“現場の仕事もたくさんやってきた分、運動した結果として人生が変わる人たちをたくさん見てきました。人生が変わっていく姿をたくさん見てきているからこそ、それをクラブの中だけに留めたくない”

2023年4月1日、株式会社ルネサンス副社長に就任した、望月美佐緒さんにインタビューを行った。

  • 望月美佐緒氏
    株式会社ルネサンス
    取締役副社長執行役員
    ヘルスケア事業本部長兼シナプソロジー研究所長
     

このたび株式会社ルネサンスの副社長に就任されました。フィットネストレーナーとしてキャリアをスタートされた望月さんが、一部上場企業の副社長に就任されたニュースは、フィットネス業界で働く多くの女性たちにも、勇気と希望を与えたと思います。今のお気持ちをお聞かせください。

望月美佐緒氏(以下、敬称略):ありがとうございます。実は、今回の就任にあたっては、「驚いた」というのが率直な気持ちでした。

私は当社の創業期に、受託先のホテルニューオータニ大阪のフィットネスクラブでフィットネストレーナーとして仕事をはじめて、その後、スタジオスーパーバイザー、更にフィットネス部門だけでなく、スイミング・テニス・フロントも含めた商品の品質管理を担当し、新規事業の担当を経て、10年前からヘルスケア部門を担当しています。フィットネス事業者として本質的な価値づくりにチャレンジしてきました。

ルネサンスとしては、今、大きな過渡期を迎えていて、この3年間をどう過ごすかは非常に重要だと感じています。2022年にアドバンテージアドバイザーズ社と資本事業提携を決め、成果を出すことが求められています。また、創業期から現在に至るまで、ルネサンスの成長を支えてきたのは、現在代表取締役会長の斎藤敏一氏の存在なしには有り得ません。しかし、ここから数年間は新たなマネジメント体制をつくり、次世代にバトンタッチする準備期間とも捉えています。

取締役、執行役員をはじめ、経営メンバーそれぞれの得意分野を活かし、信頼し合いながら、チームで取り組んでいきたいと考えています。

フィットネス業界も、コロナ禍を経て大きな過渡期を迎えていますが、フィットネス産業の現状と今後について、どのように捉えていますか。

望月:「運動」には、たくさんの可能性があると感じていますが、これまでフィットネスクラブは、「運動を好きな人に、運動を提供する」ことしか、できていなかったという反省があります。ヘルスケア部門で展開してきている介護施設の「元氣ジム」や、がん患者の方向けの「ルネサンス運動支援センター」で、これまで運動との接点がなかった方との出会いが広がりました。運動が苦手だったり、運動に興味がなかった方が、運動する機会を得ることで人生が大きく変わり、運動の必要性や重要性を実感していただいています。もちろんフィットネスクラブで人生が変わった方も多く見てきていますが、運営側の我々の視点が、どうしてもクラブの枠の中ばかりに向いてしまいがちです。

これからは、クラブという枠の外に、運動の可能性を拡げていくことが大切だと思います。そのためには、運動指導者や、フィットネスクラブの経営者や運営者が、クラブやフィットネス業界の外に出ていくこと。そして、運動を運動として売るのではなく、困りごとを解決する仕組みの中で、運動を提案していく視点が必要になると思います。コロナ禍で、施設にお客さまをお迎えすることができなくなり、改めてこのことに気づきました。

これまでフィットネスクラブは、快適に運動ができる施設をつくり、お客さまをお迎えして、来てくださるお客さまに最高のホスピタリティとサービスを提供しようとしてきました。ですが、コロナ禍で、お客さまに来ていただけない期間があったことで、フィットネスクラブの価値や、フィットネスの届け方を模索することになり、新たな可能性も見えてきました。たとえば、オンラインフィットネス「ROL(RENAISSANCE Online Livestream®)」の事業では、施設もなく、7~8人の小さなチームですが、会員数35,000人以上の方にサービスを提供するに至っています。また、地方創生支援事業では、行政が持つ施設を活用して地域の健康づくり事業の運営を受託することで、フィットネスクラブに来たことがない方々にも運動の場を広げることができます。癌患者の方への運動サポートも、福利厚生や保険などの仕組みの中で、運動が届けられる仕組みづくりも進めています。

望月さんは、日本のフィットネス業界企業の経営幹部の中で、現場でのインストラクター経験も長く、女性という稀有な存在です。望月さんが大切にされている考え方をおきかせください。

望月:ビジネスは「点」でなく「線」で捉えることを大切にしています。業績がいい時も悪い時も、今という「点」に一喜一憂するのではなく、過去のすべてのことが今をつくっていて、今から将来へも「線」で繋がっていると捉えることの大切さを、先輩経営者から教えられてきました。要は今の業績が良いとすれば、その状況に至るまでにベースを作ったり、頑張ってくれた人がいることを忘れてはいけないということです。自社の業績が厳しく、コストを抑える必要があるときも、自社の利益確保だけではなく、関係するすべての方々の存続を考える。自分たちさえよければいいという考え方ではなく、事業を形成し協業していただいている企業や人々と、共存共創してよりより業界への線を繋いでいく。コロナ禍を経験して、改めてこのことを肝に銘じています。

また、勉強し続けることも大切にしています。社内でも若手リーダーたちを集め「経営塾」を立ち上げましたが、「財務」「事業戦略」「HRM組織開発」など経営に必要な力をつけておくことで、更に業界の外に飛び出して様々な方と会うにも、自信を持てるようになります。経営塾で学ぶことの中でもう一つ大切にしているのが「リーダーシップ」です。「リーダーシップ」はかならずしも、人々を引っ張っていくことではありません。私たちは「チームや組織にいい影響を与えるのがリーダーシップ」と定義しています。支えるリーダーシップもあれば、フォローするリーダーシップもあり、構成員が変われば、必要なリーダーシップやリーダーシップの発揮の仕方も違ってくる。チームがいい方向に向いていくには何が必要かを考え続けることが大切です。また、自分がどんな影響を与えているかは、自分ではわからないので、フィードバックを得ていくことも大切です。組織で重要なポジションになるほど、フィードバックをくれる人が少なくなるので注意が必要です。私は幸い、遠慮なく言ってくれる人が周りに多くてありがたいです(笑)。

女性としては、キャリアアップを望まない人も多く、高いキャリアに就いている方の間でも、共通に持っている悩みがあります。それは、男性社会で、何か言うと「めんどくさい」と思われたり、威圧的に対応されることが怖くて、我慢しているということです。フィットネス業界では女性が多く働いていますし、極端に働きにくい環境だとは思いませんが、女性特有の身体の状況や感情を言えないで我慢していることも多いと思います。その分、男性も気づきにくく、改善していくことが難しい状況があります。管理職に就いている女性同士で、そうした課題を共有しつつ、男性にそうした課題があることについて理解が得られる機会を増やして、今以上に女性が働きやすい環境をつくっていきたいですね。女性が我慢している状態では、イノベーションは起きにくいと思います。

最後に、今後のフィットネス業界を支える方々に、メッセージをお願いします。

望月:私は、現場の仕事もたくさん経験してきた分、運動した結果として人生が変わる人たちをたくさん見てきました。運動で身体が変わることが、心にも大きな変化を与えます。人生が変わっていく姿をたくさん見てきているからこそ、それをクラブの中だけに留めたくない。心を変化させることはとても難しいですが、運動で身体を変えることは、私たちの専門分野。そして身体が変わると心は自然に変わります。運動の指導ではだれにも負けないくらいに追求しつつ、クラブの枠から出て、運動に出逢える人を増やす仕組みをつくることに、さらに挑戦していきたいですね。