日本の少子高齢化が進むなか、ウェルビーイングな社会の実現のために運動を通じて健康的な生活習慣を各々が意識することが求められている。
従来型の民間フィットネスクラブに通う選択肢のほかに、医学的要素を取り入れた「メディカルフィットネス」というサービスもある。
日常的な運動量が極端に減少すると、身体に不調をきたしやすいことを実感した人は多いのではないだろうか?
フィットネスクラブが健康産業の中心を担うには、「医学」と「運動」を連携させて、そのような人たちの課題を解決し、健康長寿を実現するサポートをできるようになる必要があろう。
実際にメディカルフィットネス施設を運営していない事業者であっても、知識として頭の片隅に入れておくことで視野が広がるよう、本記事を執筆した。
今後、競合フィットネスクラブと差別化を図るべく取り入れたい場合にも、ぜひ活用いただきたい。
メディカルフィットネスとは
まずは、メディカルフィットネスについて簡単に整理していく。
その定義や範囲については、日本メディカルフィットネス研究会、一般社団法人メディカル・フィットネス協会およびメディカルフィットネスナビからの引用を中心に記載していく。
以下がそれぞれのリンクである。
興味のある人は、本記事を読了後にサイトを閲覧するといいだろう。
日本メディカルフィットネス研究会
https://www.medical-fitness-jp.com/
一般社団法人メディカル・フィットネス協会
https://mfa.or.jp/
メディカルフィットネスナビ
https://medicalfitness-navi.jp/
メディカルフィットネスの定義
メディカルフィットネスは、日本メディカルフィットネス研究会により、以下のように定義されている。
- 狭義では、医療機関が運営するフィットネス。
- 広義では、医療的要素を取り入れたフィットネス。
つまり、医療機関または医療機関が運営する施設だけでなく、一般のフィットネスクラブや公共の体育館でも、医療的要素を取り入ればそれは立派にメディカルフィットネスと呼べるものであるということになる。
弊社発刊の「FitnessBusiness」や「月刊NEXT」を購読するフィットネス施設運営者の誰しもが、取り入れることができる。
メディカルフィットネスの範囲
メディカルフィットネスは医療色の強いものから並べると「リハビリルーム」、「デイケア」、「42条施設(疾病予防施設)※1」、「指定運動療法施設※2」、「デイサービス」、「運動型健康増進施設※3」まで、非常に幅広い範囲をカバーしている。
これらに加え、様々な規模の医学的要素を取り入れたフィットネスクラブやパーソナルジムなども含まれる。
※142条施設(疾病予防施設)
医療法人が運営する附帯業務として「疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設」
※2指定運動療法施設
厚生労働大臣認定の「疾病の治療のための運動療法を行うに適した施設」
施設利用者の会費など利用料が「医療費控除の対象」となる。
※3運動型健康増進施設
厚生労働大臣認定の「健康増進のための有酸素運動を安全かつ適切に行うことのできる施設」運動型のほか、温泉利用型および温泉利用プログラム型もある。
また、メディカルフィットネスで提供するサービスの範囲は、図のように「リハビリ」「介護ケア・介護予防」「生活習慣病改善」「メタボ・ロコモ予防」「一般、健康維持・増進」「アスリート強化、パフォーマンス向上」と非常に幅広い分野に及ぶ。
このように、メディカルフィットネスの対象になる範囲はとても広い。
自社で取り入れる際は、どの領域を重点的に行うのかを会員さまの属性に応じて定める必要がある。
メディカルフィットネスの特徴
一番の特徴は、特定の目的をもって入会する会員さまが多く、退会率が民間のフィットネスクラブと比較したときに著しく低いことだ。
有識者の話では、民間のフィットネスクラブの退会率の約1/5になるという。
そして、運動療法のほかに栄養指導、保健指導などの付随サービスが医師や看護師、理学療法士、管理栄養士といった各分野の専門家によって提供されるため、安心・安全に施設を利用することができるのも強みだろう。
医学的エビデンスに基づく指導が行われるうえで、流れとしては以下のような順番で行われる。
- メディカルチェックおよびバイタルチェック
- 体力測定
- カウンセリング
- 運動プログラム作成
- 運動指導実施
- 再度の体力測定
- フィードバック
より付加価値の高いサービスを提供するうえで、専門家との連携が不可欠であることが見て取れる。
メディカルフィットネスのトレンド
ここまで、メディカルフィットネスの定義や特徴について見てきたが、現在どのようなトレンドが生まれているのだろうか?
