現在、ジムを運営する会社にサラリーマンとして勤めているが、いつかは自分自身のジムを経営したいと考えている人は少なくないのではないだろうか?もしかすると、まったく別の業種からジムの経営を考えているという人も、なかにはいるかもしれない。

一国一城の主になるというのは聞こえがいいが、一方でリスクも伴うし、自己責任の割合がサラリーマンよりも圧倒的に増すことになる。そういったときに、失敗をなるべく少なくするにはどうしたらよいのだろうか?

本記事は、脱サラをしてジム経営を始めたいという志のある者に向けて、リスクを減らす考え方を確認できるように執筆した。

脱サラして経営するジムの方向性を決める

まず考えるべきは「どういうジムをつくるのか」ということだろう。昨今、総合型ジム、パーソナルジム、24時間ジム、ヨガスタジオ、サーキットトレーニングジムなどがすでに多数展開している。全国津々浦々、延べ約8,000店のフィットネス施設がひしめき合っている状態だ。

自分のジムはどういった特徴があり、どのような人たちに、どのような価値を提供できるのか。それが一言で説明できるようになる必要がある。

自分自身のことを整理する

いわゆる自己分析である。ここでは特に「動機」と「能力」にスポットライトを当てる。最も重要なのが動機だ。なぜ自分がジムをやる必要があるのか、本当にフィットネスが好きなのかどうかを立ち止まって考えて欲しい。

厳しいことを言うようだが、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響が依然として大きいこともあり、フィットネス業界は極めて苦しい状況にあると言える。ただ、そういった逆風に晒されても、自分が本当にやりたいことであるならば乗り越えられるだろう。もし仮に、お金を稼ぐことが目的ならサラリーマンのままでいたほうがいい。自分のモチベーションがどこにあるのか、動機を整理しよう。

次が能力だ。多くは、トレーナーとしての経験やジムでの勤務の経験があるだろう。これに加えて経営の能力が必要になってくるが、これは実際にやってみて経験していくしかない。「習うより慣れよ」である。それをカバーするために、まずはトレーナーとしての能力は高めておこう。

仮にあなたが、フィットネス業界以外からジム経営に乗り出すというのであれば、オープンするジムの特製にもよるが、サラリーマンでいるうちにトレーナー養成スクールに通ったり、NESTA-PFTやNSCA-CPTといった資格の取得をしておくとよい。トレーナーというのは実は、資格が必須となる職種ではないのだが、取っていおいて損はないだろう。

また、FCM技能検定という、フィットネスジムのマネジメント層に向けた国家資格もある。弊社で教材(https://shop.fitnessclub.jp/fs/fitness/c/b-fcm?toppage)を用意しているため、もし取得を目指す場合はご活用をオススメする。

ジム経営をして成し遂げたい目標を明確にする

次に、あなたがジムを経営して何を成し遂げたいのかを考える。例えば、「トレーニングをきっかけにダイエットに成功したから、多くの人にその喜びを知ってもらいたい。」というものでもいい。

ただ、漠然と多くの人と言っても、範囲が広すぎて結果的に誰も足を運んでくれない。ターゲットとなるユーザーを絞り込もう。例えばカーブスは「50代以上の運動未経験の女性」といった具合に絞り込んでいる。

そして、どのような価値を提供するか。またカーブスの例だが、1回30分の短時間にすることで継続のハードルを落として、ある程度やることが決まっているサーキットトレーニングを提供している。そうすることで初心者でも続けやすく、今までジムに通っていなかった層の開拓に成功している。価値としては、科学的に証明された運動プログラムによって効果が出ること、そして今まで継続ができなかった層に継続させることが容易になったことが価値だ。

「健康寿命を伸ばしたい」という目標を掲げてジムを経営するなら、カーブス的な取り組みがいいだろう。ただし、まったく同じものを今から行っても勝ち目はない。しっかりと差別化をする必要がある。

