総合型や24時間型、ブティック業態など、多様な施設がひしめくフィットネス業界は、新規会員獲得と継続率向上、トレーナーやスタッフの育成という課題を抱えている。一方、ユーザーの健康意識は「ウェルビーイング」へと広がっている。サーキットトレーニングジムも運営している株式会社アライアンスは、データの可視化と多角的なソリューションを通じて、ユーザーのエンゲージメントを高める仕組みを提供している。その取り組みと可能性に迫る。
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株式会社アライアンス
代表取締役
荒川 毅氏
健康意識の変化と「見える化」の重要性を推進していく
コロナ禍を経て、フィットネスユーザーの健康に対する意識は大きく変化した。単なる健康増進や運動不足解消、ダイエットではなく、「心身の健康」「ウェルビーイング」といった概念が生活者の中に浸透しつつある。しかし、ウェルビーイングという言葉は依然として抽象的であり、クラブを経営するフィットネス事業者においては「ユーザーにとって自分自身の状態を具体的に把握できる仕組み」が求められている。
株式会社アライアンスで代表取締役を務める荒川 毅氏は「心身の立ち位置を“見える化”することが、エンゲージメントを高める第一歩である」と語る。
身体の数値はもちろん、心の状態や日々の変化までをわかりやすく可視化し、クラブとユーザーが共有することこそ、継続利用を後押ししていく。フィットネスを医療領域に寄せるのではなく、ヘルスケアとして日常に根付かせるためにも、この「見える化」がフィットネスクラブの経営課題解決のカギとなる。

パーソナライズされた体験がもたらす継続性
アライアンスが提供する「milon(ミロン)」は、ユーザー一人ひとりのデータに基づき最適なプログラムを自動生成し、マシンが自動調整するIoTフィットネスマシンだ。利用者はパーソナルトレーナーが伴走しているかのような体験を得られるため、安心感と達成感を継続的に享受できるという。
2023年には、ゲーム的な要素が増え、ユーザーのモチベーションを高めつつフィットネスレベルや運動能力の評価もしてくれる「milon YOU(ミロンユー)」も登場した。
荒川氏はmilonを導入することにより「スタッフはアテンドの手間を削減でき、他のサービスに注力することができます。ユーザーは効果の高い、自身に最適化されたトレーニングを楽しみながら実践することができ、利用満足度が向上していきます。それは経営課題の1つである継続率向上につながる。双方にもたらすメリットは、施設にとって多大な成果をもたらしてくれます」と話す。
さらに、体組成計「ACCUNIQ(アキュニク)」との連携により、筋肉量や体脂肪、水分量といった多角的なデータを取得し、milonのトレーニング結果と紐付けて可視化する。これにより、ユーザーは自身の変化を理解しやすくなり、クラブは科学的根拠に基づいたフォローが可能になる。
「ユーザーが“自分に目を向けてもらえている”と感じることが、来館そのものを習慣化させる」と強調して話す同氏。


データ連携による「生活全体」のサポート
ユーザーそれぞれのエンゲージメントを高めていくためには、施設に滞在する時間だけでなく、日常生活まで視野に入れる必要がある。その役割を果たすのが、アライアンス開発したアプリ「MEon(ミーオン)」だ。
運動データ、食事記録、消費エネルギーを一元的に管理し、日々の生活習慣改善をサポートする。登録された約10万食の食品データベースから毎日の食事メニューを登録することができ、栄養バランスの可視化やアドバイスも受けられるという。
「運動と食事、生活習慣をつなげることで、ユーザーは自らの健康管理に主体的になれる」と荒川氏。クラブとしても、来館頻度が減少してもアプリを介してつながりを持ち続けることができるため、退会抑止につながる。エンゲージメントを“ジム外”へと広げることで、長期的な関係構築が可能になるのだ。
多様なユーザー層に応えるソリューション
アライアンスが展開するソリューションの数々は、単なる筋力トレーニングを超え、幅広い層に向けたエクスペリエンス(体験)を提供している。
その代表格ともいえる「SONIX(ソニックス)」は、音波振動を用いた全身運動マシンで、関節や筋肉への負担が少なく、安全に利用できる。小さな筋肉まで刺激することができ、細胞レベルでほぐしてくれるため、高齢者やリハビリ目的のユーザーにも適している。また、音波振動運動を従来のウェイトトレーニングと並行することで、筋肉の活動レベルを高め、トレーニングの期間や時間を短縮することができることに加え、運動中に引き起こる怪我を防げることも実証されている。
SONIXはフィットネスクラブに加え、医療施設や介護・予防施設でも導入が増えており、施設の空きスペース活用にも貢献する優れものだ。

また「REAXION(リアクション)」は、視覚と身体動作の連動を促す神経系トレーニングを可能にし、反射神経や周辺視野を鍛えられるツールだ。高齢者の転倒予防や認知症予防としての価値が高く、社会的課題の解決とクラブの差別化、その双方を同時に実現することができる。
ゲーム性を取り入れた没入型トレーニングで、若年層からシニアまで楽しめるエンターテインメント性を備えた「ExerCube(エクスキューブ)」も見逃すことができない。
患者、理学療法士、運動科学者、ゲームデザイナーによるプロジェクトで開発されたExerCubeは、脚や膝の怪我からのスポーツ活動への復帰を主目的としているが、ドイツやスイスでは、保険会社がExerCubeの利用費を負担してくれているという。SONIX同様にExerCubeを、ゴルフレンジといった空きスペースに有効活用している施設も生まれている。
アライアンスが提供している、これらの多様な選択肢は、ユーザーの幅広い目的に応えることができ、クラブが“居場所”として選ばれる理由の1つになるだろう。


フィットネス事業者が押さえるべき視点と今後の展望
フィットネス業界は、単にマシンを並べ、利用を促す時代から、ユーザー一人ひとりの「心身の変化をともに追いかける」時代へと移行している。荒川氏は「効率的なレイアウトやイベント開催といった取り組みは従来から繰り返し言われてきたが、今後はデータの見える化と、その解釈をクラブが学び続けることが重要」と語る。
病院は治療の場であるが、フィットネスクラブは「治療後の社会復帰を支え、予防や未病の段階で健康を育む場」になり得る。そこにデータ連携とAI解析を組み合わせることで、ユーザーに最適な運動提案を提供できれば、クラブは単なる運動施設から“地域の健康プラットフォーム”へと進化していく。
アライアンスが描く未来は、プロダクト単体の導入ではなく、複数のソリューションを結び付けた“仕組み”の提供にある。フィットネス事業者にとっては、単なる設備投資ではなく「ユーザーの生涯価値(LTV)」を最大化する戦略的選択となるだろう。
エンゲージメントが生む企業の持続的成長
最終的にフィットネス事業者やクラブ経営者が目指すべきは、入会数の一時的な増加ではなく、継続的な来館と高いロイヤルティを持つ会員の増加である。ユーザーにとって、自分の健康状態が「見える」こと、クラブが「寄り添ってくれる」と感じられることが、強いエンゲージメントを育む。
「フィットネスクラブは、もっと活用されるべき場所」と同氏は語る。
使われていないスペースや旧来型のマシン配置に頼るのではなく、ユーザーの変化に寄り添える仕組みを取り入れることが、結果的に収益性を高める近道だ。
株式会社アライアンスが提供するソリューション群は、その実現を後押しする強力な武器であり、クラブが「選ばれ続ける存在」となるための基盤となっていく。