すべての土台にあるのは“コンディショニング”
現在、プロ野球選手8名をはじめとするアスリートから一般顧客まで幅広いクライアントを担当しているSSL代表の船木永登氏。1ヶ月に最高304セッションを記録。コンディショニング領域のスペシャリストとして、SSLスペシャリストトレーナースクールおよび最近立ち上がった青山トレーナースクールでも教鞭を振るっている。コンディショニングの大切さを熟知している同氏より、業界のトレーナーのレベルを底上げし、発展していくためのヒントを授かった。(以下、敬称略)
まずは、船木さんの現在のご活動について、お話しいただけますか?
船木:ありがとうございます。私は現在、銀座にあるパーソナルジムSSLの代表を務めております。コンディショニングに関する知識×アスリートという領域に強みがあり、現在はプロ野球選手を中心に彼らのパフォーマンスアップおよび選手としての成功をサポートしています。一般の方であっても、経営者などのハイクラスな方々も通われています。
また、トレーナー向けのスクールの講師を、自社含めて2箇所で担当しています。アスリートへの指導経験で培ったコンディショニングの知識を活かして、将来有望な若手人材の育成に励んでいます。
さらに、オンラインサロンの立ち上げを2月に控え、3月には念願だった野球専門ジムであるSSL ATHLETE SHOUSE GYMを日本橋人形町にオープンします。私も野球経験者で、仙台育英高校出身です。プロ野球選手を目指して大学まで野球を続けたのですが、その夢は残念ながら叶いませんでした。だからこそ、私は自分以外の人たちの「人生の成功をサポートしたい」という想いが強くなり、最初は不動産営業としてキャリアをスタートしたものの、パーソナルトレーナーという職業を知り、転身することを決めました。
パーソナルトレーナーを志したきっかけは、どのようなものでしたか?
船木:そもそもの始まりは、中学時代にまで遡ります。プロ野球選手になるために、そのときから解剖学を学んでいました。非常に難解な学問なので、当時の知識は今の自分からすると本当に触りの部分でしかなかったとは思いますが、何も学んでいない人に比べればアドバンテージと呼べる知識を持っていました。
話は戻って不動産営業時代はとにかく必死で、毎日のように朝9時から翌朝の4時まで働いていました(笑)おかげで同期入社の中で営業成績No.1を獲得することができたのですが、頂上まで登っても、なぜか満足できなかったんですよね。私が登りたかった山は、ここではないんだろうなと、そのときに気づきました。
その後、実はEXILEのボーカルオーディションを本気で受けました。ボイストレーニングなども行いましたが、合格しませんでした。プロ野球選手に続いて挫折を二度も味わい、一時期は自暴自棄になってしまったのです。
そのときに母から「あなた、トレーナーになってみたらどう?」と言われたことをきっかけに、専門学校の体験入学をしたのですが、「これだ!」と直感しました。今となっては、あのときの母の一言が、まさに鶴の一声だったと思います。
今までの人生で本気でプロ野球選手を目指して解剖学も学んできた自分が、アスリートの裏方としてサポートすることで成功に貢献できるんじゃないかと、真っ暗な目の前に光が差すような感覚だったのを覚えています。
ちなみに、会社名のSSLとはSupport Success in Lifeの略で、誰かの人生の成功を、トレーニングを通じてサポートしていきたいという想いが込められています。それは必ずしもアスリートに限りません。一般の方も含め、月に200セッションは継続的に行っています。
壮絶なキャリアですね。また、挫折を乗り越えて今はご自身もトレーナーとして大成功を収めていると思いますが、やはりコンディショニングはキーポイントなのでしょうか?
