新型コロナウイルスによる人々のニーズの変化に伴い、フィットネス業界においても大きな変革が訪れている。
その象徴となるのは、やはり総合型クラブの衰退であろう。「何でもある」総合型を求める人は減り、「〇〇がある、〇〇のための」マイクロジムに通う人が増えた。
そして、そのマイクロジムで正しく集客するためにはどうすればよいのか、その手法を株式会社nano代表取締役 高橋順彦氏の講演を元に、本記事でまとめている。
マイクロジム経営に関する悩みとは?
マイクロジムをこれから経営しようと考えているトレーナーが抱える悩みとして、よく次のようなことを聞く。
- 自身のスタジオをもつ/もたない、どちらがいいのか
- 開業資金はいくらかかるのか
- 集客はどうしたらいいのか
- 1人で運営すべきか、人を雇うべきか
これに対して、実際に運営している方たちは、次のような悩みを抱えている。
- 集客が思うように伸びない
- 時間が足りない(トレーナー権オーナーでやっている方は特に時間がない)
- 人材育成の時間がとれない(お客さまを指導しながら、さらにスタッフを教育しなければならない)
- いつ身体を壊すか不安
- 独立したが相談相手がいなくてさびしい(実際、フィットネスクラブに戻る方もいる)
また、HPやブログなどをやっていなくとも、キャラが際立っているため、「この人に会いたい」とお客さまが集まり、運営が成り立っている方もいる。
そういう方や、もともと豊富な資金をもっている方などは、本記事では対象にしていない。本記事で紹介するのは、“弱者の戦略”。資金や知名度もそれほどないという方が、リスクを最小限に抑えながら運営していくにはどうしたらいいのか、その方法を紹介する。
大きく4タイプが存在するマイクロジムの経営スタイル
マイクロジムを運営するには、来ていただいたお客さまにいかに価値を感じていただき、継続してもらえるかが重要だ。それには、メインターゲット層が集客できて、続けてもらえるビジネスモデルを確立することが鍵になる。事業を選ぶ際には、自分が好きかつ得意で、世間のニーズも高そうなものを選ぼう。
自分が好きで、無理なく夢中になれること、そして自分が得意と思っていることで、他者からの評価も高く、自分は特別がんばっていなくても褒められること。さらに、マーケットがあること。この3つが重なるゾーンにある事業を選んだほうが、成功する確率が高くなる。そうでなければ、リスクを背負ってまで起業することはあまりお勧めできない。
ただお金を儲けたいからと、とにかくニーズが多いことに対処するやり方もあが、そもそも儲けようと思ってトレーナーになったという方に、高橋氏は出会ったことがないという。確固たる信念や理念があり、人々の健康に貢献したいという気持ちがあることは、このビジネスを行ううえで基本だ。本セクションでは、全国の個人オーナータイプのマイクロジム施設、4種類をピックアップして紹介するため、そのなかから自分に合うものを選んでみよう。
※次から述べる料金は、1回約60分として算出。
1.マンツーマン指導特化型
広さ:10~20坪
料金:5,000~10,000円
特徴:マシンの台数は5台以下と少なめ。加圧トレーニングを導入しているところが多い。一番手軽にできるタイプ。
2.PT指導および少人数グループ指導併用タイプ
広さ:約20坪
料金:5,000円前後
特徴:マンツーマン指導と少人数グループを同頻度で行う。グループは定員を10名までなどとし、一人ひとりをきっちりみることをアピールする施設が多い。1人で運営しているところは、グループレッスンは時間を決めて、その合い間にPTの予約が入ればやる、というところがほとんど。ピラティススタジオなどに特に多いタイプ。
3.フリー利用、フリー利用とマンツーマン併用型
広さ:20~50坪
料金:月8,000円程度(使い放題。ただしPTは別途料金が必要)
特徴:マシンは10台ほどと大め。水泳部など、チームを受け入れているところが多い。
4.グループ指導特化型
広さ:10~70坪
料金:1回1,000円というところのほか、月会費制をとり、月30,000円などと設定しているところもある
