2021年11月24日から26日の3日間、東京ビッグサイト西展示棟にて「次世代ヘルスケアプロジェクト2021」が開催された。そのなかで、日本メディカルフィットネス研究会の副会長を務める藤本浩也氏により、メディカルフィットネスの全体像を捉える内容の講演が行われた。本記事はそのセミナーの内容の抄録である。メディカルフィットネスの拡大傾向にある現状や、運営に必要な要素が整理されている。民間フィットネスクラブのなかでも、同領域のサービス提供で他社との差別化を図るところが現れているため、流れに取り残されないためにも、まずは基本的なところから押さえておこう。

藤本浩也氏
日本メディカルフィットネス研究会 副会長

日本メディカルフィットネス研究会の発足と活動内容

日本メディカルフィットネス研究会は2011年2月に発足。「メディカルフィットネス」という単語は、日本の医療品関係者の間で生み出された造語である。今でこそ認知が世界で広まりつつあるが、最初は定義もあいまいなものであった。そこで、同研究会はまず、メディカルフィットネスの定義を共通認識として広めるところから活動することになる。

結果、広義と狭義の2種類に定義づけられた。広義では「医学的要素を取り入れたフィットネス」、狭義では「医療機関が提供するフィットネス」のことを指すとされている。つまり、広義では民間フィットネスクラブであっても提供が可能であることを示している。

では、医学的要素とはどのようなものが挙げられるのだろうか? 例えば、健康診断、栄養相談、保健指導などが当てはまる。一般的なフィットネスに加えて、これらを提供すると、メディカルフィットネスとなるわけだ。

日本メディカルフィットネス研究会は、発足のきっかけとなる第1回目のメディカルフィットネスフォーラム以降、現在までに合計20回のフォーラムを開催。「健康寿命の延伸」「医療費の抑制」「雇用の創出」という大きな3つのミッションを掲げる同研究会は、施設の運営や細かな運動指導といった現場に即したセミナーを提供しており、健康運動指導士の更新に必要な履修単位にも含まれるようになった。

メディカルフィットネス提供施設数および国としての施策

まず、メディカルフィットネスを提供する施設を整理しよう。図1にある通り、大きく分けて4種類。まず有名なのが42条施設と呼ばれるものだ。運営母体が医療法人に限定される疾病予防施設である。健康増進施設および指定運動療法施設は双方とも厚生労働省に認定された施設である。健康増進施設については、「健康増進のために適切かつ安全に有酸素運動を行える施設」とされている。

運営母体を問わないため、民間のフィットネスクラブでも認定が可能となっている。指定運動療法施設については、施設の利用料が一定の条件で医療費控除の対象になることが特徴だ。そのほか、デイケア、デイサービス、整骨院なども対象となる。施設数については図1を参照。「国民医療費が増加傾向にあり、令和元年では約43.4兆円(厚生労働省より)となっているなかで、メディカルフィットネス施設のニーズもますます高まっています」と藤本氏は説明する。

国としても国民健康づくり対策として、健康日本21(第2次)を策定し、国民の健康の増進に関する基本的な方向や目標を定めている。このように、メディカルフィットネスは公益性が高いうえに、世の中から必要とされる声が増えている。

図1 メディカルフィットネス施設数および種類

一般のフィットネスとの違い メディカルフィットネスの特徴

メディカルフィットネスに求められるのは、高まる健康意識への対応である。フレイルやロコモティブシンドローム、生活習慣病といったものを、運動を通じて予防サービスを提供することで付加価値が生まれる。メディカルフィットネスと一般的なフィットネスの違いについては、図2にまとめてあるので、参照いただきたい。

メディカルフィットネスの特徴としては2つ。1つ目は、幅広い層を対象とすること。中高年層に向けた健康づくりや、要支援・要介護者向けの運動療法のほか、トップアスリートのコンディショニングまでをカバーする。

2つ目は、圧倒的に低い退会率だ。「一般的なフィットネスクラブであれば月に5%程度の会員さまが退会されるが、メディカルフィットネス施設では1%台にまで下がります」と藤本氏は強調する。

図2 フィットネスとメディカルフィットネスの違い

メディカルフィットネスのメリットと課題

図3 メディカルフィットネスのメリット

メディカルフィットネスのメリットについては図3にまとめた。退会率の抑制のほかにも、様々なメリットを享受できることがわかるだろう。このようなサービスを提供するためには、医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、健康運動指導士など、専門スタッフを多く配置することが必要となる。その分、サービスに厚みが増していく。

一方で、課題もいくつかある。医療法による広告の制限、医療機関との連携に伴うコスト、認知度の低さなどが挙げられる。特に収益性は改善の余地が大いにあり、日本メディカルフィットネス研究会としては、こうした課題の解決を目指して発足した背景もあり、新たにメディカルフィットネスに関するコンサル事業を開始。すぐに施設から依頼を受けている。

メディカルフィットネスの成功のポイント

メディカルフィットネスの意義をまずは整理する必要がある。1つ目は、利用者の個別の目的に対応すること。その人が抱える健康課題に対するソリューションが、施設を設置する目的に直結するため、まず一番に考える必要がある。

2つ目は、安全性へ配慮すること。多くの専門スタッフによって、健康課題を抱える利用者でも安心して利用できる施設であることが求められる。

最後の3つ目は有用性に対して医学的なエビデンスがあること。メディカルフィットネスに関して言えば、運動を楽しむという要素よりも治療という要素が大きくなる。これらを満たすことで、メディカルフィットネス施設として利用者に価値を提供できる。

そのうえで、成功のポイントを藤本氏はこう述べる。「まずは施設のコンセプトを明確にすることからスタートしてください。そして、それを一言で説明できるかどうかが大切です」。例えば、腰痛対策をするとか、メタボリックシンドロームを解消するというように、利用者にわかりやすく打ち出す必要がある。

そして、プロファイリング。つまり施設を構える地域の市場調査だ。「どのような人が住んでいるのかを把握したうえで、誰をターゲットにするのか明確にしてください。民間のフィットネスクラブと同様です」(藤本氏)

それから、開業へのスケジュールをしっかりプランニングしたうえで、収支計画を中心に事業計画を作成する。人材育成もポイントで、特に「サービス業」であるため、医療サービスに求められる以上の「おもてなし」の要素を教育することが成功に近づくポイントになる。

「メディカルフィットネスにおいても、キーワードとなるのは『コミュニティ』です。集まりたいと思える場づくりを行ったうえで、多様な健康課題に対して専門性の高いサービスを提供することで、公益性の高い施設として存在意義が生まれます」と藤本氏は締め括った。