ロンドンフィルミングで感じた「ライブ・リバイバル(ライブへの回帰)」

  • 東井ゆかり氏
    Les Mills Japan 合同会社
    ヘッドトレーナー

Les Mills International(以下、Les Mills)では、2022年10月にロンドンでフィルミングも兼ねた大きなライブイベントを開催。イベント自体は2日間にわたって開催された。コロナ以降、オンラインでフィットネスプログラムが提供されるケースが増えたが、やはりリアルな空間での熱狂には勝るものがないと、本イベントに参加したヘッドトレーナーを務める東井氏は語る。(以下、敬称略)

―ライブイベントの開催概要と感想を教えてください。

東井:このイベントはロンドンで去年の10月に開催され、述べ5,000名もの参加者と世界中から約250名のプレゼンターが集結し、コロナ禍で実施できなかった実際に人が集まるかたちでのイベントの復活を祝いました。私も現地で参加することができ、貴重な経験とたくさんの学び、感じるものがありました。

―フィルミングとはどのようなものでしょうか?

東井:フィルミングとは、インストラクターがニューリリースを学ぶためのビデオやバーチャルクラス、フィットネスアプリのLES MILLS+(レズミルズプラス)で使用するプログラムの映像を撮影するイベントのことです。

Les Millsのプログラムはあらかじめ音楽と振り付けが決まっているプレコリオプログラムで、筋トレ系のBODYPUMPや、格闘技系の BODYCOMBATを筆頭に、現在14プログラムが世界中で展開されています。そのすべてのプログラムにおいて3ヶ月毎に新しいリリースをローンチしているため、そのサイクルに合わせて3ヶ月に1度フィルミングを行っています。

実は、元々フィルミングはインストラクターが新しいリリースを学ぶための教材を撮影する目的で行われていました。その映像が、今でこそバーチャルクラスやLES MILLS+というカスタマー向けのコンテンツにも使用されるようになったことで、当初からLes Millsがいかに魅力的でクオリティの高い映像制作にこだわりを持っていたかがわかると思います。

それらの映像は、ただ振り付けを覚えるための映像ではなく、照明が駆使された華やかなステージ、または大自然の中など、ミュージックビデオさながらです。

日本からも8名のプレゼンターがライブに参加

【YouTube】ロンドンフィルミングの様子

―Les Millsではなぜそこまで映像にこだわりを持つのでしょうか。

東井:すべてはインストラクターにインスピレーションを与えるためです。クラブメンバーへLes Millsプログラムを届けてくれるのはインストラクターの皆さんです。メンバーがプログラムに楽しさを感じ、愛してくださるためには、それを届けるインストラクター自身が、自分のやっていることを好きであることがとても重要です。本当に楽しい、好き、という感情は伝染していきますからね。

フィルミングの映像は、そのための核となる役割を担っています。Les Millsのインストラクターなら、自分もいつか一度は出演したいと思うほど、フィルミングはインストラクターにとって究極のゴールであり、影響力のあるものなのです。

―それほど影響のあるフィルミングが今回は大規模なライブ形式で行われました。ライブクラスはLes Mills にとってどのような意味があるのでしょうか。

東井:コロナ禍になって以来、フィットネスのオンライン化が急速に進みました。その変化は必要であり、必然的であったと思います。

Les Millsももちろんその変化に対応してきましたが、やはり一番大切なのは生のクラスだと確信しています。その場でクラスに参加される皆さんとインストラクターが、リアルな空間やエネルギーを共有することに勝るものはありません。ライブクラスは単なるエクササイズ以上に、特に心の健康にとって大きな価値があります。

ロンドンのライブで見た光景は素晴らしいものでした。誰もが互いに認め合い、助け合い、尊重し合うポジティブなエネルギーに溢れていて、まるでそのエネルギーを参加者、プレゼンター、スタッフ全員が与え、受け取り、交換しているようにも感じました。

