フィットネスクラブを、真に居心地がよく、幸福感の得られる”コミュニティ”“ サードプレイス” にするとしたらどうすればよいか。そのヒントを探るべく、今号の特集ではフィットネス業界のエグゼクティブらで、「コミュニティづくり」をテーマにディスカッションした。また、コミュニティづくり、サードプレイスづくりに詳しい識者の方々にも話を訊き、そのポイントをまとめた。

Issue 課題

人口が減少し、モノやコトが加速度的にコモディティ化していくなかで、生活者の興味・関心が基本的なものから、本質的なもの―「魅力的な人の集まりに所属し、何かを体験したい、幸福感を得たい」といった欲求を満たすもの―へと移ってきている。このままシフトしていくとすると、今後、魅力的な人が集うコミュニティやサードプレイスに、より注目が集まりそうだ。そうしたコミュニティやサードプレイスの1つとして、また生活者が幸福感を得られる場所の1つとして、フィットネスクラブは大いに可能性があるように思える。

ただ、運動の指導や運動をする場所という機能的な価値だけを提供している今のフィットネスクラブのままでは、その可能性を十分に惹き出すことはできない。

世界保健機関(WHO)によると、健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう。

フィットネスクラブは、肉体的、精神的な要素を満たすサービスは、これまで相応に提供してきていようが、社会的な要素を満たすサービスを意図してきちんと提供することはできていないのではないか。ハーバード大学やブリガムヤング大学など、いくつもの世界的な研究機関の追跡調査で継続的な運動や禁煙・禁酒以上に、社会的な要素、すなわち人と人とのつながりをつくり、心のなかを豊かさと幸せ感で満たすことが健康長寿に影響を与えることは、すでに証明されている。

ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を醸成する場所として、安心でき信頼できる仲間たちと集い、そこに所属できること、さらにはそこで何らかの魅力的な活動が主体的にできるフィットネスクラブをつくることができれば、もっと人々の健康や幸福に貢献できることになるのではないか。競争戦略的な面でも、今、勢いを増す24時間セルフサービス型のジムにない情緒的な価値という強力な魅力を備えることになれば、アドバンテージをとることもできよう。

今、フィットネスクラブを経営・運営している企業のなかで、未来を見渡せる優れた経営者が次の時代に合わせて自社の産業を再定義するとしたら、「コミュニティ・ビジネス」とするのではないだろうか。コミュニティ化することでソーシャル・キャピタル(社会関係資本)、すなわち、人と人とのつながりをつくれるからだ。これから人はもっと人を求めるようになるだろう。

では、フィットネスクラブを、真に居心地がよく、幸福感の得られる“コミュニティ”“サードプレイス”にするとしたらどうすればよいのか。そのヒントを探るべく、今号の特集では、フィットネス業界のエグゼクティブら4名で、コミュニティづくりをテーマにディスカッションした。また、コミュニティづくり、サードプレイスづくりに詳しい識者の方々にも、主に次に示す5つについて訊いてみた。

  1. コミュニティとは?人はなぜコミュニティを求めるのか?(コミュニティの本質や魅力は?)
  2. コミュニティをつくるためのステップやキーポイントは?特に、コミュニティに興味が薄い人や興味を抱いている人(未入会)とコミュニティを楽しんでいる人(入会済)との数的・質的なバランスのとり方は?コミュニティマネジャーとしての人材要件は?
  3. コミュニティをつくるうえでのタブー(禁忌事項)は?
  4. 理想的なコミュニティの事例は?その特徴は?
  5. フィットネスクラブは、これからの日本において、真に居心地がよく幸福感が得られるコミュニティ・サードプレイスになり得るか?

フィットネス業界のエグゼクティブらによるディスカッションとコミュニティづくり、サードプレイスづくりに詳しい識者の方々の話から、今後、フィットネスクラブをコミュニティ化、サードプレイス化して、メンバーが豊かで幸せ感のある人生を送れるようにするためのキーポイントをまとめてみたいと考えた。

 

Discussion 議論

フィットネス業界のエグゼクティブら4名による、コミュニティづくりについてのディスカッションから、今後、フィットネスクラブをコミュニティ化して、メンバーが豊かで幸福感のある人生を送れるようにするためのキーポイントをまとめてみたいと考えた。

<パネリスト>

  • 株式会社フィットネスビズ 代表取締役社長 伊藤友紀氏
  • 株式会社ティップネス 取締役執行役員 小宮克巳氏
  • 野村不動産ライフ&スポーツ株式会社 経営企画部長 菅原大輔氏
  • 株式会社東急スポーツオアシス株式会社 取締役常務執行役員共創推進本部長 向井宏典氏

(順不動、以下敬称略)

司会:フィットネスビジネス編集長 古屋武範

フィットネス業界のエグゼクティブを、総合クラブを中心に展開する大手3社およびジム・スタジオ型施設と小型施設の2業態を運営する1社からお招きし、「コミュニティをつくる」をテーマに座談会を開催した。コミュニティと一言にいっても、その定義やあり方は様々だ。各社が考える理想のコミュニティ像や、その形成につながる取り組みや期待する効果について訊いた。

古屋:近年、総合業態の経営状況が厳しくなるなかで、入会や継続のポイントになるのが「コミュニティ」ではないでしょうか。コミュニティをつくることで(24時間ジムなどにはない)人と人とを結び付けてできる情緒的価値を提供できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。皆さんが取り組んでいるコミュニティづくりへの取り組み事例などがあれば、教えてください。

小宮:最近、ファンベースマーケティングやコミュニティマーケティング、アンバサダーマーケテイングなどいろいろなものがありますが、これらはどれもコミュニティを“手段”としたマーケティング手法です。対して、当社が宮崎台店で導入した「喫茶ランドリー」事業は、コミュニティ形成を“目的”に据えています。コミュニティを使って本業に活かすという考え方ではなくて、身体的な健康だけでなく、精神的、社会的な健康にもつながるコミュニティを、慈善事業ではなくマネタイズするという、いわゆるコミュニティをビジネスにしようという発想で取り組んだものです。
フィットネス業界では30年以上前から「コミュニティが大切」と言われつつも、実際に今、うまく機能しているコミュニティは少ないのではないでしょうか。その理由は、“顧客と価値を共創する”という発想がなく、“お客さまはサービスの受容者で、我々は提供者”という概念から脱却できないからです。クラブinクラブも、クラブ側がコミュニティを運営して、お客さまはそれに乗っかるだけ。参加者がただ受動的に参加する組織をコミュニティといえるでしょうか?もっと参加者の能動性がある、クラブと価値共創が成り立つ組織でないと、真のコミュニティではないと思います。
そのような考えからすると、企業側が「コミュニティをつくる」という場合の考え方は少し違うように感じます。コミュニティはつくるものではなくて、できるものと思うからです。クラブは、レールは敷かないけれどそこまでの誘導は行い、そこから先はメンバーがいかに自走できるかが重要だと思っています。