電通にてコピーライターとして活躍したのちに、建築の道へ返り咲いた各務氏。SENの起業当初に立ち上げた「hotel zen tokyo」はコロナの逆風下でやむなく閉業を決意。現在は法人向けのメンタルヘルスケアサービス、空間デザイン、抹茶およびお香のEC販売を行っている。一見すると異色の経歴だが「自分と向き合う時間と空間をつくる」という一貫したビジョンが根幹にある。その軸をぶらさず、コロナによるハードシングスを乗り越え、今がある。その各務氏にとってリーダーシップとは何か訊いた。

―建築学科を卒業後、ファーストキャリアとして電通を選ばれたのはなぜですか?

私は一貫して「未来を予想するための最善策は、自分で未来をデザインしてしまうことである」という想いを胸に建築家になることを目指していました。そのなかで、コピーライターになることが最短距離で私の目指す建築家に近づけると考え、この道を選択したのですが、恐らく「なんで?」と思われた方も多いと思います。

理由は2つあって、まず1つ目は、建築家として最も大切な仕事のひとつは「都市の未来を言語化すること」だからです。これは、私が尊敬しているオランダの建築家、レム・コールハース氏から学びました。彼のキャリアはジャーナリストと小説家から始まり、30歳から建築の道へ進んだのですが、今では世界一の建築家として活躍しています。都市計画を手掛ける彼にとっては、街を歩く人たちは役者で、彼らに舞台装置を置くことが建築家の仕事と定義し、脚本を書くように建築をするのです。

もう1つは、建築のコンペにおいてどのような作品が選ばれているのかを分析した結果、コンペに提出するプレゼンテーションの最初のキャッチコピーの優劣によって選ばれていることがわかったのです。なぜなら、そのコンペの審査をするお施主さんは、必ずしも建築学に精通している人とは限らないからです。彼ら、そして、採用した建築に資金を出す立場にある人は、「この建築にどのような想いを注いでいるか」ということを社会に対して発信するための「台本」を常に求めており、それはデザインそのもの以上に重要なことであることがわかったのです。そのため、優れたキャッチコピーをつくれる建築家を志し、電通への入社を決めました。

―キャリアをすべて逆算したうえで、最適な就職先が電通だったのです