三立化工機株式会社(以下、三立化工機)愛知県春日井市に本社を構える創業50年超の企業である。製造業からスタートするが、2代目である現社長になってから事業の多角化を進めてきた。収益の柱を多くもつことが、会社の存続には欠かせない。そのうちのひとつがウェルネス事業。名古屋の栄でフィギュアボディという女性専用の24時間ジムを運営している。「女性専用」がどのようなメリットを会員さまや運営者にもたらすのか詳しく訊いた。

小川 慎一氏
三立化工機株式会社 新規事業開発部 部長

名古屋栄の激戦区で勝負のリニューアルオープン

三立化工機が最初に名古屋栄にフィットネスクラブをオープンしたのは6年前。当時は別の名称で女性専用の24時間ジム+ホットヨガの業態で展開していたが、大幅にリニューアルして2019年に再オープン。最寄りの駅から徒歩1分の好立地だ。

栄は名古屋のなかでも有数の商業地域として知られ人出が多く、競合となるフィットネスクラブが点在している。そのなかで差別化を打ち出すべく、「24時間ジム×女性専用」という路線で存在感を見せている。特に仕事前と仕事終わりのビジネスウーマンや、学生に利用されているという。

女性専用24時間ジムという切り口では、名古屋栄周辺に競合はいない。このようなターゲットの絞り込み戦略が、激戦区で勝ち残るための施策として有効なようだ。

女性の「なりたい自分」になるサポートができるジム

フィギュアボディという名前からもわかる通り、女性のボディメイクに対するニーズに応えるジムというコンセプトを前面に打ち出している。

「例えば、Instagramのこの人のような身体に自分もなりたい、結婚式までに目標としている体型になりたい、といったお声を聞くことが多いですね」と新規事業開発部長の小川氏は言う。

会員種別は24時間いつでも利用可能な「オールタイム会員」、利用可能時間が絞られている「デイ&ホリデイ会員」、そして友人や家族と相互に利用できる「シェア会員」を設けている。オールタイム会員で8,800円(税込)となっている。それぞれの利用回数に合わせた料金体系を選べるので安心だ。

いわゆる24時間ジムだとスタッフがいないジムが多いなか、フィギュアボディはスタッフしっかりとマシンの利用方法などを会員さまに丁寧に教える体制を築いていることが強みだ。

一般的な24時間ジムと同水準の料金体系で、手厚いサポートまでついているのだから、消費者に支持されて当然であろう。そして、最も支持されているポイントは、やはり女性専用という点だという。

女性専用だから入会した人が会員さまの90%を占める

「フィギュアボディの入会者にはアンケートに答えてもらうことになっています。複数回答可能にしているとはいえ、9割以上の方が『女性専用だから』という理由で入会されていることがわかっています」と小川氏は話す。

会員さまの約70%は20代の女性だ。それから30代、40代と年齢層が高くなるにつれて割合が減っていくような構図だ。つまり、ほとんどの会員さまが若年層に分類される。

若年層の女性でフィットネスジムの経験がある人はまだまだ少ないなかで、フィギュアボディの会員さまの80%は初心者層だという。

彼女たちはフィットネスクラブに通いたくても、なかなか一歩を踏み出せなかったが、女性専用ということで心理的ハードルが著しく下がるようだ。

「女性はやはり、周りの人の目が気になりがちです。ジムの使い方もわからないかつ、これからいい体型になろうとするスタートの状態を見られることが恥ずかしいと感じるようです。その気持ちも、女性しか周りにいないのであれば軽減されるのです」と小川氏は説明する。

そのような女性の心理を考え抜いたフィギュアボディの設備にフォーカスを当てよう。

女性の不安や不満にすべて応える24時間ジムの設備内容とは

まず、フィギュアボディの構造は1フロア完結で総面積は240坪。ジムエリアは大きく分けて4つのエリアで構成されている。ジムが初めての人でも安全に使えるマシンがそろう「初心者ゾーン」、フリーウェイトや中級者以上向けのマシンが充実している「アドバンスゾーン」、TRXが利用できる「ファンクショナルソーン」、そしてランニングマシンが11台並ぶ「有酸素ゾーン」だ。

