現在インストラクターとして活動している方の中には、「いつか自分のジムを持ちたい」と考えている方も少なくないだろう。

しかし、そのような大きな挑戦の前では、どうしても「失敗」という二文字が頭をよぎる。莫大な開業コストをかけたにも関わらず、経営難に陥り投資分を回収できないことは珍しくない。

本記事では、ジムの開業・経営を失敗しないために押さえておくべきポイントを、実際の成功事例をもとに解説していく。

フィットネスジムの経営で失敗する3つの理由

最初に、経営が上手くいかないジムに見られる特徴を3つ紹介する。

コンセプトが定まっていない

ジムを継続して経営する上でコンセプトの設定は非常に重要だが、この部分が曖昧なまま開業・経営してしまうジムも多いのではないだろうか。特に、ビジョンとコンセプトを同じ意味として使っている場合は、注意が必要だ。

ビジョンは基本的に「将来のあるべき姿や理想形」を意味し、コンセプトは「ビジョンを実現するための行動指針」を意味する。

つまり、ビジョンとコンセプトを同義と捉えてビジョンのみを掲げて経営してしまうと、どのような価値をお客さまに提供すればいいかも曖昧になるため、結果的にグロースしなくなってしまう。

また、オリジナリティという観点から考えても、コンセプトが具体的かつ洗練されていなければ、それこそ大手の総合型フィットネスクラブには到底敵わないだろう。個人経営の小規模型施設だからこそ、他にないコンセプトを設定する必要がある。

ターゲットの解像度が低い

コンセプトが曖昧だと、「誰に」価値を提供するべきかも曖昧になってしまう。どんなジョブを抱えた人に自分たちのジムを利用してもらいたいのかが想像できず、集客にも支障が生じる。

今一度自分がジムを開業した背景を思い返し、どんな人に価値を提供したいのかを細かく書き出して、「ペルソナ」を作成することが重要だ。

年齢や性別はもちろんのこと、居住地や職業、趣味・特技、ライフスタイルまで、より具体的な人物像を想像することで、最適な集客方法やサービス設計が見えてくる。

コスト管理ができていない

最後は、コスト管理について。コストをかけるところかけないところの判断ができなければ、無駄にコストがかかってしまうことも起こりうる。

たとえば、顧客管理にExcelやGoogleスプレッドシートを用いた場合、その導入コストはほぼかからない。しかし、基本的に手動での運用となるため、人件費はその分必要になる。また人が介在することでミスも起きやすく、そのアフターフォローに余計なコストがかかるだろう。

さらに集客のための広告費に関しても、注意が必要だ。現在は様々な広告媒体が存在しているが、ただ思考停止してすべての広告媒体に出稿しては無駄が多いし、意味がない。すべて試して効果のあったものだけにフォーカスするという方法もあるが、まずは小さく始めることを推奨する。

ジム経営を失敗しないための4つの鉄則

次に、ジム経営を失敗しないための鉄則を4つ紹介したい。具体的には以下だ。

  • 鉄則1:オリジナリティのあるコンセプトづくり
  • 鉄則2:徹底したプロダクトアウト
  • 鉄則3:ファンを増やして紹介で集客を伸ばす
  • 鉄則4:広告はペルソナを意識したスタイルに

それでは、それぞれ詳しく見てみよう。

鉄則1:オリジナリティのあるコンセプトづくり

既述の通り、コンセプトは「ビジョンを実現するための行動指針」を意味する。つまり、自分の描きたい未来を実現できるようなコンセプトを設計する必要があるが、それは自分の長所やバックグラウンドを生かしたオリジナルのコンセプトでなくてはならない。

もちろん、他のジムを参考にすることは重要で、取り入れられるものは取り入れるべきだが、ただのモノマネになってしまっては、もはやジムを開く意味がない。それが同じ地域であればなおさらだ。

あくまでも、どのような意図でコンセプトづくりやサービス設計を行っているかなどの考え方を見習い、それを自身の経験やアイデンティティに落とし込んで、「ここだけのコンセプト」・「ここだけのサービス」をつくっていくべきだろう。

