戦略デザインファームMormediで「サービスをデザインする」ことに携わる北澤順子氏。今号では、コロナによって変容した顧客の生活や価値観などを理解する方法の一つとして、個々のストーリーを収集し、共通項を見出す方法があると述べる。ぜひビジネスでの活用シーンを思い浮かべながら読み進めていただきたい。

コロナによって私たちの生活は大きく変容した。現在も東京を含む一部の地域では緊急事態宣言が長引き、様々な事業者が苦労を余儀なくされ続けている。このような事態でも人々はその時々の価値感を持って幸福を求め続け、事態が切迫するほど「よりよく生きたい」という願望が浮き彫になってくる。

事業者はその願望に応えるソリューションを提供することによって社会に貢献し、収益を上げ、社会に良い循環を創造していくわけだが、これまで新規事業領域に携わってきた観点から見ても、いまは大変先が読みにくい状況で、人々の価値感が揺れ動いて定まらず、インサイトの発見が困難になっている時代だと言える。

リアルな声を聴くだけでは理解が高まらない?

このような時代、殊に顧客の生活行動や目的達成に直接影響するようなサービス事業では、顧客の生活や価値観の理解が非常に重要な情報となることは言うまでもない。特に、いまの時代はファシリティや機能を提供するだけではなく、そこにある価値を共有する人々の「コミュニティ」をどのように育てるかが重要な成功の鍵となるため、ますますそこに存在する人の理解が不可欠となっている。

多くの企業ではこれまでも「お客さまの声」を聴く取り組みは行ってきたかもしれない。しかし、今が少し特殊な状況であることから、単純なヒアリングやアンケートでは露出してこない部分が潜在し、ニーズやインサイトを見極めるには苦労する。なぜならいまは顧客自身、自らの期待や不安・迷いを整理できない部分が多すぎて、言語化困難な状況にあるからである。

対象となる顧客の価値感変化が捕らえられず、ニーズやウォンツがしっかり理解できないとなると、当然そこへ対してのソリューションもぼやけてしまう。個々の顧客を理解することなく、漠然とした多くの顧客に「間違ってはいないけれど刺さらない提案」を提供し続ける企業はやがて飽きられてしまうし、この時代を生き延びることが困難になることが予測される。

アンケートやヒアリングなど、単純な顧客理解の手法に限界があるとすると、我々