コロナにより大きな打撃を受けたフィットネス業界。休業を経た現在、会員の戻りが早かったり新規会員の獲得に成功しているジムとそうでないジムに二極化している。前者はコロナ前、またコロナ禍、どんなことに取り組んでいたのだろうか?

ここでは国内・海外の事例から、その要因を探ってみることにした。

コロナはジム集客にどのような影響を与えたか?

2019年まで、日本、海外ともにフィットネス業界は毎年着実に成長を続けていた。日本では大型の総合クラブの開発は減ったものの、小規模施設は淘汰を繰り返しながら、相変わらず増加傾向にある。無人施設であれば人件費もかからないとあって、人口減により増える空きスペースの有効活用にと始めるオーナーも多い。それにともない、フィットネスへの参加者数も増えていた。

それが2020年に始まったコロナの感染拡大により、成長がストップ。施設の休業を機に、登録していたがあまり利用していなかった会員を中心に多くの退会や、感染を恐れる休会者が出る事態となった。

休業中に自宅や外でトレーニングを始め、施設に通わなくてもトレーニングできることに気づいたり、そもそもコロナで収入が減ってしまったなどの理由から、再開後の現在も会員の戻りは鈍く、かつての7割程度という施設が多い。

そのようななか、一部ではコロナ前と同じか、または8~9割の会員数まで戻している施設がある。

コロナでも集客に成功しているのはどんなジム?―日本編

他施設と比べて会員の戻りが早い施設はどのような施設なのか? そこには以下のような共通点がある。

1.徹底した感染予防対策

当然ながら一番に挙げられるのは、感染予防への取り組みだ。入口と出口など会員の動線を分ける、こまめな清掃、消毒、換気。これらをただ実行するだけでなく、SNSや館内掲示などで会員へきちんと伝えている。もちろん、マスク着用や会話の禁止など、ルールを守る会員の存在も大きい。

また、都心の総合業態の店舗に比べ、そもそも感染する割合が低いエリアにあり、人の移動もそれほど多くない地方郊外の店舗も会員の戻りが比較的早い。

2.質の高いスタッフの存在

日ごろから会員の課題解決や目標達成のため、丁寧なサポートを続けていた施設は、その専門的なアドバイスを求めて会員の復帰が早い。

そもそも自分では運動習慣を継続できない、何をすればいいかわからないからという理由からフィットネスジムに通っている方は多い。例えば、スタッフが目標への進捗を確認してアドバイスを送ったり、またトレーニング中に「がんばっていますね」などの些細な励ましの言葉でも会員のモチベーションは高まるのだ。ぜひジムでは意識してほしい。

3.小人数制/会員との絆が強い

小人数制で会員とスタッフの距離が近い施設は、会員にとってある種、施設がサード・プレイスとなっており、このような施設も馴染みあるスタッフに会いたいがゆえ、会員の戻りが早いようだ。

そのようなクラブでは、会員の身体的な悩みの解決に真摯に取り組んでいることはもちろん、定期的に健康について学べるセミナーを開催したり、会員が趣味とするものをサークルとして立ち上げるなど、日ごろからスタッフと会員、また会員同士の交流を増やす努力をしている。

そのほか、少人数であることは、大型施設より感染予防の観点からも不安が取り除かれやすいことも影響しているようだ。

コロナでも集客に成功しているのはどんなジム?―海外編

次に海外ではどのような施設に、会員が戻っているのだろうか。

1. ジムが行う感染対策を会員に随時報告</h3>

1に関しては日本とほぼ同じだ。休業中からSNSやメール、さらには動画などを通して感染対策を会員に伝え続け、内容に変更があった際にも随時報告。設備面など傍から見えない、また気づきにくい部分についても念入りにアピールを行っている。日本の施設よりも感染対策についてこまめに報告している印象が強い。

2.フリーレッスンキャンペーンなどの実施</h3>

休業中は無料でオンラインレッスンを提供。ここで様々なプログラムを体験し、興味を高めてもらうことで、再開後の施設利用への誘導につなげている。

ニューハンプシャー州にある43Degrees North Athletic Clubでは、休業中もウェルネスチェックや無料レッスンを積極的に提供していたほか、さらにはトレーニングツールを貸し出すなどのことも行っていた。

この休業中にトレーニングツールを貸し出すサービスについてはほかのジムでも見られた。事前に袋に数種類セットしたものを複数用意し、希望する会員に貸し出したのだ。日ごろジムで利用していたツールを自宅でも利用できるとあれば、会員も運動を継続しやすかったはずだ。

3. オンラインレッスンの提供

2と近いが、オンラインレッスンの提供には多くの施設が取り組み、グループレッスンだけでなく、パーソナルレッスンの提供にも積極的にオンラインを活用していた。慣れ親しんでいたインストラクターや仲間たち、さらにトレーナーとつながれることが、休業中の会員たちの楽しみとなっていたようだ。

その1つが、ペンシルベニア州にあるUniversal Athletic Clubだ。休業中も様々な種類のレッスンをオンラインにて提供し、感染を恐れて来館を控える高齢者から特に好評を得たという。

なお、オンラインコンテンツは、すでに様々なフィットネスサプライヤーが提供しているが、会員はやはり馴染みある施設スタッフによるオリジナルレッスンのほうを好む傾向が高いようだ。そこでスタッフたちのリアルとはまた違う表情を見られることも、会員にとって魅力の1つとなっている。

コロナでも集客できるジムになるためのポイント

以上をまとめると、以下が集客の大きなポイントになると思われる。

感染予防を徹底。様々な方法で会員に周知徹底する

アメリカのジム利用者に実施したアンケートによると、ジムに復帰した会員が安心を感じるポイントとして、「こまめな消毒・清掃」や「スタッフが検温していること」「会員が検温していること」などが挙げられていた。やはり、実施している感染予防対策が“見える”ことが安心感につながっている。

反対にいえば、いくら対策を徹底していたとしても会員から見えなければ、意味がないといえる。実施している感染予防対策、さらにそれをアップデートしたときなど、こまめに、かつ「ここまでやっている」ことをアピールしよう。

日ごろから会員との絆構築に取り組む

会員と交流を深めるイベントやセミナーの実施など、日ごろから会員との絆を深める取り組みをしよう。先ほどのアンケートでも、休業により「(施設に集う)仲間との一体感」や「スタッフの応援がなくなって寂しい」という意見が挙げられていた。このような会員は、再開後もすぐに復帰していると思われる。

新サービス(オンラインレッスン)の導入やキャンペーンの実施

日本・アメリカともども多くの施設が休業中にオンラインレッスンを開始し、それに伴い専用会員を導入している。当初は施設より一方通行で配信していたが、やはり会員との交流が必要と、チャット機能など、リアルタイムで交流できる機能を後から追加するなどして発展させているところが多い。

まとめ

コロナにより、“登録していたが利用していなかった会員”が退会し、多くの施設がサポート不足を悔いている。これからはそのような会員をつくらないよう、力を入れてくることだろう。

また、休業中に導入したオンラインレッスンが好評で、再開後も多くの施設が継続して提供している。オンラインとリアル、状況に合わせて選べるようになったことで、利便性が高くなったと会員の満足度も上々だ。

しかし、どこの施設でも取り組んでいる分、今後はその質や内容が求められてくるだろう。オリジナリティあふれる内容をいかにつくれるかが、成功の鍵となりそうだ。