Technogym Liveプレミアムコンテンツで競合優位性を構築

昨今、異業種参入のプレイヤーが目立ってきている。こうしたプレイヤーにはフィットネス市場の成長可能性が相応に見通せているのだろう。だが、その実現は想像以上に難しい。しかし、AI fitness MYBASE松江寺町店(以下、MYBASE)では、人とデジタルの使い分けを明確にすることを強みにその機会を得ようとしている。そして、その目論みは現在のところ成功している。

なぜ、会員から選ばれているのか? 何がそれを可能にしたのか?

その秘訣とは?

使いたいマシンがない

MYBASEを運営する株式会社三栄は、飲食事業を起業した後、アミューズメント、ゴルフ用品販売、ソーラーなど多岐に渡って事業を展開してきた。

着実に事業を立案していく過程で、経営幹部の一言がMYBASE創業のきっかけとなる。「自分が使いたいマシンがない」。そこで、2021年10月頃からペルソナ戦略を練り始める。山陰特有の人口構成比と車社会、フィットネス関連市場の広がりなどを受け、健康長寿を目指す事業を具現化するべく、主に高齢者と40代女性をターゲットとした。生活にゆとりができたキャリアウーマンが短時間で理想を叶えられるよう、「人生で最も好きな自分を創る基点となるジム」をコンセプトとした。

松原氏は、出店地をこう明かす。

「後発のため、競合となりうる業態を再定義したうえで、国内のフィットネス参加率と出店候補地の人口等を照らし合わせ、集客見込み数を算出したところ、勝算が見えてきました」

オープンに際しては、これまで築きあげてきた企業イメージをあえて打ち出さず、新参者としてポスティングやwebマーケティングを地道に行うことにした。

潤沢な資本力は、メリハリをつけて活用した。

内装には、オレンジとグレーを施し、全マシンはTechnogymを最新ラインナップで導入。上質な空間に存在感のある自動サーキットBiocircuitは松江ではここにしかなく、当初、視野に入れていたクラブチェーンのFCに入るという選択肢を消した。

「FCはランニングコストと経費の把握、減価償却のしやすさから検討していましたが、Biocircuitがあればあらゆるスタッフが均等なサービスの質で会員さまへの指導ができると確信しました。Technogymは、日本人が使いやすく、動きのなめらかさなどが際立ち、自分がエンドユーザーだったら使いたいと思ったことが最大の決め手ですね」

Technogym Liveプレミアムコンテンツが会員を惹きつける

MYBASEでは、カーディオマシンにTechnogym Liveプレミアムコンテンツ(以下、プレミアム)を導入している。Technogym Liveとは、ユーザーのニーズに応じてオンデマンドでワークアウトコンテンツを提供するデジタルプラットフォームだ(表)。

有償のプレミアムサブスクリプションを導入すると、セッションとアウトドアでコンテンツの種類がグッと増える。

MYBASEでは、初回オリエンテーションで会員に、Biocircuitとプレミアムコンテンツを通じたセッションとルーティンを案内することにしている。

MYBASEが選ばれている秘訣がここにある。運動内容が競合他クラブと異なるのだ。競合の業態は初回にストレングスマシンを用いた運動プログラム作成が行われているが、MYBASEでは、パーソナライズされた運動を飽きずに楽しく継続できることを体感してもらえる。

「会員さまのニーズに合わせたコンテンツを提案しています。プレミアムは目的別に構成され、惰性で運動することがありません。種類も難易度も多様で、クイックスタートでは物足りなくなります。1回約20分のため、スタジオのすき間時間にもぴったりで回転率も良いです。会員定着にも寄与しています」(松原氏)

移籍してきたスタジオフリークの心も鷲掴みしたのだ。さらに、続ける。

「会員の約4割がフィットネスクラブデビュー層のため、何をしていいかわからない会員さまにとって道標になります。コンテンツの提案に一役買ったのが、マシン(デジタル)と人で会員さまをサポートする役割を分担したことです。他クラブでは、常駐スタッフが1人のケースが多いですが、MYBASEは2人常駐し、セッションマスターが数百あるコンテンツからお気に入りを見つけるサポートをします。コンテンツは、定期的に更新されるため、コツコツ攻略していくのが会員さまのモチベーションになります」(松原氏)

約1ヶ月半で体重−10kgを達成した会員もいるというから驚きだ。

集客状況も、おおよそ計画通りに進捗し、投資対効果も充分だと言う。コンテンツを利用する会員の9割が、毎回の利用をグリッドしている。しかも、MYBASEはTechnogymが導入されている全世界の施設のうち、セッションとルーティンの使用率が世界No.1だという。2位のクラブを突き放している(グラフ)。

デジタルによる体験価値の向上

MYBASEが選ばれている理由は、コンテンツに留まらない。デジタルソリューションの活用で時間的コストを圧縮している。MYWELLNESS PROCRMによるユーザーデータの一括管理だ。例えば、MYWELLNESSバンドで入退館時のセキュリティを解除し、マシンでログインすると、それまでに行ったコンテンツがひと目でわかる。

体組成データもクラウド上で記録される。ログイン率は86%を誇る。さらに、MYWELLNESSバンドを保有し、復会する会員は再入会に伴う申請が容易になるため、時間的コストを圧縮できる予定だ。

関係性の構築は人がする

松原氏は、出来栄えをほぼ100%だったと評価し、ここまでを振り返る。

「机上で考えたマーケティングをいくら行っても、それはあくまでも仮説です。実際は、不安でした。最も大事なのは、マーケットリサーチの結果(市場調査)と、STPとマーケティングミックスを整合させていくことではないでしょうか」

新規事業といっても、事業内容はリソースに左右される。では、どのようなフィットネス事業者にTechnogymのソリューションは適しているのだろうか。

「デジタルと人の棲み分けを理解していることが重要です。機械と人、それぞれでしかできない部分を考えるということです。特に、会員さまとのコミュニーケーションに重きを置かない場合は厳しいでしょう。MYBASEは、お客さまとの関係性を構築するために、必要なところにデジタルを活用しています。人件費をコントロールしたいがために安易にデジタルを導入しても、リピーターにはつながりにくい。フィットネスの本質を考えると、力の入れどころがあるのです」

松原氏は、すでに2号店の出店地を模索している。事業計画を立て、人材育成に特化していけば成功しやすいジムはつくれると考えている。

何をデジタルに任せ、何を人で行うか。MYBASEはその目的を体験価値の向上に置き、スタートダッシュに成功した。今後の成長が楽しみだ。

AI fitness MYBASE 松江寺町店

・所在地
〒690-0063
島根県松江市寺町200番地3

・URL
https://mybase-fit.jp/

・電話番号
0852-61-2426

・オープン日
2022年4月21日

・延床面積
約500㎡(150 坪)

・駐車場
2時間無料

・アイテム構成
Biocircuit、カーディオマシン、ストレングスマシン、フリーウェイト、スタジオ、ロッカールーム

・スタッフ数
8人

・市場競合
10店舗(総合型2店舗、24時間型5店舗、小規模型3店舗)

・主要サプライヤー
Technogym

・業態
24時間