株式会社五十苅知博事務所(以下、五十苅知博事務所)の代表取締役を務める五十苅氏は、本誌の人気連載コーナーであるRenovation(再生手法)でお馴染みのフィットネスプロデューサーだ。不採算店の再生も手がける一方で、新規開業についても多くの知見をもつ同氏は、24時間ジムに絞っても全国に数多くの開店プロデュース実績を誇る。同氏より、24時間ジムの運営の本質、欧米諸国と日本の違い、そしてプロデュース事例を複数紹介する。

五十苅知博氏
株式会社五十苅知博事務所 代表取締役

従来型の24時間ジムの現状は同じターゲット層の取り合い

現在、日本において24時間ジムは出店数が増加傾向にある。10年前であれば、誰も24時間営業のジムがここまで普及するとは想像していなかったのではないだろうか?

では、なぜここまで支持されることになったのか。五十苅氏はこう分析する。

「まずは価格です。総合型フィットネスクラブの半額程度で通えるという点が大きいです。設備としては最低限のウェイトトレーニングと有酸素運動ができるため、それで十分という人にとっては最高というわけですね」

その層が多いのはトレーニングをすでに知っている20~30代の男性だ。近年はYouTubeの影響で、いわゆる筋トレブームが起こっていることも要因だと同氏は話す。

しかし、現在は24時間ジムの出店が加速するあまり、このターゲット層を取り合う構図が生まれているという。同じ商圏に後から別の24時間ジムが出店した場合、その既存店の会員数は少なからず減少することになる。損益分岐点を若干下回る店舗も現れ、採算性が芳しくない状態に陥っているケースもあることから、同氏は今後、24時間ジムは淘汰される時代になると断言する。フィットネスビジネス第115号(7月25日発売)の連載に詳述されているため、そちらも併せて読むとよいだろう。

欧米諸国と日本では国民性が顕著に異なる

ここで、一度海外に目を向ける。五十苅氏が見た海外の事例と、日本の違いを紐解いていく。

「アメリカのAnytimeFitnessではスタジオを設ける店舗はまだ少ないのですが、ヨーロッパで900店舗以上を展開しているBasicFitはバーチャルスタジオを設けています」と同氏は話す。

なぜこのような違いが生まれるのか?

「アメリカは元からジム文化が根付いていましたが、ヨーロッパではそうでもなかったのです。それであれば、日本は後者を参考にするべきではないでしょうか」と提言する。

また、国民性についても考慮に入れる必要がある。アメリカでは見ず知らずの会員同士がジムで仲良くなり、バーベルのプレートを付けるのを手伝ったり、男女同士でも一緒になってトレーニングをしたりすることが往々にしてあるそうだ。一方で日本は、このようなコミュニティが自然と生まれることはほとんどない。

ところが、完全に孤立してしまうと、入会した目的を達成する前に離脱してしまう。なんとも難しい国民性であるが、だからこそ日本はフィットネス参加率がいまだに低い。初心者や女性といった、24時間ジムの使い方がわからない人が多い層に、クラブ側がどうアプローチできるかが生き残るために必要不可欠となる。

多くの人に支持される24時間ジムのあるべき姿

まず、五十苅氏が述べたのは女性専用の24時間ジムの強さであった。従来型の24時間ジムは男女比が2:8くらいで、同じ商圏に出店しても競合とならないケースが多く、勝率が高いという。女性専用24時間ジムの詳細についてはP92の「FigureBody」に記載する。こちらも五十苅氏のプロデュースした店舗である。

女性専用でなくとも、男女のバランスのよい人気の24時間ジムもするためには、スタジオやファンクショナルエリアの設置を同氏は推奨している。

そして、それらを設置するだけがゴールとなってはいけない。バーチャルスタジオを設置する場合も、スタッフが会員さまと一緒になって全力でプログラムに参加することで、コミュニティがつくり出されるだけでなく、スタッフにとっては研修代わりにもなるからだ。半年も経てば、レッスンができるようになる。

