株式会社ディーズが運営するディーズスポーツプラザは、前橋店と館林店に介護保険適用・送迎付きのデイサービスをフィットネスクラブ内に併設し、運営する方法を確立した。それにより、利用者はもちろん、地域社会や行政にとっても高い価値を提供できている。どのように運営しているのだろうか。

  • 株式会社ディーズ
    代表取締役
    江原勇一氏
     

運動を一生続けられる施設を造る

ディーズスポーツプラザ(以下、ディーズスポーツ)は、群馬県を中心に展開するフィットネスクラブだ。総合型の邑楽(おうら)店をはじめ、ジムスタ型の前橋店、館林店、太田店、足利店の4店舗がある。そのディーズスポーツはフィットネス型デイサービスを前橋店と館林店に併設した。前橋店のデイサービスは、開設後、近隣のドクターに譲渡し、館林店は、設立・運営の支援をしたという。

「ディーズスポーツでは、邑楽店がオープンから30年経過しており、50歳で入会された方はもう80歳。免許返納などで外出の機会が減り、健康状態がすぐれず通えなくなっている人もいました。運動を一生続けられる施設が必要と考え、フィットネス型のデイサービスをコロナ前から調査していました。コロナ前のディーズスポーツは好調だったため、一定の店舗数や利益を確保して乗り出す計画ではありましたが、コロナを迎えました」(江原氏)

当初クラブとは別の建物でデイサービスを開設するつもりでいたが、資金的に難しい。前橋店はスーパーなどのモールの中にあり、建物のオーナーに内装を負担してもらっていたため、家賃が赤字幅に影響していた。加えて、オープンから1年でコロナを迎えていた。オープンの特需が続いてはいたが、会員との関係性の構築に時間をかけたかった。

1店舗で毎月約200万円の赤字となり、全店で見ても売り上げは2/3まで落ちこんでいた。そこで、同店のジムでデイサービスを運営できないかと考えた。

ディーズスポーツ内に併設してコスト構造を改善

デイサービスを0から開設すると、イニシャルコストがかかる。そのため、フィットネスクラブを自前でリノベーションするのではなく、別の方法を考えた。

フィットネスクラブの営業中にデイサービスを営業することを考えたが、デイサービスを行う間に別の商売をすると条例に抵触する。そこで、前橋店の運営方法は、下記の通りとした。

  • デイサービスは、フィットネスを使う人が少ない昼間に同施設内で営業
  • その間、フィットネスとしての営業は閉鎖
  • 平日の9〜12時、12時〜15時の二部制
  • 各回定員30名
  • 30人を3グループに分ける
  • グループレッスンエクササイズなどを行う
  • 個別でのリハビリなどはしない
  • 座位でTRXを使ってストレッチなどを行う
  • マシンでの筋トレをサーキットのように行う
  • 平日16時以降と土日はフィットネスクラブとして営業
  • 登録は200名を目指す

これにより、デイサービス単体で600万円の売り上げを見込んだ。

デイサービスの開設にあたっては、約120人が退会した。一時的に赤字に赤字を重ねることになったが、その後の伸びを期待した。

現在、登録は約200名。アイドルタイムの稼働率を上げることに成功した。

フィットネスのデイ会員の単価は数千円だったが、1人あたりの平均単価が4〜5倍まで向上したのだった。

これにより、数百万円もの赤字を黒字化することに成功した同店は、2022年9月、今後の経営について模

索していた。

もともと前橋店は1棟借りしていた建物で敷地は500坪あった。ディーズスポーツは270坪あり、残り230坪ある。そこに、あるドクターが糖尿病の分野で独立するという話があった。

