株式会社エスジーティー(以下、エスジーティー)は2021年10月1日にSPINE CONDITIONING STATION( 以下、SCS)をオープン。エスジーティーは、医療機器メーカーである日本シグマックス株式会社(以下、日本シグマックス)の関連会社で、同グループとして医療機器の販売以外の領域で新規事業の立ち上げを模索していた。そして、約2年の準備期間を経て、「腰痛難民の終着地点」を目指して店舗を構えるに至った。腰痛に特化するという独自のポジショニングを築いたメディカルフィットネスの取り組みに迫る。
腰痛専門コンディショニング施設を開設した背景とは
仁科倫抽氏は日本シグマックスにて約10年、医療機器を中心とした研究開発および新商品の企画を行ってきた。そのなかで、商品の企画開発以外のビジネスも立ち上げる構想が生まれ、このたび腰痛専門のコンディショニング施設を、恵比寿・広尾エリアにて開業した。運営はエスジーティーのもとで行うため、仁科氏もそれに合わせて同社へ出向し、SCSの運営責任者を務めている。
厚生労働省が2015年に出している国民生活基礎調査によると、日本国内における腰痛の患者数は2,800万人と推定され、日本国民のうち約4人に1人が該当すると言われている。そこで、一般社団法人日本身体機能研究会(以下、身体機能研究会)と連携し、腰痛に対しての運動療法を日本に広めるというミッションを達成するべくスタートした。腰痛の権威である金岡恒治氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)と成田崇矢氏(桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部スポーツテクノロジー学科教授)が運営に参画しており、医学的に立証された運動療法をサービスの強みとしている。
腰痛の種類と SCS が対応する範囲
腰痛には大きく2種類ある。1つ目は骨や関節の変形によって起こる腰痛。例えばヘルニアや脊柱管狭窄症などがそれにあたる。そしてもう1つが、変形の前に骨や筋肉にストレスが掛かることによって起こる腰痛。腰痛患者全体のうち、前者が2割、後者が8割と言われているが、SCSがカバーするのは後者である。ただ、前者についても、金岡教授と成田教授による特別プログラムを受けることもでき、医療機関に紹介することもできる。
「私は、腰痛を抱えられている人に対するイメージとして、痛みの強さに対する悩みが大きいと考えていました。しかしそれ以外にも、痛みはさほど強くなくとも腰痛である期間が長いことに対する悩みも大きいということがわかってきました」と仁科氏は説明する。
SCSでは、金岡教授と成田教授によって分類された腰痛の種類に応じて、適切な運動療法を提供する体制が整えられている。
医学的に腰痛へアプローチする SCS のサービスの特長
施設のスタッフは理学療法士、柔道整復師、鍼灸治療師などで構成され、「治療院」としての届出をしている。ただ、コンディショニングスタジオという位置づけが実態に即している。完全自費で腰痛に特化した運動療法を提供している。
現状の腰痛治療は対症療法など原因を突き止めない漠然とした受け身の治療が多く、自分の体のどこに負担がかかっているのかを意識しないまま治療を終える。これにより知らず知らずのうちにふたたび腰に負担をかけ続け、やがてまた痛くなるという負のスパイラルが続いている。
SCSではお客さまの腰痛の根本の原因を突き止め、それを解消する適切な運動療法を行う。しかも、お客さまには指導したエクササイズを紙や動画のかたちでお渡しし、セルフコンディショニングが日常的に行えるようにしている。基本的に1ヶ月(合計4回)か、3ヶ月(合計12回)のコースを選択し、エクササイズを自分で行えるようになるまで通うのがゴール。1回当たり12,000円と決して安くはないが、その代わり根本を解決するため、長い時間軸で見るとコストを抑えられる可能性の方が高い。3ヶ月コースが終わる前にエクササイズをマスターすれば、最初の4回分を除いて返金の受付もしているので安心だ。