さらには、有償のスクール制にしてしまうというのもひとつの方法だ。8~12人の少人数制セミパーソナルレッスンとして実施できればベストである。メリットは2つ。1つはインストラクターに働く場所と収入を提供できる仕組みがつくれること。もう1つは、曜日と時間が固定され、会員さまがコミットできる確率が高まること。「いつでも行ける」は、結局行かなくなってしまうことが多い。それを防止するのに最適だろう。会費が6,000円で、週1回のレッスンが1,000円とすれば、ひと月あたり10,000円に収まる。総合型フィットネスクラブで10,000円以上の会費を支払っているのに足を運ばない人が約20~25%いると言われるなか、どちらが利用されやすいのかは言うまでもないだろう。

また、このようにスタジオで会員さまとコミュニケーションができると、パーソナルトレーニングも申込が増加する。クラブの会費以上の出費をするのは勇気がいるものだ。ただ、顔なじみのスタッフであれば、そのハードルは大幅に下がる。ちなみに、ヨーロッパで展開するBasicFitは1回あたり約3,000円で提供しているという。トレーナーの活躍の場と、個人の収入も増やせる仕組みができている。

24時間ジムは、工夫次第でさらにパワーアップしていくわけだ。必要な要素を一言で表すと「サービスの手厚さ」ではないだろうか。それでは、五十苅氏のプロデュース事例を3つ厳選してご紹介しよう。

事例研究①アブレイズボディデザイン水戸

2021年の7月に茨城県の水戸にオープンしたばかりの24時間ジムだ。無料レッスン、1,000円のカルチャースクール、そしてパーソナルトレーニングの3階建てがきっちり設計されている。バーチャルスタジオがない代わりに、スタッフの研修をしっかり行って、お客さまが満足できるクオリティを実現している。

事例研究②エクサフィット万場大橋

‘21年8月中旬に愛知県の名古屋にオープン予定(取材当時)の24時間ジムだ。五十苅氏曰く、自身が実現したかった24時間ジムの完成形と言える店舗である。加圧エクササイズやファンクショナルトレーニングエリアのほか、バーチャルスタジオもある。今後、エクサフィットは100店舗以上に増やしていけるポテンシャルがあると五十苅氏は期待している。

事例研究③フォースクエア仙台

最後が’21年8月1日に宮城県の仙台にオープンした24時間ジムだ。面積は約130坪であるが、男女のロッカーを設けたほか、外履きを禁止にして感染症対策に配慮をしている。スタジオの床も2m四方で模様を変え、自然とソーシャルディスタンスが取れるように設計されている。スタッフの研修もこの店舗ではしっかりと行っていて、様々なプログラムを受講できる。

3つの事例に学ぶ根幹となる共通点

最後に、五十苅氏のプロデュース事例の共通点を、以下の5要素に沿って見ていく。これらもフィットネスビジネス第115号の同氏の連載に提示されている要素だ。

  1. 坪数
  2. 価格
  3. 指導サービス
  4. SNS販促
  5. スタッフ採用

まず坪数。従来型の24時間ジムは70~100坪であるが、五十苅氏の手かける24時間ジムは120坪以上確保し、スタジオやファンクショナルエリア、さらには女性専用エリアを設けているところもある。

価格はどこも7,000円台。キャンペーン期間中であれば6,000円台で永久に利用できる。

指導サービスは、無料レッスン、カルチャースクール、そしてパーソナルトレーニングを提供するため、スタッフの研修も欠かさない。バーチャルスタジオがある場合は、それも併用して体験価値を高めている。

SNS販促は、集客のなかで最も力を入れている。五十苅氏はクラブスタッフの採用試験として、3分間の自己PR動画の作成と雑学テストを応募者に課すそうだ。SNSの更新スキルとトレーニング以外の話の引き出しの多さを確認している。

最後がスタッフ採用で、女性のスタッフを多く採用する。販促ツールに掲載するモデルも女性とすることで、従来型の男性に溢れる24時間ジムより、近づきやすく設計している。

今後も五十苅氏プロデュースの24時間ジムは要チェックだ。