長年、海外のフィットネス・ビジネスに携わり、大学でも教鞭をとっている小倉乙春氏に、欧州フィットネス事情について語っていただく。英国ウェルビーイング政策とスポーツ・イングランドの新10年戦略について紹介する。

はじめに

英国文化メディアスポーツ省には、草の根や地域スポーツなどを担当するスポーツ・イングランド(以下、SE)とオリパラを中心にトップアスリートを統括するUKスポーツという2つの組織が存在する。本稿では、SEが2021年1月に公表した2030年までの10年間に及ぶ新スポーツ戦略を公表したので、内容を解説していく。

2.英国におけるウェルビーイング政策

英国政府は、ウェルビーイングを意思決定の枠組みとして確立するための重要なステップを踏み出している。英国国家統計局は、2010年に国民のウェルビーイング測定プログラムを開始した。

ウェルビーイングは日本語では「幸福」や「幸せ」あるいは「福祉」(SDGs 3の場合)と訳されているが、英国国家統計局はウェルビーイングについて

「個人、コミュニティ、国家として良好な状態にあることで、それが将来的に持続可能であること」

としている。また、幸福感、自分の活動に価値があると感じるか、家族関係に満足しているかといった主観的な尺度と、平均寿命や教育達成度など客観的な尺度で測ることができるとしている。社会的ウェルビーイングとしては、教育と技術、経済状況、政府への信頼度、環境、仕事やボランティアなどの活動、個人のウェルビーイング、居住場所、健康、人間関係などが要素であり、これらの改善が社会全体のウェルビーイングの向上につながると捉えている。

ウェルビーイング を政策目標にすることには2つの利点がある

(1)人々を中心としたもの

・政策プログラムが人々の生活や彼らにとって重要なものに与える影響を評価する(抽象的な概念/ GDPなどではなく)。
・人を中心としたきめ細かなレベルのデータを提供することで、不平等や経験の多様性を強調する。

(2)包括的、結合的アプローチ

・個人、コミュニティ、国家のウェルビーイングの価値を認識し、人々の生活や相互関係のより完全な姿を提供する。