Les Mills Japanマネージングダイレクター、ニュエン・リー氏に聞く

コロナ禍が、フィットネス事業者に与えた影響は、大きい。まだ多くのクラブのフィットネス会員数が、ピーク期に比べて▲20~30%の状態で滞っている。回復と再成長に欠かせない要素は何か?世界的なプログラムプロバイダーであるLes Mills Internationalは、そのカギがインストラクターの価値向上にあることを特定した。

同社は、それを実現するための様々なサポートをクラブに対して提供している。例えば、今回、日本でも導入する「LMQ」というインストラクター育成のための評価システムもその1つだ。そこで、同社によるこうしたインストラクターの価値向上のためのクラブへのサポートサービスについて、Les Mills Japan合同会社 マネージングダイレクター ニュエン・リー氏に詳しい話を訊いた。(通訳大塚亜里沙氏/聞き手本誌編集長古屋武範、以下、敬称略)

ニュエン・リー氏
Les Mills Japan
合同会社マネージングダイレクター

 

 

 

 

まず Les Mills社が、インストラクターの価値向上が、クラブの成長にとって、とても大切になってきていると考える背景について教えてください。

この半年から1年の間に、コロナ禍が収束していくなかで、私たちは6つのことを学びました。

1つ目は、顧客の変化です。年代や性別なども変わってきていますが、顧客の価値観や行動様式なども変わってきています。典型的な傾向として、(フィットネスを習慣化したいと考える)初心者が増えたことが挙げられます。

2つ目は、ライブレッスンの体験を求めるメンバーが増えてきていることです。コロナ禍が収束するにつれ、メンバーはリアルのレッスンに参加したいという気持ちが強くなってきていることが感じられます。

3つ目は、自宅でもクラブでもエクササイズできる環境が提供されることが標準化してきたことです。メンバーの多くが、どこにいても気軽にエクササイズできるサービスを求めるようになってきています。もはや自宅とクラブの境界線はなくなりつつあります。

4つ目は、クラブの経営者らが、変化に迅速に対応できたかどうかが、経営の成否を分かつことになったことが明らかになったことです。

5つ目は、クラブのコンセプトとして、「ウェルネス」や「ウェルビーイング」を取り上げ、それに沿ったサービスデザインをするところが増えてきたことです。単なるウェイトロスよりも、人生のクオリティを高めることのほうに、多くの人々の関心がシフトしてきていることに対応しようとしてきているのではないかと思います。

6つ目は、タレントとしての重要性が増してきていることです。クラブのなかでは、まさにインストラクターこそ、キーになるタレントと言えるでしょう。今後、人材不足も問題になってくるかと思うのですが、それより前にすべきは、今いるインストラクターのクオリティをいかに高めることができるのか、そして顧客にとって魅力的な存在になってもらうようにするかということでしょう。

こうした6つの要因のすべてに共通する要因が、人材、とりわけインストラクターということになるでしょう。クラブ経営者の方々には、インストラクターが必要不可欠なアセットであり、彼ら彼女らが、内発的な動機を発揮して、自分自身の価値向上に取り組もうとすることを支援していくことがとても重要であると改めて認識していただき、具体的な取り組みを始めてほしいと思います。そして、私たちも、そこに貢献したいと思っています。

先に Les Mills 社が発表した『Global Fitness Trend Report 2021』によると、日本のフィットネスユーザーの 69%が「(フィットネスの)初心者」であり、その初心者がフィットネスクラスに求めるもののなかでトップは、「インストラクターのクオリティ」でした。また、日本において、グループフィットネスクラスで重要な要素と答えたのは、上位から「クラスの雰囲気」「インストラクターのクオリティ」「音楽のクオリティ」でした。さらに、優れたインストラクターがいることによって、会員紹介に結び付く可能性は 2.5 倍に高まるとの結果も発表されていました。こうした調査結果からも、優れたインストラクターが、クラブの業績向上に貢献することがわかります。Les Mills社では、どのようにすれば優れたインストラクターを育成できると考えていますか?

日本のインストラクターも、海外のインストラクター同様に、一人ひとりの価値観やスキルなどが異なると思うのですが、当然モチベーションも違うと思います。ですから、それぞれのインストラクターごとに課題を明確化して、その成長をサポートしていくことが必要になります。例えば、経験年数5年未満のインストラクターは、テクニックやコリオグラフィーにフォーカスして、その成長をサポートする必要があるでしょうが、経験年数10年以上のベテランのインストラクターなら、それらはすでに習得しているので、それ以外により重要となる要素を身につける必要があるでしょう。