国を始めとした行政、施設の運営者、利用者という3つの視点から、メディカルフィットネスの動向を見ていく。
メディカルフィットネスに関連する法整備の歴史
以下、平成以降のメディカルフィットネスに密接に関係する法整備の流れとなる。
1992年:指定運動療法施設利用に伴う医療費控除の適用
1992年:疾病予防施設の承認(医療法42条施設)
1996年:高血圧症に対する運動療法指導管理料新設
2000年:健康日本21策定
2003年:健康増進法施行
2008年:高齢者の医療の確保に関する法律施行
2011年:スポーツ基本法施行
2013年:健康日本21(第二次)策定
出展:医療機関と健康運動指導士等との連携による運動療法の在り方に関する調査・研究報告書(undou_ryouhou.pdf (health-net.or.jp)
国としても膨らみ続ける医療費の削減のため、試行錯誤を繰り返していることが見て取れる。
今後も高齢化が進行していくことは必至で、世の中からのニーズはそれに比例してますます増加するであろう。
メディカルフィットネス施設数の推移
メディカルフィットネス施設は1980年代から全国に広がった。
先ほども触れた健康増進法の2003年施行もあり、健康意識の高まりを受けて取り組む施設が増えた。
医療機関が開設・運営する42条施設は約250施設と推定されている。2017年時点では約220施設とされていたため、その数は増か傾向にあるようだ。
また、一般のスポーツクラブなどを含む334施設が「運動型健康増進施設」に認定されている。
「指定運動療法施設」については221施設が認定されている(2021年11月25日現在)。
人口動態とメディカルフィットネス利用者層
まずは、2020年時点での人口ピラミッドを確認する。
出典:人口ピラミッド|国立社会保障・人口問題研究所(https://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/PopPyramid2017_J.html)
このように団塊の世代である70代が突出して多く、その後は団塊世代ジュニアの50代の人口が多い。
アスリートのコンディショニング目的でメディカルフィットネスが利用されることもあり、そのカバーする範囲は広いが、やはり一番利用シーンとして多いのは一般の中高年層に対する健康増進である。
70代、60代、50代という順番に利用者が多いメディカルフィットネスは現在も活況ではあるが、20年後にあたる2040年にも、もう一つのピークが来ることが見込まれる。
メディカルフィットネスの具体的な事例
最後に、メディカルフィットネスの具体的な事例について、フィットネスビジネスおよび月刊NEXTの編集部で取材した施設の取り組みを紹介する。
一般財団法人三宅医学研究所
香川県高松市に施設を構える。
50~80代の人たちが利用者で、男女比は1:2で女性の方が多くなっている。健康診断の直前に参加可能な一ヶ月短期会員のキャンペーンも人気となっている。
YouTubeチャンネルの運用、フィットネス事業管理システムの内製化など、同領域における力の入れ具合が見て取れる。
フィットネスプログラムは一定のテンプレートはあるものの、個人に応じてカスタマイズが可能で、その人に最適なプログラムを提供している。
水中運動療法を動画で見える化する「水中ドローン」や、ランニング・ウォーキングフォームを可視化する「ORPHE TRACK」も導入に向けて取り組んでおり、デジタル技術の活用に積極的である。
医療法人社団和風会
メディカルフィットネス施設を青梅、武蔵境、所沢の3箇所で運営しており、医師・フィットネススタッフなどの専門家がチームとなって、内科系、整形外科系などに不安がある人、若年層から高齢者まであらゆる世代の人に利用可能な施設となっている。
和風会の予防医学に基づくメディカルフィットネスでは、まず併設されている医療施設で血液検査・心電図・尿検査などのメディカルチェックを行う。
その後、健康運動指導士などが体力測定・行動変容カウンセリングなどのフィットネスチェックで個々の身体の状態を把握する。
その結果に基づいたオーダーメイドのプログラムを作り、マンツーマンでの健康習慣の指導とトレーニングの実践フォローをしていく。
1回30分、全10回コースが基本となっている。
継続率は驚異の70%以上。
継続している方はメディカルチェックの数値も年々向上しているという。
医療法人社団心和会
シンワメディカルリゾートは、医療法42条の施設として厚労省にも認定されている、従来の健診施設に対する既成概念を超えた医療リゾート。
心身を癒せるスパトリートメントなどが受けられるほか、メディカルフィットネスで健康プログラムを実践しながら、人間ドック・健康診断が受けられる。
本施設で展開されている「シンワメソッド」は、質の高い医学・運動生理学の論文をもとに医師を含む専門家チームが研究を重ね、開発された。
医師と専任のフィジカルトレーナーが密に連携を図り、会員様の「現状把握」もメディカル的観点とフィジカル的観点双方からチェックするのが特徴となっている。
各種マシンを用いたプログラムや、仲間と楽しく運動ができるグループレッスンなどを幅広く提案。トレーナーにより作成されたこれらの運動プログラムは、施設内の各マシンや各自のスマホアプリとも連携しており、運動が苦手な方でも習慣化しやすい工夫がなされている。
株式会社桜十字
介護予防、自立支援、認知症予防など、『予防』を中心に据えたサービスを提供している株式会社桜十字が手掛ける『Let`sリハ!』は、国家資格である理学療法士、作業療法士がそのメソッドを開発している。
地域包括センターや自治体、高齢者相談センターのケアマネージャーとの情報共有を密にし、症例の特性を理解しながら、適切な運動をする事により、筋力向上、歩行や動作の安定度が増す。
『Let`sリハ!』では、利用者の方の機能改善に特化しているトレーニングプログラムが特徴で、1回3時間程度のグループエクササイズや、マシントレーニング・個別トレーニングによりそれを実現している。
まとめ
以上、メディカルフィットネスについてまとめてきた。
まずは、フィットネスクラブであれば栄養管理など、広義のメディカルフィットネスに含まれるなかでも取り入れやすい分野で取り組むとよいのではないだろうか?
その先は、やはり医療関係者との連携が必要不可欠になるが、差別化戦略としては優位に働くことはまず間違いないだろう。
今後の社会的なニーズの変化に、フィットネスクラブもいかにして対応していくかが問われ続けるに違いない。