駅から雨に濡れずにジムに行くことができ、入館時は最新の顔認証システムでドアの開錠ができる。フロントには夜の10時までスタッフが常駐しているし、無人の時間帯でも24時間体制でセキュリティ会社が遠隔監視を実施しているため、安心して利用可能だ。

ロッカーはブーツや大きなカバンでも楽々と入る大きさで、パウダールームやシャワーも充実している。女性同士ではあるが、それでも周りの目が気になるという会員さまのために個別の更衣室も用意しており、心遣いが見て取れる。

ラウンジはフリーWi-Fiを完備しており、ゆったりとくつろげるようになっている。

このように、女性の利用者にとっての顧客体験を追求した設備内容となっているのがわかるだろう。

そして、どの写真を見ても伝わる通り、これでもかと言うくらいに館内は清潔に保たれていることも女性にとっては嬉しいはずだ。女性専用のジムに関わらず、見習うべき場所は多いのではないだろうか。

パーソナルトレーニングの利用率向上の工夫

先ほどまではハード面を見てきたが、次はソフト面にも触れていきたい。こちらも様々な創意工夫が施されている。

まず先述の通り、初心者層が多い入会者に向けてマシンの利用方法などをスタッフが丁寧に教える。女性は「人から教えてもらいたい」というニーズが男性よりも高い傾向にある。そのため、このような対応は非常に効果的だ。

無料で受けられるミニレッスンも設けており、特にTRXを用いたファンクショナルゾーンでのレッスンは大変人気となっている。無料のレッスンを入口として、その先にパーソナルトレーニングも用意している。まずはお試しで3回から利用可能なコースを設け、金額的なハードルを低くしている。

さらに、無料レッスンと同じスタッフがパーソナルトレーニングも担当することになるため、顔なじみの状態からスタートできる。つまり、心理的なハードルも低くなるわけだ。

入会直後の初心者層は、ボディメイクをしたいと思っていても、パーソナルトレーニングの価値がなかなか伝わりづらい。そこで、無料レッスン、お試しコース、そして本コースという3段階にすることで、徐々に価値を理解してもらえるようにステップアップできる仕組みになっている。

女性専用の24時間ジムのハード面とソフト面の両方のロールモデルのような店舗設計である。

コロナ収束後のチャンスがすぐ近くに迫る

これだけの工夫が施されている店舗であっても、やはりコロナの影響は非常に大きかった。

「2020年の1回目の緊急事態宣言のときにはかなり影響がありました。しかし、同年の秋から冬にかけて会員さまの在籍数は下げ止まり、2021年になってからは右肩上がりで回復しています」と小川氏は当時を振り返りながら話す。

コロナによって、商業地域である名古屋栄に出社するというライフスタイルがリモートワークの普及によって変わってしまったことも、会員数が減少した一因ではある。

しかし、家で仕事をして、そのまま一歩も外に出ないでは息が詰まる。健康やボディメイクのためにジムに通いたいというニーズを、今後フィギュアボディは名古屋栄唯一の女性専用24時間ジムというポジションで応えていける予兆がすでに見えてきたという。

「コロナ後に入会された方の継続率は驚くほど高いのです。入会していただいても、放置されてしまったが故にひとりで継続できないというのではもったいないです。そして、最も大切なことは結果です。それも継続してこそ現れるものなので、これからもスタッフによる手厚いフォローを会員さまに提供していきます」

当たり前だが、退会者が少ない状態で新規入会が増えていけば在籍数も増加する。ワクチン接種が若年層にも進んでいけば、近い将来に最高在籍数を更新するであろう。

そして、すでに高い割合でパーソナルトレーニングを会員さまが利用しているが、それをさらに高めていくことが今後の目標だ。

正しいことをやっていれば、必ず会員さまはフィットネスジムに戻ってくる。そして、コロナをきっかけに基礎体力や健康の大切さを知る機会が増えたことによって、むしろ絶好のチャンスがやってきたと小川氏は考えている。

フィギュアボディは女性のハートを掴む24時間ジムなので、コロナ後のチャンスも間違いなく掴み、三立化工機の収益の柱となっていくだろう。