鉄則2:徹底したプロダクトアウト

マーケティングの基本的な概念の中に、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という2種類の考え方が存在する。簡単に説明すると、以下のようになる。

  • プロダクトアウト
    企業側が提供したいものを基準に商品/サービス開発を行うこと
  • マーケットイン
    消費者のニーズを汲み取って商品/サービス開発を行うこと

現在多くの企業で主流となっているのは後者のマーケットインで、市場調査をしっかりと行ってから消費者に好まれそうな商品/サービスを世に出すことが一般的だが、マイクロジムの開業に関しては、前者のプロダクトアウトを徹底すべきだろう。

その理由となるのが、鉄則1で触れた、オリジナリティのあるコンセプトだ。はじめからマーケットインでサービス設計を行ってしまえば、良くも悪くも一般受けのしやすいものになってしまい、オリジナリティに欠けてしまう。

  1. 独自性のあるコンセプトづくり
  2. それに見合ったサービス設計
  3. マッチしたユーザーにどう届かせるか

以上の順番で、マーケティングを進めていくべきだろう。

鉄則3:ファンを増やして紹介で集客を伸ばす

プロダクトアウトを徹底することでファンができやすくなる。具体的で限定的なコンセプトにしているからこそ、特定の人に刺さったときの影響は大きい。そして、このファンを増やしていくことで、芋づる式に集客を行うことができる。

特定のジョブを抱える人が同じジョブを抱えた人にジムの存在を話すだけで、その人は少なくとも興味を持つことになるだろう。ここに紹介割やペア割、無料体験券などのアクセントを加えれば、大体の人がジムを訪れることになる。

このような形でファンを増やしていくことで、広告費を抑えて集客を行うことができる。

鉄則4:広告はペルソナを意識したスタイルに

一概にファンを増やすと言っても、同じジョブを抱えた人たちに確実なつながりがあるとは限らない。さらに言えば、最初の1人を見つけることができなければ、この手法は使えない。ある程度母数を増やすためには、何らかの形で広告を打つことが必要となってくるが、ここでも注意が必要だ。それは、必ず自身が設定したペルソナに合った広告スタイルにすること。

例えば世代一つとっても、若い人であればネットやSNSを中心とした出稿にし、年配の方であれば折込みチラシも依然として有効であると考えられる。

また、とりわけネット広告でよくあることだが、都内に開業予定/しているジムの広告が、大阪へ住んでいる人のスマホ画面に表示されるなど、出稿範囲を限定していない事例もよく見られる。

上記の年齢・居住地などの基本情報だけでなく、ペルソナの趣味やライフスタイル、家族構成にも合わせてキャッチコピー・デザインを意識することで、訴求しやすく無駄のない広告出稿が可能になる。

事例でわかる、失敗しないマイクロジム経営

ここでは、マイクロジム経営を3つの事例から学んでいく。

1.トレーニングスペース アロー

・コンセプト

「身体の専門家である理学療法士が最善の方法で身体づくりをサポートする」

オーナーである阿藤氏は、母親が変形性股関節症になったことをきっかけに身体に興味をもち、理学療法士の勉強を始めた。

障がいがある方、体力や運動神経に不安のある方は、フィットネスクラブに通うのを躊躇してしまう。同クラブは誰でも気軽に運動してほしいという気持ちから“運動が苦手な人、障がいがある人も受け入れます”ということを発信して、心理的ハードルを下げるよう心がけている。

・現状

現在の会員数は約140名で、の年齢層は若年層から高齢者まで幅広いが、メインユーザーは40〜50代、男女比はおよそ4:6。1ヶ月の売り上げは月会費など約300万〜350万円と訪問事業や企業フィットネス事業、リハビリ事業など250万〜300万円。家賃は月約30万円、人件費月約320万円。

・プロモーション

オープン当初は半径約3km圏への折込みチラシのほか、ブログやホームページをつくりリスティングを行ったり、SNSでターゲットを絞って広告掲載したりしていた。また、高齢者やリハビリが必要な人へ届くよう、祖師谷大蔵駅や地域巡回バスに看板・ポスターを掲出したり、病院に置かれているフリーペーパーに広告掲載したりもしている。クチコミによる入会も多い。