小さくても勝ち筋が見えるポジショニング

自分の動機と能力、ジム経営で成し遂げたいことが決まったら、次はポジショニングだ。そのためにはまず、競合他社を分析することが必要だ。流行っているジムには、それなりの理由があるはずだ。FitnessBusinessでも毎号取り上げているが、設計の段階からしっかりと考え込まれているジムは成功しているケースが多い。成功要因と失敗要因を把握しておこう。

有名な故事である『孫子の兵法』のなかにも「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という言葉がある。要するに、「自分を知り、敵をよく知れば負けることはない」という意味であるが、失敗確率を下げるには「自分」「お客さま」「競合他社」を知り尽くすところから始めよう。

そのうえで、「この分野ならば誰にも負けない」という方向性を見つけ出し、歩みを進めて欲しい。そうすれば、失敗する確率は大きく下げられるだろう。

脱サラしてジムを経営する方法3選

具体的に、ジムを経営するためにはどのような手法があるのだろうか?大きく分類するならば3種類ある。ここでは、それぞれの方法のメリット・デメリット含めて順番に見ていく。

ゼロから始めるジム

まず思いつくのが、テナントを自分で借りてオープンするものだろう。近頃はマンションの一室をパーソナルジムとして活用するケースも珍しくない。

メリットとしては、自由度が高いこと。自分の気に入ったテナントを選び、オリジナルのコンセプトを全面に押し出すことができる。先に決めた「ジムの方向性」に合致するように組み立てていこう。

デメリットとしては、マーケティング、ブランディングをゼロからスタートする必要があるということ。この点に関しては、例えば元々パーソナルトレーナーとして脱サラ前のジムで活動していた場合に、お得意さまを引き続き担当するというケースである。フィットネスの真髄は「人対人」にある。あなたに魅力があれば、お客さまはついてきてくれる。

フランチャイズで始めるジム

次に、フランチャイズだ。エニタイムフィットネスやカーブスなどはフランチャイズで出店数を増やしている。

メリットとしては、彼らのブランド力とノウハウを活用することができるということだろう。選ぶフランチャイズを間違えなければ、かなり成功確率は高くなる。元々トレーナーでない人でも、資金的に余裕があるのであればこの方法が合致しやすいが、数千万円のイニシャルコストは覚悟する必要がある。一種の保険料と思うしかないだろう。

デメリットとしては、自由度がほとんどないということ。あなたがやりたいジムとフランチャイズの方向性に齟齬があると、長い目で見て運営が難しくなる。成功確率は高いとはいえ、動機がなければやるべきではない。

居抜きから始めるジム

最後が居ぬきである。元々ジムだったが、様々な事情があって営業を辞めてしまった物件を、原状回復する前に引き受ける方法だ。コロナの影響で大手ジムも小型ジムも、撤退するケースが増えてきている。情報を感度高く収集しておこう。

メリットとしては、コストが抑えられるということ。本来であれば定価で購入する必要がある器具を安値で買い取ることができるためだ。ランニングコストとして大きいテナント料も、交渉の余地がある。

デメリットとしては、フランチャイズほどではないにしろ、自由度が落ちること。また、営業を継続できなくなった理由は必ずどこかにある。それをハッキリさせておかないと、同じ失敗をすることになる。そこの元ジムオーナーから、しっかりとヒアリングしておこう。

脱サラしてジムを経営するための必要資金

ここでは、ジムを経営するうえで特に支出の大きい3つを見ていく。フランチャイズになるとロイヤリティを支払うことも必要になってくるが、先に見た3つの方法に共通するものに絞り込んだ。

テナント

まずは物件だ。ジムの場合、立地が本当に大事になってくる。費用が安ければいいというものではなく、バランスを意識しよう。一般的には1階部分(路面店)は人通りがあるために認知されやすくオススメだ。もちろん費用は高くなるので、月々のランニングコストと見込める収益を見積もってから考えよう。

坪単価、平米単価が周辺の類似物件と乖離がないかも確認する。それに面積を掛けたものが月々のテナント料になるわけだが、場所や広さによって数十万円~数百万円の出費になる。一度出店してしまうと、ずっと必要になる固定費なので、慎重に検討しよう。

