2022年8月2日、株式会社JR東日本スポーツ(以下、JR東日本スポーツ)は、「サステナブルな部活動支援」を開始。教員の負担の増加や指導者不足に困っている中学校の運動部に、自社の指導員を派遣する取り組みだ。部活動の指導を、民間企業や地域に移行していくという転換期を迎えている学校教育現場に、自社の持つリソースを活用し、さらにサステナブルな支援を展開。この事業の背景や狙いは何か。同社の事業領域開発部部長である多田厚氏に話を訊いた。

多田 厚 氏
JR 東日本スポーツ株式会社
事業領域開発部 部長

 

教員の努力に依存する体制は限界を迎えている

これまで、多くの部活動は、教員の努力によって活動が支えられてきた。しかし、それが業務として大きな負担になっていたことは否めない。また、経験のない運動部の顧問を任されてしまい、ルールから覚え始めたという教員も少なくないだろう。このような状況で、さらに子どもたちの競技力や体力レベルの向上まで求めるのは、きわめて酷である。昨今、企業では働き方改革が推進されているが、学校現場においても例外ではない。部活動指導まで教員に依存する体制は、すでに限界を迎えている。

この現状を鑑み、文部科学省は’22 年6月に、運動部活動を地域に移行していく提言をまとめている。しかし、本事業の責任者である多田氏は、「単に民間や地域に移行していくと、どうしても受益者側である保護者の負担が大きくなってしまいます。本来、公立の中学校の部活動では、誰もが平等に指導を受けることができなくてはなりません」と懸念を示す。JR東日本スポーツは、スポンサー企業からのサポートを拡充することで、受益者負担を減らす事業を開始した。平等に教育の機会を提供する、まさに、サステナブルな部活動支援だ。

会社のリソースを最大限活用し幅広く安定的な支援を

JR東日本スポーツの部活動支援では、主に公立中学校の運動部が対象になる。私立や、強豪と呼ばれる学校の部活動では、指導者がすでに配置されていることも多いことから、一般的な生徒であっても、専門的な指導を享受できる。指導者は、運動指導の経験を持つ自社の従業員を派遣することで、安定的な支援が可能となる。

「単なるマッチング事業ではなく、社員を派遣することで、競技の指導だけでなく、社会的な役割も果たせると思っています。多感な時期にある中学生にとって、企業に勤めながら、スポーツを通して社会に貢献している大人と接することは、多くの意味で勉強になるのではないでしょうか」

また、親会社となるJR東日本スポーツでは、ジェフユナイテッド市原・千葉を筆頭に、社会人野球チームや、ランニングチームなど、競技力の高い人材を抱えている。このJR東日本グループならではとも言えるリソースを活かすことで、より高レベルの指導を提供できる。

企業価値を高め社会に貢献するスタイルを構築

教員と子どもの両者にとってプラスとなる事業だが、企業の価値を高めることにもつながるだろう。普段は会社で業務をこなし、夕方に部活動の指導に出ていくという、これまでにない新しい働き方である。

「こういった働き方が定着することで、魅力を感じてくれる人が増えるのではないかと思います。そしてそれが、企業としての魅力につながると考えています」

今後、多くの自治体と連携して、事業を推進していく。実際に、複数の依頼がすでにある状態だ。しかし、自治体の規模や財政状況などによって支援の幅に差が生じてしまうことは避けられない。

「なるべく多くの自治体と提携していきくために、自治体の状況に応じて、私たちの協力できる範囲で何ができるかを個々に考えていく必要があります」

動き始めたばかりの事業だが、確実に手ごたえはあるという多田氏。現場での事故などのリスク管理は徹底して行ったうえで、さらに事業を進めていきたいと話す。「JR東日本のグループ会社は、広範囲に点在しています。まずは東京でスタートして参りますが、この部活動支援を地方にも、広めていけたらと考えています」

この「サステナブルな部活動支援」が、学校と社会の抱える深刻な問題を解決する、貴重な一手となる。