全員がライブを素晴らしいものにするためにそこにいて、それぞれの役割に徹し、互いにつながる。コミュニティという言葉そのものでしたね。このつながり(UNITED)はLes Millsが掲げる価値の1つで、ライブクラスはそれを体現するために必要不可欠なのです。

クラブ経営者の方々をはじめ、フィットネスの施設で従事されている皆さんもメンバーがリアルのライブクラスに戻り始めているのを肌で感じているかと思います。様々な媒体で、コロナにより人とのつながりが断たれた期間を経験したことで人々はリアルを求めていることが取り上げられていますが、私も本当にそうだと思います。

今やクラブに行かなくてもオンラインでしかも無料で運動ができる時代なのに、会費を払う選択をしてクラブに戻るのは、リアルな体験の共有や空間によりつながりやコミュニティをまた求めていることの現れではないでしょうか。

つながりやコミュニティをつくることができるクラブは、今後より強くなっていくのではないかと思います。

―リアルなつながりやコミュニティを実現するためにクラブはどのようなことに着目すれば良いでしょうか?

東井:インストラクターを輝かせることにフォーカスすることを挙げさせていただきたいですね。

ロンドンのライブではたくさんのスタッフがイベントに関わっていましたが、最終的に参加者にプログラム体験を提供するのはステージ上のプレゼンターです。クラブで言えば、日々メンバーの一番近いところにいるインストラクターの皆さんのことですね。彼らが活力に溢れていて輝いていればメンバーが集まります。

新しいマシンや素晴らしい設備はメンバーを獲得する入口として非常に魅力的ですが、継続のためには活力に溢れた輝くインストラクターがいることは設備に勝る財産になります。

Les Millsのプログラムは本当に素晴らしいと私たちは自負していますが、実際にそのプログラムを届けるインストラクター自身がプログラムを好きで輝いていることで、その素晴らしさが何倍にもなってメンバーへ伝わり彼らを夢中にさせるのです。だからこそ Les Millsはフィルミングの映像や研修の質にこだわり、インストラクターにインスピレーションを与え続けることに投資をしています。インスピレーションを受けたインストラクターは自ら練習し、成長し、さらに輝き、メンバーを惹きつけるのです。

―どうしたら輝くインストラクターを確保できますか?

東井:すでに輝いている人材を集めることができたら良いのかもしれませんが、クラブで人材を育てる方が後々良い影響をもたらすと思います。「育てる」というと教育や知識を与えるという印象があります。もちろんそれも大切なのですが、私の伝えたい「育てる」は、インストラクターにスポットライトを浴びる機会を与えるということです。

私たちLes Millsはグループフィットネス事業です。その観点から、例えば、クラブでマシンジムのスタッフとして働いているインストラクターに、グループフィットネスを教えることを勧めてみるのはどうでしょうか。

実は私も、フィットネス業界の入口はスポーツクラブのマシンジムインストラクターのアルバイトでした。まさか自分がスタジオで教える仕事をしたいなど夢にも思っていませんでしたが、当時BODYPUMPのライセンスを取ることを勧められて認定を取得し、レッスンを教え始めてからそこで働くことが本当に楽しくなりました。クラスを教えることでたくさんのメンバーとつながりが生まれ、結果マシンジムを担当している時間もメンバーと良好なコミュニケーションを築くことができ、いきいきと働く私はクラス以外でもクラブに貢献できていたと思います。

また、その後教えるプログラムの種類が増えたことで客層も広がり、私に会いに来てくれる人も増えました。それは私にとって、クラブをただの勤務先ではなく、私の居場所にしてくれました。

もちろん、グループフィットネスを教えることを好まないスタッフもいると思います。そのようなスタッフにも、クラブで働くことで自身の成長を感じたり、認められたと感じる仕組みをつくってあげることで輝く人材としてクラブの成功に貢献してくれるでしょう。私がロンドンで見た光景は、大きなステージやたくさんの照明によって特別な空間に見えましたが、それ以上に人と人とのつながりやコミュニティによって生み出された空間でした。

ロンドンライブの成功が、私には、人が集まり人が接するフィットネス施設の成功と重なって見えました。