器具

次は器具だ。自分のジムのコンセプトに合致したものを買うようにしよう。パーソナルジムであれば、限られたスペースで複数の種目ができるラックやスミスマシン、ケーブルマシンの購入が必要だ。なかにはトレッドミルやバイクマシンを置きたいということもあるだろう。

器具はピンからキリまでたくさんある。数千円のダンベルから百万円以上のマシンまで様々だ。ただし、器具派安ければいいというわけではないし、基本的に買ってしまえばランニングコストは不定期のメンテナンス費用で済むので、予算の範囲内で妥協せずに選定しよう。弊社が運営するオンラインショップ「フィットネス市場」でもマシンや各種備品の取り扱いがあるため、ぜひチェックして欲しい。

人件費

最後が人件費だ。多くの場合はトレーナーを雇用することになるだろう。こちらも一人当たり数十万が毎月必要になる。人数によってはテナント料よりもランニングコストが高くなるため、自分のジムが実現したいことを一緒に手伝ってくれる仲間を選ぼう。

仲間を選ぶ際も、大切なのがその人の「動機」と「能力」だ。自分のことがわかっていないと、仲間を選ぶ判断基準もぶれてしまう。能力については、自分にないものを補完してくれる人が最有力になる。

脱サラからのジム経営を失敗しないための3つのポイント

それでは、最後に失敗確率を下げる方法や考え方を見ていく。驚くかもしれないが、これらはすべてジムを実際に経営する前に行うことばかりだ。経営し始めると日々の業務に追われることになるし、180度路線変更することもできない。だからこそ、オープン前を大事にしよう。

ミニマムで立ち上げる

起業の基本であるが、まずは本当にニーズがあるのか、そしてビジネスとして成り立つのかという確度を高める必要がある。自分のジムをオープンする前に、レンタルジムスペースを活用して、顧客を増やしていくことなどがある。フランチャイズであれば、一度別の店舗のスタッフとして業務を経験してみるのもありかもしれない。

大事なことは「通い続けてくれるか」ということだ。いわゆるリピート客だ。自分のファンを増やし、お金を支払ってくれる人がどれだけいるのか。増やしていくためにはPSF(プロブレムソリューションフィット)を意識しよう。顧客が抱える課題に、自分が提供しているソリューションが合致していれば、必ず価値を感じてくれる。

顧客の声を集める

ミニマムで立ち上げるときに、顧客からのフィードバックを集めよう。どんなに少なくとも20件は集めたい。自分が提供するサービスのどんなところがよかったか、改善点はどこか、価値に対して、いくらまでなら支払ってくれるのか。実験、ヒアリング、そして改善を繰り返そう。

自分のサービスに本当に価値を感じてくれていれば、その顧客は別の顧客を紹介してくれる。その連鎖が起こった段階でジムの経営に踏み込むだけでも、失敗の確率は大きく下げられる。

別地域の同業からヒアリングする

最後は同業からヒアリングするという方法だ。商圏が被らない同業他社から、ジムを経営してみた実体験を聞くことで、解像度を高めることができる。その際、あまりにも商圏の特徴が違うと参考になる部分が少なくなるから注意。

運営がうまくいっているジムだけからヒアリングするのはもちろんだが、できればそうではないジムからもヒアリングしよう。居ぬきなどはまさにチャンスだ。そこの差が見い出せれば、間違いなく成功のヒントになる。

まとめ

以上、脱サラをしてジムを経営するうえで、失敗を少なくするために確認しておくべきことを見てきた。具体的な収益モデル、パーソナルジムの経営、フランチャイズについては、リンクの記事を参照して欲しい。

もちろん、これらを意識しても必ず成功するわけではない。記載したこと以外にも、様々な要因が重なり合ってくる。ただ、リスクは減らすことができる。いきなりテナントやフランチャイズを契約してしまう前に、再度読んで欲しい。