服部 正秋氏
株式会社穀藤/KOKUTO iiyama home
代表取締役

 

健康課題と地域活性を組み合わせたSX

長野県飯山の自宅を改装した宿泊施設「KOKUTO iiyama home」を拠点に、ノルディックスキーやアウトドアスポーツで持続可能なライフスタイルを啓発する服部正秋さん。

コロナ禍で、人が集まる活動が難しくなる中、感染リスクが低く、安心して参加できるイベントとして開発した「ノルロゲ」が、地域の課題を組みわせて解決する革新的なイベントとして注目されている。「ノルロゲ」とは、「ノルディック・ロゲイニング」の略で、幅広い層の参加者が、それぞれに楽しめて、主催者も低コストで運営でき、地域活性にも繋がる、三方良しの、持続可能性の高いイベントとなっている。

「ノルディックウォーキング」はフィンランド発祥、「ロゲイニング」はオーストラリア発祥のスポーツ。ロゲイニングは、オリエンテーリングのように、山野に多数設置されたチェックポイントをできるだけ多く制限時間内にまわり、得られた点数を競う野外スポーツで、本来はタイムを競うため、トレイルラン的な要素が強いスポーツだが、ここに「ノルディックウォーキング」の「歩く」というルールを加えたことで、年齢や体力を問わず、多くの人が参加できる親しみやすいイベントとなった。

飯山で開催されたロゲイニングは、4時間以内に回れたチェックポイントの合計ポイント数で競い、スタート時間は9:30~11:00の間ということだけが決められている。スタート時間もチェックポイントの回り方も参加者が自由に決められることから、コロナ禍で「三密を避けたい」という参加者心理にも合致した。一人でも、グループでも参加でき、多くの得点をとろうと、遠くにあるチェックポイントや、山を登った地点にあるチェックポイントを数多く回ろうとする人もいれば、街の散策やランチを楽しみながら、のんびり気軽に参加する人もいる。それぞれの楽しみ方を満喫できる良さもある。

チェックポイントづくりは、長野県オリエンテーリング協会の美谷島孝さんにも協力してもらい、地域の伝統文化や歴史、和菓子店やカフェなどを入れるとともに、地元の人だからこそ知る絶景が見られる場所や、地域の魅力が発見できる場所を盛り込んだ。

「ノルロゲ」は、イベント運営が少人数でできる点も、持続可能性が高いSXな取り組みとして有効だと服部さんは説明する。交通制限の必要がなく、制限時間が決まっていることから、終了時間も読みやすい。コースづくりやチェックポイントに地域の人に協力してもらうことで、体験価値の高いイベントになるとともに、地域コミュニティの活性化にも繋げられる。

健康課題と防犯・防災を組み合わせたSX

服部さんが、フィットネスのSXとして紹介する事例が、週1回月曜日夜の、60分間のノルディックウォーキングクラス。8人程度のグループで、19:30~20:30にかけて4~5km歩くクラスを、「SDGsノルディックウォーキング」と名づけ、防犯・防災の見守り機能も果たせることを訴求して、地域の人の参加を促している。

このクラスは、服部さんが所属しているNPOで夜間にノルディックウォーキングをしているときに、事故に遭って意識をなくしている人を見つけ、救助した体験をもとに、防犯・防災の見守り機能を組み合わせた健康フィットネスクラスとなっている。

ウォーキングクラスを、自身の健康のためだけでなく、社会に役立つ活動として意味づけすることが、地域の人の参加や継続のモチベーションとなり、クラスへの参加者が増えてきているという。

防災の課題を掛け合わせたイベントとして、もう一つ計画しているのが、前述の「ノルロゲ」を、子ども向けの防災訓練の一環として実施するもの。同様のルールで、チェックポイントに、地震が起きたときに避難する避難所や、水害が起きやすい川のポイントをはじめ、地域の防犯・防災マップにあるポイントを設定する。それにより、ゲーム感覚で防犯・防災マップのポイントを確認できるだけでなく、どの道を行けば近道になるかも、楽しみながら確認できることになる。

地域の課題を掛け合わせることで、SXな事業がデザインできる

このように、地域の人々の健康課題や、子どもたちの運動不足、地方創生や、地域の防犯・防災などの課題を掛け合わせることで、持続可能性の高いフィットネスプログラムやイベントがデザインできることになる。

こうしたノルディックウォーキングやアウトドアスポーツでのSXの取り組みを他の地域にも共有していくことで、参加する人はもちろん、主催する側にも、地域にとってもメリットを提供し、持続可能性の高い事業に繋げられることを目指している。