論)」をまずよく理解してから取り組むことが大切になろう。
本書には、FaaS実現のために、ヒントになる言葉がたくさん掲載されている。1つだけ挙げておこう。
「行動データを利活用できないプライヤーは負けていく。これからは属性データの時代から行動データの時代に移る。行動データが取れると、『最適なタイミングに、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーションで提供できる』ようになる。行動データの時代では、人を『状況』単位で捉えることができるようになり、人間の自己認識や社会における人のあり方にこれまで以上に近づくことができる」
afterコロナの経営にも大いに参考になる。
フィットネスビジネス
最後に紹介するのは、当社で発行している「フィットネスビジネス」だ。フィットネス業界の動きを鳥の目とアリの目で注視。フィットネスクラブ経営者や支配人、スーパーバイザーだけでなく、クラブスタッフや新規参入企業、業界関連メーカー、サプライヤーらにも役立つ重要な情報を独自の視点で分析~詳解している。
また、特集記事やトピックスでは、毎号タイムリーかつ重要なテーマを取り上げている。業界内外の経営者や事業責任者に取材を行い、実際の経験や成功に基づいたノウハウをもってフィットネス業界の未来を示唆している。
そのほかにも、出店予定のクラブ情報や新しい商品/サービスなども豊富に紹介し、常にフレッシュかつ時流に沿った情報の提供を心がけているため、是非手にとってみてはいかがだろうか。
まとめ
フィットネス業界、とりわけトレーナー・インストラクターは、多くのお客さまと接する機会が多く、その経験/体験こそが「正」であるため、なかなかビジネス書を読むべき場面が少ないかもしれない(栄養学や解剖学、運動生理学など指導における本は例外ではあるが)。
しかし、独立しジムを経営するとなれば、トレーナーの経験・知識だけでは維持できず、どうしても行き詰まってしまうだろう。
そうならないためにも、積極的に本を読み、生き残るための知識を蓄え、多くの引き出しをもってあらゆる状況に対応していくことが、必要であろう。