これには、3つの要素があります。コネクション、パフォーマンス、コーチングです。クラブとしては、まずインストラクターがどんなインストラクターになりたいのか?どんなことにモチベーションを持っているのか?といったことを特定したうえで、それぞれのインストラクターがこれらを満たせるように、先の3つの要素の一つひとつを課題化して、フィードバックを提供していくことが大切になります。

コネクションとは、メンバーがレッスン中に「私もメンバーの一員」と感じられるようにしていくことを指します。パフォーマンスとは、メンバーにどれだけインスパイアを与えることができるか、自分らしくいることができるのかといったことを指します。当社では「フィットネスマジック」という言い方もしています。そして、コーチングとは、レッスン中にインストラクターがメンバーのモチベーションを高めるために発する言葉や示す姿勢のことを指します。これらは、(顧客満足やクラブの業績にも)大変重要な要素なのですが、主観的な要素でもあるので、インストラクター自身が自覚しにくいのです。そこで、当社としては、それらをきちんと評価して、言語化するシステムを開発しました。

どんなシステムなのでしょうか? それをご説明いただく前に、さきほど「クラブとしては、まずインストラクターがどんなインストラクターになりたいのか?どんなことにモチベーションを持っているのか?といったことを特定する」というお話がありましたが、これはどのように明らかにして、共有していくようにするのですか?

一人ひとりのインストラクターが、どうすればそれぞれのゴールを達成できるのかキャリアパスを明らかにするサポートをしていくことが、大切になります。インストラクターが、クラブへのエンゲージメントを強めるには、こうしたキャリアパスを明確にし、いきいきとキャリアを拡充することに加えて、イベント登壇へのオファーがあったり、SNSなどで知名度がアップすることに協力してもらえたりということが必要になるでしょう。

では、Les Mills 社が、今回開発したインストラクターの評価システムについて、どんなものなのか、簡単に教えてもらえますでしょうか?

「たくさんの人々に、フィットネスやフィットネスクラブを愛してもらう」。まずこれが当社のビジョンであり、ミッションですので、これらを実現するために、インストラクターが要であり、その成長をサポートすることが欠かせないという考えが、前提としてあります。

当社の創業者のフィリップ・ミルズも、「優れたインストラクターがいることによって、クラブの業績が向上し、サクセスフルになる」と強く信じています。クラブも、インストラクターのモチベーションを高めて、メンバーが満足するようにしたいと考えていると思いますので、そのためには「インストラクターが自身のスキルを高め、キャリアを拡充していくことが大切になる」と、フィリップは考えているのです。

それで、今回、2年を費やし、「LMQ: Les Mills Qualifications」と呼ばれる、このインストラクター評価システムを開発したのです。このLMQによって、各インストラクターの評価ができ、その評価に基づいたそれぞれのインストラクターの課題に最適化したエディケーションサポートが提供され、それをそれぞれのインストラクターが取り組むことによって、実力が高まり、メンバーがより満足し、クラブの業績にもそれが反映されていくというループができていきます。繰り返しになりますが、冒頭挙げさせていただいた、今起こりつつある6つの変化にも、この「LMQ」は対応したものになるかと思います。

「LMQ」は、インストラクターにとって、キーとなるテクニック、コリオグラフィー、コネクション、パフォーマンス、コーチングの5要素を評価できるシステムですね?

はい、その通りです。ただし、1つだけ言っておきたいのは、これまで当社が提供していた評価システムでも、この5要素を評価していたのですが、今回の「LMQ」では、この5要素一つひとつにグレードを評価できるようにし、よりインストラクターが、気づきを得られやすくしています。

この「LMQ」は、すでに日本以外の国で導入されていて、実際にクラブの業績との相関が、確認されていると理解してよろしいでしょうか?

はい。これについても、その通りです。すでにいくつも成功事例が出てきています。

この「LMQ」を機能させて、クラブの業績の向上やクラブをサクセスフルにしていくためには、クラブの経営者やマネジャーなどが、その他のイネーブラー※も整え、ビジネスモデルに整合性や一貫性をもたらすことが大切になると思います。最後に、日本のクラブの経営者やマネジャーに向けて、インストラクターの価値向上を目指す取り組みをすることによって、フィットネスやフィットネスクラブを愛する人々がたくさん増えていくことに関して、メッセージをお願いします。

「LMQ」は、インストラクターの評価システムを変えていくものなのですが、それを望むインストラクターだけが受けることができるようにしています。全インストラクターが、その適用を義務付けられるというものではありません。そのことを踏まえたうえで言えることは、この評価システムを活用することによって、タレントとしてのインストラクターの潜在的な可能性を大きく引き伸ばすことができるということです。

それによって、コロナ禍でまだクラブに戻ってきていないメンバーを惹き寄せ、満足を提供し、クラブをサクセスフルにしていけると信じています。ぜひこの「LMQ」の活用をご検討いただけたらと思います。