2.ジムフィールド

・コンセプト

「遊ぶように鍛える」

大手フィットネスクラブ入社後、フリーランスとなり、インストラクターおよびパーソナルトレーナーとして活躍していたオーナーの郡氏。スタジオプログラムもパーソナルトレーニングも十分に集客はできていたが、最短最速で結果を出すために限りなく無駄を省いたHIITを独自にアレンジした合理的かつ効果的なオリジナルメソッドをつくり、これを提供したいと考えていた。

郡氏のメソッドは短時間で効果を出すファンクショナルトレーニング。通常のマシンは動きに制約があり、お客さま同士共有するため待ち時間もある。ファンクショナルトレーニングは、これらの問題が解消でき、効率よくトレーニングを提供できると考えた。

・現状

現在15店舗運営しており、1店舗あたりの会員数は80〜120名程度。今年3月以降は新型コロナウイルス禍(以下、新コ禍)により30%程度休会者がいる。店舗にもよるが、損益分岐会員数は約25名。

会員さまの属性は、男女比はおよそ2:8、年齢は30 〜40代が多い。運動初心者が半分以上で、運動に興味はあったけど、フィットネスクラブに通うのは躊躇していた人や、短時間・短期間で効果を出したい人が多い。

月8プランを勧めているが、実際に一番多いのは月4プラン。ダイエットプランのような高額商品で単価が上がり、客単価は3万円/月程度となっている。「楽しみながら続ける」ことをコンセプトとして含んでいることもあり、継続率は3ヶ月85%、1年70%と高い。

・プロモーション

プロモーションは、webのみ。特にSEO対策に注力し、リスティング広告、バナー広告を掲出するほか、FacebookやInstagramで広告を出すこともある。チラシもつくっているが、店舗前に置いているだけで折り込み配布やポスティングはしていない。

3.Obito

・コンセプト

「なりたい身体を正しくつくる」

世の中には正しくない情報もあふれているなかで、お客さまの身体の悩みを根本解決できるサービスを提供したいと考えている。

Obitoは、もともとオーナーである廣澤氏の前職、株式会社FiNCが運営していた「FiNC Fit」の1店舗を継承したパーソナルトレーニングジムだ。同社はパーソナルトレーニングジムを5店舗運営していたが、20年7月、ジム運営から撤退することになった。廣澤氏は、そのお客さまやスタッフを“紡ぎたい”と考え、赤坂店を「Obito」として継承した。

ObitoのOは輪、bitoは人を表している。廣澤氏は、人との関係を“つながる”“紡ぐ”ということを大切にしており、お客さまとの関係をつくりながら習慣化し、身体と心を変えていくためのサービスを提供している。

・現状

現在の会員数の約7割がFiNCから移籍した人で、他店舗から移行した人もいる。新入会者は、大々的なプロモーションを行っていないこと、また同クラブの特性からも紹介によるものが多い。

施設キャパシティは約300名、損益分岐会員数である150名にはすでに到達していて、あと一歩で200名に届く。会員さまの属性は、男女比はおよそ4:6、年齢は20代後半~ 50代が満遍なく在籍している。利用時間のピークは18~21時ごろ。

・プロモーション

プロモーションは、現時点では紹介が中心。地域を絞ったリスティング広告を最近になって始め、今後は駅内ポスターやチラシでのポスティングも行っていく。

まずは既存のお客さまを大切にしたいと考え、1ヶ月ほどは、プロモーションを行っていなかった。また、新型コロナウイルスを心配される方も多いと考え、会員さま専用チャットで実施しているウイルス対策となぜ安全なのかを伝えている。

まとめ

実際の事例を見ていただければわかるように、現状のコロナ禍においても継続して成功しているマイクロジムは、そのコンセプトにも具体性や腹落ち感があり、プロモーションの方法にもしっかりと意味がある。このような基本を抑えることで、アフターコロナでも変わらずに生き残ることができるのではないだろうか。

経営の失敗を恐れて独立を踏み出すことができずにいるインストラクターや、現状の経営が上手く行っていないジムオーナーにとって、本記事が少しでも参考になり、勇気を与えることができれば幸いだ。