小宮克巳氏による新連載。長年の現場での経験と、ビジネスへの鋭い洞察から、フィットネス業界に対して本質的な切り口で示唆を与える。

記念すべき第1回は、フィットネス業界を俯瞰しつつ、今こそパーパスに立ち返るべきだと主張する。

連載執筆までの経緯

「お前の経験と知見を『フィットネス産業論』と題した書籍として残すべき。それができる、業界でも稀有な存在なのだから」

前々職の上司であり、私も講師を務めたクラブビジネスジャパン主催「中嶋経営塾」学長、中嶋良一氏(株式会社フィットネスマネジメント代表取締役社長、2020年2月に他界)から生前に投げ掛けられた宿題である。インストラクターとして業界に飛び込み、一時は業界を離れフィットネス業界を顧客とする商社に勤務、その後クラブ支配人として業界復帰し大幅赤字を背負う不採算店舗を黒字化。そして、中嶋氏の下でフィットネスビジネスの基礎を学び、直近の前職19年間では企業経営、基幹事業に携わりながら5つの新規事業を創出。この経験を一冊に纏め、後進への道筋とすべし、こんな意図が込められていたのでしょう。

そしてもう一つ、自身を突き動かしたのは、フィットネス業界には特化した経営・マネジメントの理論書が存在しないことでした。 

そこで、本誌で1年間連載を続け、終了後に加筆し1冊の書籍に纏めたいと考えています。ただし、私はアカデミアではないので理論を述べるのではなく、経験に基づく「実践知」を加えてのフィットネス産業論とします。初回は「パーパス」をテーマに、コロナ禍を迎えたフィットネス産業のリ・スタートついて持論を展開します。

マーケティング不在の時代

05年のカーブス、10年のエニタイムフィットネスの国内1号店出店以降、それまでいわゆる総合型クラブ、もしくはジム+スタジオ型クラブのみで構成されていた日本のフィットネス業界で業態の多様化が加速しました。新たに登場した小規模業態は市場をデモグラフィック、サイコグラフィック、行動属性など様々な要素でセグメンテーションし、そのなかから顧客層となる集団をターゲティングし、業界内でのポジショニングを明確にしました。詳細は次号以降で記しますが、このプロセスこそマーケティングにおける初期プロセス「STP」といえます。本来のマーケティングプロセスにおいては、このSTPを経た後、マーケティングミックス(MM)と呼ばれる4P(商品開発:Pro