Precorが提供するIoTソリューションであるAdvagymはソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援するSony Startup Acceleration Program(SSAP)から誕生した。さらに、それが誕生したのはヨーロッパ拠点である。今回は、ソニー株式会社(以下、ソニー)で同ソリューションのマーケティング責任者を務めるJonas Olsson(ヨナス・オルソン)氏にスウェーデンからオンラインで取材に応じてもらい、詳しく訊いた。

Jonas Olsson 氏
Advagym チーフマーケティングオフィサー

—Jonasさん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず、Advagymの誕生秘話を教えていただけますか?

もちろんです。Advagymの開発者はソニー・エレクソンに当時勤めていたHenrik Bengtsson(ヘンリック・ベンソン)さんです。彼自身も頻繁にジムに通っていたのですが、紙やペンを使ってトレーニングを記録しなければならないことに課題を感じていたそうです。

彼のエレクトロニクスのバックグラウンドを活かし、IoTの技術でトレーニングの自動記録やトレーニングの指導がモバイル端末でできるのではないかと考えて始まったコネクティッドジムのプロジェクトがAdvagymなのです。

これは社会課題の解決にもつながると私たちは信じています。家や職場で座りがちな生活を運動の促進によって改善し、ジムでのトレーニングを通じた社会的な関わりも提供できるテクノロジーなのです。

いわゆるSDGs(持続可能な開発目標)の3つ目である、Good Health andWell-Being(すべての人に健康と福祉を)の実現に貢献できるソリューションなのです。

—Advagymをフィットネスジムにお勧めする特徴や理由は何でしょうか?

Advagymはハードウェアとソフトウェアの両面から、従来のフィットネスクラブ以上に会員さまとのつながりを提供するB to B to Cのプロダクトで、関わるすべての人にメリットをもたらします。

特徴として挙げられるのは、会員さまとのコミュニケーションをアプリ上で行うことができ、エンゲージメントの向上に貢献することです。

それは、トレーニングのログや施設利用頻度等のデータを活用し、その人に最適化されたメッセージやトレーニングメニューを提供可能だからこそ実現できるのです。

また、我々はアジャイル開発に取り組んでおります。2019年に最初にAdvagymをローンチしましたが、そのあとコロナが発生しました。

多くのフィットネスクラブが閉鎖せざるを得ない状況になりました。

ヨーロッパは日本と比較しても、その制限が厳しく、閉鎖中にいかにトレーナーと会員さまがつながり、新たな価値を提供できるのかが継続率を下げないためのキーポイントとなりました。

そこで、我々は自宅でのトレーニングメニューを提案できる機能を追加し、たいへんな好評を得ています。さらに、ジムの営業再開後は、会員さまは混雑時間帯を避けられるように、また、ジム側は必要なスタッフの人数が分かるように、1週間の混雑状況の情報を知らせるようにしました。

—世界的に見て、どれくらいの国や施設で利用されているのですか?

一番大きなマーケットであるヨーロッパを中心に、北米、アジア、オセアニア含め、世界7大陸の27の国で導入されています。ヨーロッパでは200 ~ 300の施設に導入されています。

日本も成長しているマーケットとして有望視していることに加え、テクノロジーに対してフレンドリーだと考えています。今後のAdvagymの普及に期待したいところです。

—どのような種類のフィットネスジムに利用されているのですか?

24時間ジムや中規模のジムが中心ですが、もちろん総合型のジムにも導入されています。そのほか、フィットネスクラブ以外にホテルのジムフロアや大学のトレーニング施設などでも利用されています。

特に、24時間ジムのようにスタッフの数が限られている業態ですとAdvagymが提供できる価値は大きくなるように思います。通われている会員さまはマシンの使い方やそもそものトレーニングの仕方がわからない場合も多いです。

24時間ジムであれば無人営業時間もありますから、そのときにアプリ内の動画コンテンツやテキストでの説明が参照できるだけでも、継続率が向上します。ケガを予防しながら、正しいエクササイズを可能にするため、Advagymが果たす役割は非常に大きくなります。