特徴:グループ指導がメイン。あらかじめレッスンスケジュールが決まっており、ヨガスタジオに多いタイプ。マンツーマン指導に対応している施設もある。
なお、例外として、月曜だけ開業しているという方や、貸し会議室を使ってジムを行っている方、知り合いのトレーナーのスタジオを借りているという方もいる。そのほか、自宅を改装したり、もっている土地の一部を活用したり、2DKの自宅で、居間をトレーニング室に、寝室をカウンセリング室に使って営業している方もいる。
1Kの自宅を片付けて営業している方もいるため、要するに家さえあればマイクロジムをできないことはない。「スタートアップではなるべく費用を抑えたい」という方は、自宅を使うという手もあるということだ。
マイクロジム経営の開業時に差が出る3つの費用
1.物件取得費(家賃、敷金、礼金)
最初に10ヶ月分をまとめて払わないといけないところも多い。ただ、高橋氏が全国のマイクロジム経営者に聞いた結果、正規の家賃を払っている方はまずいない。皆交渉して下げてもらっているという。 なかには、10年間使っていない倉庫をみつけてオーナーに交渉したところ、「健康産業なら」ということで、ほぼタダ同然で借りている方もいる。また、知り合いをたどれば、大体不動産会社の方に行き着くため、そうなればさらに交渉がラクになる。ちなみに、同氏の場合は、1ヶ月分の保証金だけで済んだという。
2.内装費
内装にどれだけこだわるかは、資金面で大きく差が出るところだ。ジムのコンセプトや立地、ターゲットによって、正しく取捨選択しよう。例えば、立地を西麻布にし、タワーマンションに住んでいる裕福な40代女性をターゲットにしたのにもかかわらず、内装が貧相で高級感が無ければ、見向きもされないだろう。また、若い女性をターゲットにした場合、お客さまがトレーニングの様子SNSにアップする可能性は非常に高い。高級感は必要なくとも、スタイリッシュなデザインやちょっとしたフォトスポットを設置するだけで、効果はああるだろう。
3.マシン代
マシンを置かないところもあるが、マシンがあってのジムということで、置くところが多い。高橋氏はViPRのような多機能なツールを使っている。コストも下げられるためおすすめだという。また、コストを抑えるためにOEMのマシンを利用するのも吉だ。基本的に中国製にはなるため、納期や補償が心配な人もいるだろうが、中国製のOEMを取り扱う国内フィットネス総合商社も増えているため、連絡を交わし信頼できると感じた企業に託してみるも良いだろう。
マイクロジム経営においても事前のマーケティングやブランディングの組み立てが鍵
マイクロジムは、小資本で開業できてリスクが比較的少なく、利益率は高いため、比較的おすすめだ。しかし、事前に以下の4つをきちんと組み立てておくことが大切だ。
- ブランディング
- マーケティング(集客)
- セールス(体験対応)
- リテンション(継続)
上記を怠った結果、「開業したが辞めました」という声も多くある。
ブランディングとは、どのようなサービスを提供し、どのようにしてマーケットに認知され、どのような人を顧客にするかということ。そのほか、既述の1~4を組み立てるには、次を考えることが大切になる。
商品(Product)価格(Price)立地(Place)販売促進(Promotion)を分析する(4P分析)
顧客(Customer)自社(Company)競合(Competitor)を分析する(3C分析)
内部環境の強み・弱み、外部環境の機会・脅威について分析する(SWOT分析)
人々に支持される商品をつくらなければ、集客してもリピートしてもらえない。ぜひ、4P、3C、SWOT分析を利用し、改めて現在あるサービスを分析してみてはどうだろうか。ちなみに、それらを行った結果、高橋氏の場合は、“痛みや動き、姿勢改善専門のトレーニングジム”としたという。
セルフコンディショニングのメソッドをお客さまに覚えてもらい、卒業してもらうことをモデルとして行っており、「最小の努力で健康的な身体が手に入る施設」とブランディングしている。定義は「あなたに合ったやり方を提供して、自分で身に付けて、卒業できるジム」。