フィットネスとの親和性を感じた江原氏は、賃貸借契約を又貸し可能な条件にしてもらってから、そのドクターに入居してもらった。

館林店は始まったばかりだが、前橋のモデルを採用した。介護施設を経営する会社に対し、設立・運営の支援を行ったと言う。

フィットネスクラブの成果と笑顔が会員の楽しみ

実際、お客さまは喜んでくださっていると言う。その秘訣はどんなところにあったのだろうか。

「本来、デイサービスは、ケアマネージャーからの紹介が必要ですが、それに加えて、デイサービスでは珍しい1ヶ月ほどの4回無料体験用プログラムを導入しています。この体験者を含めると、登録は220名にものぼります(2023年1月現在)。この4回を通して、半日型ではなく1日型がいい、昼食付きがいい、お風呂が欲しい、など通いながら合うか試していただけます。

いきなり契約してから通い始めると、来られなくなってしまうケースが多いのです。結果、体験した8割の方は入会されています。ご家族に納得していただけているのです。また、正直なところ、『デイサービス』という響きを良く思わない方もいらっしゃいます。

折り紙を折るなんて、お遊戯をするなんて、他人のカラオケを聞くなんて…。

そういったイメージが、特に男性についてしまっています。しかし、ここではフィットネスクラブに来ている感覚が得られるのです」

江原氏は、実際、運営してみてどのようなことを感じたのだろうか。

「利用者は、マシンに触ったことがない人がほとんどです。ですが、やってみるとできてしまうので、お客さまは喜んでやるようになります。前橋店にはビーチエリア(砂場)があり、そこでの歩行訓練は人気でフィットネスでもヨガや骨盤体操などもしています。フィットネスクラブのいいイメージがデイサービスで味わえるのです。

フィットネスクラブらしい明るさや楽しさ、ホスピタリティがあるだけで人と人との結びつきに飢えている方が喜ばれます。カーブスとコンセプトが似ていますが、高齢者の方に利用者と利用者、利用者とスタッフとのコミュニケーションにおいて掲げている『成果と笑顔』が響きます」

◆図 1日の流れ

 

社会的意義、高い

喜んでいるのは、お客さまだけではない。例えば、施設を紹介し、入会することで対価を得ているケアマネジャーは、ディーズスポーツに連れて来ると自然と契約につながるため、評価が高い。相談を受けた際、最初の窓口になっているという。

「入会されて、要介護から要支援になることもあります。弊社としては金銭的にはマイナスですが、やっていることとしては自信が持てます。週1回契約の方で、もう1回追加で来たいという人もいらっしゃいます」

タイムスケジュール

リソースを活かそう

江原氏は、今後について次のように語る。

「今後、フィットネスクラブ内で、フィットネス事業以外で稼げる方法としてこの様式を広めていきたいです。

既存の事業者で、業績回復のための打ち手を探している方は、マッチングを含めてお手伝いができればと思います。

クラブを残すこともでき、業者も撤退せずに済みます。コロナ前は、フィットネスでは1,000人集めて、オープンしてすぐ黒字でしたが、デイサービスは一人ひとりの積み重ねで、送迎車や人員の準備なども含めてここまでに1年以上かかっています。中の人員は大きな準備がそこまでありませんが、イニシャルコストがかかりました。私は介護分野が素人で、精通していないだけに無駄が多かったかもしれません。

しかし、既存の色々な先行事例をよく見に行ったり話を聞きに行ったりしました。経験者を安易に採用するよりも人柄重視で採用することが大切です。

例えば、介護経験がなくてもフィットネスクラブでパートをしていたスタッフのほうが、お客さまから人気があることがあります。あまり『介護、介護』となってしまうと従来のサービスと変わらなくなってしまいます」

0から始めようとすると、黒字化までの見通しが立てにくいことがあるが、既存のアセットを活かした二毛作は、今後広がっていくだろう。

ここから高齢化や認知症、フレイルなどが増えていくとされるなかで、身体が動かなくなってから運動を始めるのではなく、できるだけ早いタイミングで運動を習慣化することが重要だ。

さらに、フィットネス事業者は、運動効果に関するエビデンスだけでなく、情緒的価値も解いていくべきだろう。

コロナが5類に移行するタイミングで、価値訴求の内容や方法を再考・強化するべきではないだろうか。