お客さまを腰痛の悩みから解放するまでの流れ
それでは、具体的にどのような流れで腰痛を取り除いていくのだろうか。大きく分けて以下の3ステップで構成されている。
- コンディションチェック
- 疼痛療法テスト
- エクササイズ
1のコンディションチェックでは、お客さまの抱えている悩みをヒアリングしたうえで、姿勢や動作の確認を行う。腰痛は腰にのみ原因がある場合以外に、腹筋やハムストリングスなどの周辺にある筋肉の可動性の低さや使い方に問題がある場合もある。ここである程度の原因に目星をつける。
次に2の疼痛療法テストで、腰痛の根本原因を明らかにする。痛みを感じる部分と動作を突き止めるテストで、例えば背骨同士がぶつかってしまうことが原因であれば、それらがぶつからないようにトレーナーが手で動きをブロックしたうえで動作を行ってもらい、痛みの有無を確認する手法である。ここまでを初回時に終わらせる。
最後の3で運動療法に移る。痛みの部位や分類に最適なエクササイズを複数回に渡ってお客さまが覚えられるまでじっくり教えていく。
「我々のサービスは料理教室に似ていると思っています。ただ料理を提供する(治療をする)のではなく、作り方(セルフコンディショニングのやり方)を教えていくことに重きを置いているためです」と仁科氏は話す。
編集部でも体験を行ったが、今まで意識したことのない筋肉の使い方を、解剖図ツールである「アトラス」を用いながら丁寧に指導してくれた。
腰痛歴が長いお客さまも 納得の効果を実感
SCSは最初の集客として、クラウドファンディングを利用している。目標金額に対して200%以上のサポートを実現している。今後も、一般のフィットネスクラブも含めて、初期の集客として有効なツールといえるだろう。
その効果で、恵比寿・広尾周辺の居住者や勤労者のみならず、都内の腰痛に悩む人たちがすでに足を運んでいる。すでに悩みが顕在化していて、それが深刻であれば、アクセスに時間が掛かる場合でも顧客を獲得できるという好事例だ。ターゲット層は50 ~ 60代の現役世代。現状は男性の利用者の方が多い。近年、テレワークの普及によっても、腰痛に悩む人が増えているため、SCSはまさに時流に合ったメディカルフィットネスである。
SCSに通っているお客さまのなかには、腰痛を20年以上抱え、複数の治療院にも通っていたという人も訪れている。腰痛の原因を特定することができ、運動療法にも効果を実感したため、4回のコースに追加で12回の申し込みを行っている。今後はセルフコンディショニングができるように、指導を継続していく。
アスリートであっても、アウターマッスルが発達している一方でインナーマッスルの使い方がわからない場合がある。それを可視化するために、運営会社のエスジーティーが取り扱う、モバイル超音波診断装置(エコー装置)も設置している。使い方がわかることによって、改善するタイプの腰痛もあるのだ。そのほか、ハンディなマッサージ機であるCOMPEX FIXXや、6方向の筋膜リリースを行えるテーピングである6D TAPEなど、医療機器メーカーの強みを活かした豊富なラインナップも取り揃えている。そのような点も、お客さまに支持されている要因であろう。
SCS が目指す今後の姿
現在、運営責任者の仁科氏のほか、4人のトレーナーによって施設を運営している。メディカルディレクターである金岡氏と成田氏も月に1、2回ほどは同施設を訪れる。今後もさらにトレーナーを増やしていくが、専門性の高い人材に厳選する。具体的には身体機能研究会が認定する腰痛運動療法指導士については必須となっている。これを認定するのも、両教授の仕事だ。そのほか理学療法士や柔道整復師の資格を保有していると望ましいという。
最終的なゴールとしては、「腰痛難民の最終地点」となること。腰痛を抱えるものの、根本を解決してくれる施設に巡り合えていない人たちを「腰痛難民」と定義し、その人たちの拠り所となり、まずは広尾の地で腰痛に適切な運動療法を広めることで、彼らを救っていく。