例えば次のようなものを組み合わせて独自の商品・サービスをつくってみよう。
- 形態(パーソナル/グループ)
- 食事指導
- 自宅でのトレーニングサポート
- ツールとのセット
- 期間
- 頻度
- 自分の強み、経歴
価格は高めで設定を
価格の設定はなかなか難しいだろう。PTの相場だけでなく、マッサージなど、お客さまが比較すると考えられる分野も考えなければいけず、都市部と地方、自身の経験を考慮することも必要だ。
自分の得たい収入から逆算していく方法もあると思うが、やはりお客さま基点で考えたほうがよい。自分が対象とするお客さまがどれだけ価値を感じてくれるのかということを基準に設定するのがベストだろう。また、「2つの価格で迷ったら高いほうを選べ」ということも伝えたい。
高橋氏の場合は、6,000円と9,000円で迷い、後者にしたという。開業当初としては非常に高かったはずだが、迷うということは、どちらも突拍子もない価格ではないはずだと同氏は考えた。どうしても最初は弱気になってしまうと思うが、迷ったら高いほうにしよう。安くするのは、期間限定や人数限定などでいつでも実施できるからだ。
マイクロジムのマーケティング
マイクロジムのマーケティングは2ステップで行ったほうがよいだろう。お客さまが問い合わせをして即入会、という1ステップではなくて、問い合わせから、体験を経て入会という2テップにする。
お客さまが総合クラブのように、施設アイテムだけで入会することはほぼないため、まずはサービスを体験してもらい、納得いただいたうえで入会してもらうことが一番だ。チラシやHPをつくるときも、いかに体験につなげられるかを考えてデザインしよう。そのほか、体験における重要ポイントをいくつか、以下に紹介する。
体験は有料もあり
体験には有料・無料の2つがあるが、高橋氏の場合は、ある時を堺に基本的に有料としている。しかし、それほど集客力が下がらなかったうえ、体験入会率は10%上がったという。有料にすると、さらにセグメントされた方が体験に来るようだ。
トレーニングの必要性を伝える
体験では、トレーニングの必要性を感じてもらうことが大切。「価格のことを考えるとなかなかお勧めしづらい」という方もいるが、トレーナーとして純粋に「あなたの身体はこうだから、このようなトレーニングが必要です」と伝える。それを伝えたうえで、価格についてはお客さまご自身で判断していただけくのがよいだろう。
最後の決め台詞は“入会”を前提に
体験いただいたお客さまに「始めるとしたら、いつがいいですか?」と聞くと、「すぐに!」と言う方もいれば「仕事があるので来月から」と言う方もいる。また、見込みがない方は「わかりません」と言うだろう。入会する前提で、「始めるとしたら…」と聞いたほうがお客さまの反応もわかりやすく、入会もとりやすくなる。これを使えばクロージングのハードルが下がるため、クロージングが苦手な若手のトレーナーの方などはぜひ使ってみてはいかがだろうか。
集客はLTVやCPOでシビアに計算を
集客について「口コミで広がるから大丈夫」「以前指導していたお客さまが来るといってくれているから大丈夫」というように、楽観的に考えている方が多いが、この状態で起業すると、後から痛い目にあうため、もっとシビアに考えるべきだ。
まずは次の3つを抑えてみよう。
1.LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)
お客さまが入会し、退会するまでに支払う合計金額のこと。高橋氏の場合は月4万円。6ヶ月平均なら同社のLTVは24万円になる。これは大きければ大きいほどよい。
2.CPO(Cost Per Order:顧客獲得単価)
1人ご入会いただくのにかかった費用。例えば、HPの作成に120万円かかったとしよう。それを2年使うのであれば、1月あたり5万円がその費用となる。そのHPで何人獲得できたかで考えるのだ。これはLTVとは逆で、低いほうがいい。