また、スタッフの数が多いフィットネスクラブについては、テクノロジーによるオペレーションの簡易化を実現することで、様々なコストを削減します。

—ヨーロッパでの成功事例をお聞かせください。新規申込や継続率の向上の数値データもあれば併せて伺いたいです。

いい質問ですね。すでにたくさんの実績が出ていますが、代表的な事例を3つ厳選してお話ししていきたいと思います。

まず1つ目の事例はスコットランドにあるAberdeen SportsVillageというフィットネスクラブです。

Advagymの導入直後から、マシンの利用率、トレーニングログといったデータをどのように事業に活かせるかという意識が非常に高いクラブでした。データに基づいてアプリ上で会員さま向けにメッセージの送信やコンテンツの提供を継続した結果、2019年8月と2021年8月のパーソナルトレーニング契約数を比較すると、約150%に増加したのです。

2つ目はデンマークにあるApolloという小規模のジムです。

コロナの影響でジムを閉鎖する必要があったときに、Advagymの新機能『自宅でのトレーニング指導コンテンツ配信』が寄与しました。この機能を追加したからこそ、ジムの営業が再開するまでの期間、会員さまとつながりを保ち続けました。

最後の3つ目はイングランドのAneurin Leisureというジムです。

このジムではチェックインのときにもAdvagymに付随している専用のセンサーを利用します。そのチェックインと同時に、会員さまは様々な情報を参照することができるようになります。

例えば、トレーニングルールだけではなく、そのフィットネスクラブでのルール、禁止事項、現在の混雑状況も把握することができます。そうすることで、コロナ禍であっても、会員さまは安心、安全に施設を利用することができます。

ヨーロッパのフィットネスクラブの年間チャーンレート(解約率)は平均で25%と言われています。AneurinLeisureは元々9%という素晴らしい数字を示していましたが、Advagymの導入から4ヶ月でこれを6.8%というまさに驚異的な数字まで落とすことができた、つまり、Advagym導入により継続率を高めることに成功した事例なのです。

—コロナのパンデミックにより困難な状況が続きましたが、どのように乗り越えられたのでしょうか?

2020年はコロナによる施設の閉鎖を余儀なくされる時期が多く大変な年ではありましたが、なんとか会員さまとコミュニケーションを取れる方法はないのかと考える多くのジムに、先ほど述べたような新たなサービスなどが受け入れられ、Advagymを導入いただきました。

また、ジムのデジタルトランスフォーメーションが推進された機会でもありました。私たちも、Advagymのテクノロジーをより手軽に活用できるようにすることに注力しています。

例えば、会員さまはAdvagymのアプリをダウンロードすれば、アカウント設定を一切しなくても、Advagymの基本サービスの利用を開始できる仕様にするような改良もしました。

老若男女だれもがワークアウトを楽しんでもらえるようなサービスやプログラムを検討していきたいです。

—最後に、フィットネスマーケットの拡大に合わせた今後の展望についてお聞かせください。

我々には、Precorという素晴らしいパートナーができました。彼らと手を組むことによって、全世界のフィットネスクラブにAdvagymを広げていきたいと思っています。

このAdvagymの強みとして、スケーラビリティ(広がりやすさ)があります。各フィットネスクラブがどのような年代のどの種類のマシンを利用していても、Advagymのセンサーを後から設置するだけで簡単に導入することができるからです。

つまり、わざわざマシンそのものを入れ替える必要がなく、手間もコストも抑えられるのです。

さらに、多言語対応を引き続き継続すること、様々なタイプのジムやトレーニングに対応していくことも、今後の普及には欠かせません。我々も進化し続けることで、それを実現させていきます。

そして、エンドユーザー向けに数多くのヒット商品をリリースしてきたソニーのノウハウをフィットネスやヘルスケア領域に振り向けることで、この業界の将来は明るくなると信じています。

まだまだフィットネス業界では会員さまのトレーニングや行動のデータを利用し始めて間もない段階です。いわゆるアーリーフェイズにあります。これらのデータは非常に大きなパワーをもっています。

今後2~3年後に、データを有効活用しているフィットネスクラブが、会員さまにより大きな価値を提供できる時代になっていくと思います。我々もそれをお手伝いするパートナーとして尽力していきます。

—Jonasさん、本日はスウェーデンから貴重なお話をありがとうございます。

12 月1 日~ 3 日、東京ビックサイトにおいて開催される「SPORTEC2021」にて、Precor(プリコー)は、2022 年発売の新マシンや新カラーでイメージが一新した各種ラインナップ展示の他、自社ブース内にて各種セミナーを毎日実施。Advagym は製品セミナーの実施と実際に使って機能をお試し頂けます。

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