黒野 崇氏
株式会社BEACH
TOWN
代表取締役

 

社会課題を解決する事業づくりがSXに繋がる

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という言葉が日本で注目されるようになったきっかけは、2020年8月に経済産業省経済産業政策局の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が発行した「中間取りまとめ」の中で触れられたことだといわれている。

フィットネス業界でいち早くSXを進める黒野崇さんは、その約15年前に、SXを実現する事業のコンセプトづくりに着手していた。

黒野さんが、株式会社BEACHTOWNを設立し、葉山にアウトドアフィットネスクラブをオープンしたのが2007年。企業ミッションとして「自分のいのち、社会のいのち、地球のいのち」として、掲げた言葉は、これまで一文字も変わらず経営理念として持ち続けている。それまで病院併設のフィットネス施設の管理部門で部長として活動していた黒野さんが、自身で事業を起こそうと考えたときに、ミッションとしたのが「社会問題の解決」。

それまで勤務していた病院や、ライフセーバーとしても活動していたことから「いのち」という言葉がキーワードとして浮かび、事業の持続可能性と、生涯スポーツとしての継続性、身近な自然環境を次の時代に残していく可能性を実現する事業デザインを追求してきている。

フィットネス継続の鍵はサーフィンの聖地にあった

フィットネス事業での大きな課題の一つにメンバーの定着率がある。黒野さんは学生時代からサーフィンに打ち込み、1990年代後半からサンディエゴのサーフィンの聖地とされるエンシニータスにサーフトリップに訪れていた。黒野さんがこれまで構築してきているアウトドアフィットネス事業は、このエンシニータスで暮らす人々のライフスタイルにインスパイアされたものだという。黒野さんはこう話す。

「フィットネス業界では人々が『どうやったら続けられるだろう』と考えていますが、アウトドアスポーツ愛好家の人も『どうやったら続けられるだろう』と考えています。同じ言葉なのですが、フィットネスの場合は『飽きてしまうことをどうやったら続けられるか』を考えているのに対して、アウトドアスポーツでは、『好きで好きでたまらないスポーツをどうやったら続けられるか』と考えています。アウトドアスポーツの愛好家は、続けるために、自然の近くに住み、仲間をつくり、活動のフィールドである自然を守る活動をしています。エンシニータスでは、ライフスタイルとして自然にフィットネスやスポーツが続けられる環境があって。こんな場所を日本にもつくりたいと思いました」

健康のためにフィットネスを始めた人にも、アウトドアスポーツの魅力に触れられることをサービスとしてデザインすることで、アウトドアスポーツが好きになって、続けたくなる。そのことが事業の持続可能性も、環境の持続可能性も高めることに繋がると、全体の事業を設計してきている。

黒野さんは、この理念をマズローの欲求段階のピラミッド図とともに、BEACHTOWN関係者すべてと共有し、組織全体で徹底して細部にもこだわり実現させてきている。この企業ミッションは、BEACHTOWNのクラブに入会するメンバーとも共有しており、当初は健康になろうとフィットネスを始めた人が、ロイヤルカスタマーとなり、アウトドアスポーツのコミュニティや環境を守る、最上位の欲求段階「自己超越の欲求(人のため、社会のため、地球のため、利他の欲求)」の活動に携わるまでをサービスとしてデザインしてきている。

地域の持続可能性も高めるフィットネス事業へ

アウトドアスポーツやアウトドアフィットネスを、ライフスタイルとして継続しようと、自然のフィールド近くに移住する人も多いことから、近年、地域創生の取り組みとしても注目されている。BEACHTOWNのアウトドアフィットネスでの地域創生として、現在主に3つの方法で参画している。

1つはPark-PFIで、民間事業者のコンソーシアムの代表企業から声がかかり、フィットネス施設の開発や運営を担当する方法。

2つ目が、公園の指定管理企業からの、フィットネス関連事業の運営を受託する方法。

そして3つ目が、自治体の移住定住促進課などとの随意契約で、移住促進の拠点整備のコンサルティングや、その拠点でフィットネスサービスを提供する地域おこし協力隊などの育成業務などを受託する方法。

地域でフィットネスやアウトドアスポーツサービスを事業化できることで、地域の人々の健康や、地域経済、環境の持続可能性も高めることに繋げられる。さらにBEACHTOWNでは、全国各地に施設を持っている特長も生かして、今後、産業廃棄物の再利用ステーションとしての役割を果たしていくことも計画している。

BEACHTOWNの1号店の葉山でも、廃油の回収ステーションとして環境保全への取り組みを行っていたが、近年産業廃棄物のリサイクル技術が進化する中、リサイクルにも関わることで、さらに環境の持続可能性を高める事業に育てていこうとしている。