3.時間帯効果
トレーナー兼オーナーは忙しいため、時間に対する効果がどれだけあるかについても、シビアに計算する必要がある。
この3つを抑えたうえで、何人集客する必要があるかを考えよう。なお、LTVは、長期継続してくれている方がいると平均値が高くでやすいため、高橋氏は中間値を出している。こちらのほうがより現実的だろう。
集客方法は特徴に応じて使い分ける
集客方法には次のようなものがある。立地や対象などさまざまなことを考慮したうえで、最適なものを活用しよう。
1.web
webは、Facebookなどいろいろなものがあるが、HPは基本だ。このベースがなければ、紙媒体でいくら集客をしても、1回きりの効果になってしまう。紹介や看板の効果は「お客さまが来たらいいな」程度で考えておこう。HPの作成費は無料から100万円程度かかるものまでさまざまなものがある。以下に最近人気のツールを2つ紹介しておく。
「WIX」:無料のHP作成サイトリンクさせる方法がよいでしょう。
「あきばれホームページ」:初期費用が5万円ほど、月額5,000円ほどで SEO対策も行ってくれるサイト
ここで、ストックメディアとフローメディアについても覚えておこう。ストックメディアはブログなど、情報が蓄積されていくもの、フローメディアは、TwitterやFacebookなど、情報が流れていってしまうものを指す。要するに、ブログではひっかかる情報が、Facebookではひっかからない。この部分をよく理解したうえで、情報の出し方を考えるとよいだろう。長文ならFacebookではなくブログに書き、Facebookからリンクさせる方法がよい。
2.紙媒体
雑誌やフリーペーパーを利用するのが現実的だろう。基本的に有料だが、取材なら無料で宣伝してもらえる。独自性の高いものを打ち出せば、取材してもらえる可能性が高くなる。
3.チラシ
ポスティングや手渡しなどは、一般的な反応率が0.01~0.05%程度であるため、100枚配ったが1人も来ない、ということも当たり前だ。それを把握したうえで、チームの意識を高めるためにあえて行うというならばもちろんよいだろう。しかし「これだけ配れば1人ぐらいくるだろう」という甘い考えで行うと、がっくりくるかもしれない。
4.お客さまおよび同業者からの紹介
今通っている方からの紹介はもちろんのこと、同業者のトレーナーからの紹介もあるといいだろう。自分の強みを明確にして、役割分担をすればトレーナーからの紹介も増えてくるはずだ。
5.紹介しやすいシステムをつくる
紹介しやすいカードやツールをつくるのはおすすめだ。特に、入会直後は人を誘いたいと思う気持ちが強いため、入会直後に「今、紹介したら特典があります」などとキャンペーンを行うとよいだろう。 なお、新規の顧客を獲得することももちろん大切だが、コスト面や、お客さま、トレーナーの満足度を考えると、やはりリピーターをつくること、要するに継続に力を入れたほうがいいだろう。そして、継続の鍵は初期定着だ。
同社の場合は、1~4回目までに離脱する方が多かったため、その4回は1時間のトレーニング後に30分間フォローの時間を設けた。また、その期間は宿題などを記したメールも送るようにしたところ、好評だったという。4回までは来る度に特典があることもアピールしておくと、来店のよいきっかけになる。このように、ぜひ初期定着には注力していただきたい。
ライバルは同業他社だけではない
ライバルにはいろいろあるが、時間を確保してもらうことを考えると、同業他社だけでなく、家族との時間やゲームをするなどの時間もすべてライバルだ。これらに対抗するには、トレーニングすることを忘れさせない、優先順位を高く保っていただけるような取り組みを行うことが大切だろう。
マイクロジムというのは、集客するだけでなく、いかに継続してもらえるかが大切だ。また、ビジネスとして自分が情熱をもって取り組んでいけるかも重要だろう。起業すると、いろいろな不安やリスクもあるが、やはり楽しさもある。コロナもまだ終息していないなか、健康な人を増やす手伝いを、ぜひ熱量をもって行ってほしい。