船木:そうですね。コンディショニングは、パーソナルトレーニングを受けられる方の目的達成を実現しやすくするための土台と言ったほうがわかりやすいかもしれません。
例えば、ダイエットを含めたボディメイクをしたい方にとっても、姿勢を改善するだけで基礎代謝が最大30%向上すると言われています。厳密に言うと、姿勢不良によって下がっていた基礎代謝が元に戻ると表現したほうが正しいです。
また、地球上の生命は重力に逆らって生きています。身体を支えるために必要な床面積およびその範囲のことを支持基底面と呼びますが、そこから重心が外れていると、肩こりや腰痛といった不定愁訴を起こしやすくなります。
また、アスリートのパフォーマンスアップにもつながります。例えば、プロ野球選手が球速をアップしたいという目的で前鋸筋をトレーニングするとします。しかし結局、身体全体のバランス、可動域、動作などが整っていないと、その目的に到達できないどころか、怪我のリスクが高まります。プロ野球の世界は特に、怪我を理由に引退を余儀なくされる選手は非常に多いです。これは本当にもったいないことだと思います。実際、フィットネスクラブに通って見よう見まねで筋トレを始めたものの、怪我をしてしまったら退会してしまうのが普通だと思います。だからこそ、老若男女問わず誰にでも必要とされるのがコンディショニングだと思います。真のトレーナーになるためには修得が欠かせないと思います。
コンディショニングが指導できると、いいことづくめですね。では、どのように修得していけばよいのでしょうか?
船木:やはり、しっかりと専門学校や養成スクールに通うべきだと思います。解剖学やバイオメカニクスという分野を勉強していくといいのですが、これらは独学ではかなり難しいと思います。私の場合は、専門学校で6~7割の知識をインプットし、そこからセッション数をとにかくこなしてアウトプットしていきました。そうすることで、手の届かなかった症例などが見えてくるので、そこをセミナーや養成スクールに足を運んで補っていけばいいと思います。
また、私の手掛けるスクールでは、本当に現場で使う解剖学やバイオメカニクスに絞って教えているので、遠回りせずに学べるのでオススメです。私としては、コンディショニングについてしっかりと学ばれているトレーナーが少ないことに業界的な課題を感じています。世の中を良くするためにも、そこの課題を解決したいと思っています。
ずばり、なぜコンディショニングを学ばれている人が少ないのでしょうか?
船木:色々な要因がありますが、やはり難しい学問であるということが1つだと思います。しかし、解剖学やバイオメカニクスを修めるということは、言わば「人間の身体の構造」を理解することに等しいです。トレーナーである以上、その知識は必ず持ち合わせるべきだと考えています。
もう1つは、目的に対して直接アプローチしたほうが早いと感じてしまうからでしょう。例えば、ダイエットの目的を達成するために、食事制限をしたり、有酸素運動を多くしたほうが近道に感じると思います。ただ、ランニング中に膝を痛めてしまったら、目的から逆に遠ざかってしまうこともありますし、正しい姿勢とフォームで走ったほうが効果は高まります。このあたりはアスリートにも通ずるところであると、先ほどもお話ししました。
最後は、2つ目の理由とも少し関連しますが、クライアントのニーズに直接は刺さりにくい点です。例えば、身体のどこにも痛みがない人にコンディショニングを勧めても、必要性を感じづらいのは致し方ないことです。特に日本人はどうしても、「(問題が起こったら)事後処置すればいい」と思ってしまう傾向が強いです。これは日本の保険制度も関係していると思いますが、私は予防こそ大切だと考えます。
最後に、コンディショニングを指導できる人が増えたら、日本はどうなると思いますか?
船木:GDPが上がるでしょうね。真のトレーナーとなれば、一流のアスリートや経営層の方からお仕事をいただけるようになります。実はSSLはホームページを持っていません。理由は簡単で、しっかりとした実績があれば、紹介だけで集客できてしまうからです。ただ今後は、「もっと早く船木さんと出会いたかった」と後悔する人が1人でも減るようにホームページを開設し、同時に後継者も育てていきます。
また、クライアントのパフォーマンスがアップするので、アスリートであれば競技で活躍し、ビジネスマンであれば仕事の生産性が上がっていきます。経営層の方ほど「身体が資本」とわかっていらっしゃいますし、そういうトップ層の方々をサポートできると、国力も上がると思います。ここで大切になるのは、クライアントの興味関心が高いポイントに、うまくコンディショニングの知識を含めて届けることです。フィットネス業界は、まだまだやれることがたくさんあると思います。