2022年7月28日、SPORTEC東京2022にて西根塾ミニセミナーが行われた。同セミナーは、フィットネスをベースにニュービジネスを創造することを目的に、西根英一氏と古屋武範を講師に迎える。

西根 英一氏
株式会社ヘルスケ・ビジネスアナレッジ
代表取締役社長

ミニセミナーは、西根塾のプレオープン講座として、開催された。今、西根塾が行われる背景はこうだ。

コロナ禍、世界中に未だに健康被害および二次的な被害が広がる一方で、各国からフィットネスの科学的エビデンスが示された。生活者にとって、フィットネスがエッセンシャルなものであるとの認知も広がった。しかし、フィットネス事業者が生活者の健康づくりに貢献し、ビジネスとして成長するところまで至っていない。そこで、生活者が抱える様々な課題に、フィットネスをベースとして足し算、引き算、掛け算、割り算をしながら、ニュービジネスをつくりあげようというのだ。

新規事業においては、ターゲットが行動変容を起こすように適切に働きかけることが重要だ。そのためには、目的行動を獲得する必要がある。例えば、生活者が「フィットネスクラブに行きたい」という興味・関心をもってから、実際に足を運ぶという行動変容を引き起こすということだ。しかし、目的行動へ向けた行動変容を起こすように促すことは容易ではない。

では、どのように目的行動を獲得したらよいのだろうか。西根氏は、ターゲットを考える際、地域ごとのニーズを探索する必要があると指摘する。なぜなら、地域には地域の物差し、雰囲気があるからだ。つまり、東京など都市部での成功モデルを地域にそのまま落とし込むのではなく、地域の特性に合わせることで、ターゲットの特性に沿うことができる。それにより、目的行動が獲得しやすくなるのだ。その方法として、西根氏自身は、ローカルラジオを聴きインサイトを把握している。ローカルラジオには、地域の課題、疑問、話題など(目に見える顕在的ニーズ)を解決するニーズのヒントが多い。顕在化ニーズとは、しばしば、海に浮かんでいる氷山の、水面上に見えている部分に喩えられる。この把握にはアンケート調査などが用いられるが、場合によっては表層のみしか捉えていないビジネスにつながることがある。

顕在化しているニーズを掴んだのならば、潜在化しているニーズを把握しよう。これには、不満や不安、不快、負担、負荷など目に見えないペインが該当する。海に浮かぶ氷山の水面下の部分だ。インタビュー調査などで深く掘り下げ、顧客が解決したい真のニーズに辿り着きたい。

新規事業では、見えている氷山(顕在化しているニーズ)に目が行きがちだ。西根氏は、氷山全体を俯瞰するべきだと強調する。水面上(顕在的ニーズ)と水面下(潜在的ニーズ)に応えているのがZoomだ。Zoomは、三密回避という課題に応えながら、人々の三密欲求を満たしている。密集欲求(ギャラリービュー)、密接欲求(スピーカービュー)、密閉欲求(ブレークアウトルーム)などが好例だ。

また、外部環境の調査から4Pの整合性を取る際に、プロダクトアウトか、マーケットインかというテーマも出てこよう。西根氏は、それらアイデアの発想はナッジにかかってくるとする。西根氏は、ナッジ開発の手法としていくつか挙げる。

①リバース法(逆転発想)
表裏や前後、正誤を裏返すアイデア手法。フィットネス業界だと、プログラムの対象を入れ替えるとか、会員とトレーナーの立場逆転など奇想天外なことから浮かぶアイデアをいかす。

②ランダムインプット法(入力発想)
無作為に入力するアイデア手法。フィットネス業界なら、異業種の建築専門誌の目次にフィットネスのキーワードを置換するなどして浮かぶアイデアをいかす。

③アサンプションスマッシング法(破壊発想法)
前提を破壊するアイデア手法。もしフィットネスがなかったら何が起こるか、から浮かぶアイデアをいかす。

アイデアは多様だ。だから色々なアプローチが大切。例えば、紙を折り曲げて立方体をつくる際、完成形は1つだが、展開図は11通りあるように。西根塾は、レクチャーとワークショップ形式で、インタラクティブだ。『ヘルスケアビジネスの図本』(ヘルスケア・ビジネスナレッジ刊)を教科書に行われるため、目を通しておくだけでもインスピレーションが得られるだろう。

『ヘルスケアビジネスの図本(ズボン)』
西根英一著 ヘルスケア・ビジネスナレッジ刊